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映画『ジョーズ』に登場した、巨大で恐ろしい人食いザメに代表されるサメのイメージ。流線型の体と長い背びれをもった、美しいシルエット。
どちらもサメの典型的なイメージだ。しかしそれだけではない。食卓に上るサケやサンマ、アジなどの硬骨魚類とはことなった軟骨魚類であり、もっとも長寿の脊椎動物であり、もっとも速く泳ぐ魚類の一つでもあるサメ。
その特異な生態をサメ研究の第一人者である著者らが詳細に解説する。また、硬骨魚類から分かれ、エイと分岐し、どのように現在の多様性をもつにいたったのか? さまざまな古代ザメを紹介しながら、その進化の道筋をたどる。
さらには世界初の人工子宮によるサメの繁殖を試みている美ら海水族館の研究者ならではの内容として、サメの繁殖にも1章をもうけている。
機能形態・生態・分類・繁殖と、専門的にかつ網羅的に解説した、類を見ない一冊。水族館でも最も人気のある魚種であるサメの総合解説書として刊行いたします。
*本記事は、『知られざるサメの世界 海の覇者、その生態と進化』(ブルーバックス)を再構成・再編集してお送りします。
鎧で覆われた目
まぶたや目を引っ込めるなどの方法で目を守っているサメたちだが、2020年、私たちはジンベエザメの目に関して、一つ面白い発見をした。
そのきっかけは何げないものだった。私は同僚の宮本圭氏と水族館の標本棚の片付けをしていた。標本棚には、貴重な生物標本のほかに、いずれ研究しようと思って忘れ去られた標本が並んでいる。プラスチック製の標本瓶の蓋には埃がかぶり、その埃にはカビが生えている。私たちはそんな標本を一つ一つ取り出しては、蓋をぬぐい、蓋に貼られたラベルを読み、しかるべき場所に収めていく。
その中に、「ジンベエザメ眼球」と書かれた瓶があった。中には、テニスボールくらいの大きさの目玉がホルマリンに浸かっている。瞳の部分には、カッターで大きく2本の切れ込みが入れられている。これは、中にホルマリンが浸透しやすくするための処置で、網膜を研究するために採集されたものであることがわかる。
ジンベエザメの目玉の入った瓶を手に取った宮本氏は、奇妙なことに気がついた。その白目の部分が紙ヤスリの表面のように小さい粒々に覆われていたのだ。その場で彼と一緒に標本を観察した私は確信した。この粒々は鱗だ。そして、これが新発見につながりそうな予感があった。
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