2016年03月15日 09時00分00秒
By Toni
人間を構成する最小単位である「細胞」は、ブドウ糖をエネルギー源としています。人間の成長は「細胞分裂」と「細胞の成長」により成るわけですが、ブドウ糖はこれらのエネルギー源にもなっており、体細胞だけでなくあらゆる細胞分裂の源にもなっていると思われていました。しかし、人間の体内で無限に増殖する「がん細胞」は、通常の体細胞とは異なりブドウ糖ではなくアミノ酸を基に増殖することが明らかになりました。
How cancer cells fuel their growth | MIT News
http://news.mit.edu/2016/how-cancer-cells-fuel-their-growth-0307
人間の体は約60兆個の細胞で構成されており、この細胞は日々生まれ変わっています。これらの細胞は分裂する回数に制限があるのですが、がん細胞にはこの制限がなく、無限に増殖し続けます。このため、体のどこかにがん細胞が少しでも残っていれば、時間と共にがん細胞が増殖し、他の組織や臓器に転移してしまうわけです。
がん細胞を含む細胞分裂では、糖の一種であるグルコース(ブドウ糖)がそのエネルギー源になると考えられてきたのですが、MITの生物学者が行った研究により、がん細胞の分裂で最も大きなエネルギー源となるのはブドウ糖ではなくアミノ酸であることが判明しました。これは、がん細胞のエネルギー代謝を観察することで発見された新事実だそうで、がん細胞の成長・分裂を抑制する新薬を開発するための新たな手がかりになる可能性を秘めています。
「もしもあなたが、がん細胞のエネルギー代謝の観測をしたいなら、実際に生じるエネルギーと使用されるエネルギーがどれくらい異なるかを理解する必要があります」と語るのは、MITの生物学講師であり同研究論文の著者のひとりでもあるMatthew Vander Heiden准教授。
By Yale Rosen
1920年代にはがん細胞が通常の細胞とは異なるエネルギーにより生成されることが知られていました。この現象は、発見者であるドイツ人医師のオットー・ワールブルク氏の名前からとって「ワールブルク効果」と呼ばれています。
ワールブルク氏が発見したのは、がん細胞が酸素呼吸よりも非効率なエネルギー産生である発酵をエネルギー源とすることでした。そして、発酵により生まれたエネルギーはがん細胞が新しい細胞の基礎を作り出すために使用され、大量のブドウ糖が体細胞にとって有害な乳酸塩に変換されると考えられていました。さらに、新しいがん細胞だけでなく、急速に分裂する哺乳類の体内細胞も同じ原理で分裂していると考える研究結果も発表されていました。「哺乳類はさまざまな食品を食べるので、食べ物がどのように細胞分裂に関与しているのかはまだ明らかになっていなかった」とHeiden准教授。
By Tylana
これらを検証するためにHeiden准教授は複数のがん細胞と通常の体細胞を培養皿に入れ、分裂の際に何をエネルギー源にしているのかを観察しました。実験では細胞に異なる栄養素を与え、オリジナルの細胞の変化を観察。細胞分裂の前後で細胞の重さを量ったところ、ブドウ糖・グルタミン・グルタミン以外のアミノ酸を栄養として与えた細胞が体積を大きく増やしていることが分かりました。しかし、ブドウ糖とグルタミンは細胞の大部分の構成にほとんど効果がなかったことが明らかになっており、ブドウ糖で10~15%、グルタミンは10%の効果しかなかった模様。それに対してアミノ酸は細胞の基礎となるタンパク質の構築に大きな影響を与えていることが明らかになり、なんと新しい細胞の20~40%を構築するのに貢献していました。
ユタ大学で生物学の教授を務めるジャレド・ラター氏は「MITの研究チームは、ブドウ糖やグルタミン、その他分子が哺乳類の細胞増殖においてどのような影響を与えるのかを厳格かつ定量的に調査した」とMITの公表した実験結果を支持。実験結果についてHeiden准教授は「細胞はほとんどがタンパク質で構成されているので、これはとても驚きの結果です」とコメントしています。さらに、「もしもレンガの家を建てたければ、泥からレンガを作るところから始めるよりも、大量のレンガを使うところから始めたほうが簡単に家を建てられます」と語り、アミノ酸が細胞分裂のエネルギー源になっているのは「泥からレンガを作るところから始める」ようなものだと表現して、がん細胞がアミノ酸を使う特異性を指摘しています。
By Open Grid Scheduler / Grid Engine
「がん細胞が分裂時にアミノ酸を消費する」ことが明らかになったわけですが、なぜ人間の体細胞が分裂時に大量のブドウ糖を消費するのかは不明なままです。
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