“先進国”に遅れをとる日本の医療現場のIT化 在米歴18年の日本人が語る、NYヘルステックシーンの現在
アメリカでスタートアップが盛んな地域と言えば、まず始めに思い浮かぶのは西海岸のシリコンバレー。一方、東海岸でもニューヨークのマンハッタンを中心にシリコンアレーと呼ばれるエリアが、ハイテク産業の集積地として現在注目を集めています。
そんな中、平成28(2016)年2月3日に、福岡市中央区今泉にあるクリエイティブセンター福岡(CCF)で、ニューヨーク医療テック系スタートアップと福岡の医療現場のマッチングを目的とした「NewYork Tech Startups x Future of Healthcare」というイベントが行われました。
そもそも発端は、昨年12月に福岡市が開催した「医療×IT・ゲーム」交流会にさかのぼります。交流会は、九州医療センターをはじめとする医療関係者の方々から、ゲームやITなど福岡で盛り上がりを見せている業界とタッグを組めば医療機関が抱える課題を解決できるのでは、というなんとも“福岡らしい”提案がきっかけで実現したもの。その交流会に参加していた福岡ITコミュニティメンバーらの呼びかけで今回のイベントに繋がっていったのだとか。
このイベントでは、ニューヨーク発の医療系スタートアップ「ZocDoc」の社員であり、在NY日本人向けミートアップイベント(SNSなどを通じて呼び掛けを行う会合)なども積極的に開催している奥西正人さんが登壇。一時帰国の際に福岡に立ち寄ることとなり、今回のイベントが実現したのです。
奥西さんは、金融とエンターテインメントの街として歴史を持つニューヨークが、西海岸のシリコンバレーとは異なるさまざまなスタートアップを生み出している背景や特に近年急成長中を見せているヘルステック分野について、最新の動向を紹介。
アメリカでは現在、医療保険制度改革=“オバマケア”の後押しを受けたヘルステック分野が急成長。医療保険をオンラインで提供するOscar(オスカー)や、ダイエット支援アプリのNoom(ヌーム)、自分が行きたい病院を地域別や使える保険の種類、医師評価の口コミなどから選んでオンライン予約ができるサービスZocDoc(ゾックドック)など、市民生活に根ざしたサービスが続々と成長しているとのこと。
「人口密度が高く、新しいサービスが受け入れられやすいニューヨークは、テスト環境にも最適の場所です。ヘルステックを始めとするニューヨーク独自のユニークなサービスが、今後さらに増えてくると思います」(奥西さん)
次に、九州医療センターの原田直彦医長、太田光彦医師によるプレゼンテーション。まず原田医長がシミュレーターの必要性を説き、続いて外科手術を担当している太田医師が、実際の開腹手術の映像を見せながらそれがいかに難しいかを解説。その上で、太田医師は「困難な手術を完遂するスキルを向上させるためには、ITを用いた優秀で安価なシミュレーターの導入が必須」と切実に訴えます。
ふたりのプレゼンに続き、マイクを握った九州医療センターの村中光院長は、日本の医療業界の問題をこう指摘します。
「日進月歩の医療の世界において、医療現場のIT化はとても立ち後れているのが現状です。今日のような会をきっかけとして、ITに親和性の高いこれからの世代が、さまざまなアイデアを医療業界に持ち込んでいただければと思っています」
今回のイベントは、参加者からも「異なる業界の方々がこうした場所で出会い意見交換ができるのは、人との距離が近い福岡ならではだと思います」との感想が漏れるなど、有意義なものとなりました。
また奥西さんは、福岡のスタートアップシーンについてこう語ります。
「NYのスタートアップシーンをブルームバーグ市長が牽引したように、福岡のシーンも若い高島市長の推進力で注目が高まっていると感じます。東京よりもアジアに近い福岡の地の利を生かし、アジアのスタートアップシーンの中核を担うような積極的な動きに期待したいですね」(奥西さん)
今後、福岡のITコミュニティでは、医療業界だけでなく、ニューヨークの各コミュニティ(スタートアップ、アート、エンタテインメントなどのカルチャー界隈)と交流を深めていく予定だそうです。福岡での関連イベントも実施されるかも……ご興味のある方はお見逃しなく!!
【プロフィール】
MASA Okunishi(奥西正人 おくにし・まさひと)さん
大阪府出身。平成9(1997)年に語学生としてアメリカ南部に渡米し、その後大学へ進学。卒業後はIT通信業界にてエンジニアならびにマネージャーとして10年以上のキャリアを積む。平成23(2011)年、念願の世界一周の旅を行い、その後ミートアップの出会いをきっかけに、医療系スタートアップZocDocに勤務。現在は日本とニューヨークのテクノロジーを応援するJapan NYC Startupsグループを中心に活動中。
MASA Okunishi(奥西正人 おくにし・まさひと)さん
大阪府出身。平成9(1997)年に語学生としてアメリカ南部に渡米し、その後大学へ進学。卒業後はIT通信業界にてエンジニアならびにマネージャーとして10年以上のキャリアを積む。平成23(2011)年、念願の世界一周の旅を行い、その後ミートアップの出会いをきっかけに、医療系スタートアップZocDocに勤務。現在は日本とニューヨークのテクノロジーを応援するJapan NYC Startupsグループを中心に活動中。
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