2016年6月22日水曜日

全国で「自殺が多発している駅」ランキング


佐藤 裕一
10年間で30件を超す自殺が発生している駅エリアは全国6カ所(写真:hamazou / PIXTA)

前回の記事では、鉄道自殺数を全国346路線別に公開した。では、鉄道自殺が多発しているエリアはどこなのか。全国で鉄道自殺(未遂を含む)が発生した駅(構内・駅間)を集計した結果、全国ランキングの最上位を占めたのが、以下の駅を含むエリアだった。集計期間は2005年度から2014年度までの10年間。上位6カ所はいずれもJRの駅で、関係する駅間での自殺も含めた。

西八王子駅(東京)……39件
桶川駅(埼玉)…………34件
川崎駅(神奈川)………31件
新小岩駅(東京)………30件
新宿駅(東京)…………30件
八王子駅(東京)………30件

近年「自殺の名所」として有名になってしまったJR新小岩駅でも、全国4位タイ。西八王子や桶川が東京中心部からやや離れていて、あまり目立たない要因もあるかもしれないが、問題は、新小岩駅と同水準で多発しているエリアが複数存在するということだ。鉄道における自殺問題が、想像以上の広がりをみせていることを意味する。

これらの数字は、国土交通省が事故情報の詳細をまとめた「運転事故等整理表」のうち、自殺の発生場所の登場件数だ。A駅で1件、A駅〜B駅間で1件の自殺がおきたとき、A駅は2件という集計になる。ランキングは2014年までの過去10年間で5件以上の自殺が発生した521駅を掲載した。

八王子エリアで相次ぐ発生

広がりを具体的に見てみよう――。西八王子駅と八王子駅は隣接しており、東京駅側から見ると、豊田駅、八王子駅、西八王子駅、終点高尾駅と続く。八王子駅の30件と西八王子駅の39件を合わせた69件というのは、両駅構内での自殺に、豊田〜八王子、八王子〜西八王子、西八王子〜高尾の各駅間での発生分を加えた数だ。

豊田駅の登場件数が10件、高尾駅は11件であることから、西八王子駅と八王子駅のエリアで自殺が多発していることがわかる。

2位の桶川エリアも相当ひどい。桶川駅の登場回数は上記のとおり34件だが、隣接する北本駅も24件登場しており、両駅が関係する自殺は10年間で計58件におよぶ。新小岩駅が関係する自殺のほぼ倍である。

JR東日本によると、新宿駅は1日平均約75万人(14年度)が乗車し、同社の乗車人数のランキング第1位の駅だ。川崎駅は20万人で第10位。このような大規模駅が関係する自殺が10年間で30件程度だから、八王子駅(乗車人数8万5000人)や新小岩駅(同7万2000人)、西八王子駅(同3万1000人)、桶川駅(同2万6000人)、北本駅(同1万9000人)のエリアでの自殺件数が、いかに突出しているかがわかる。

隣り合う駅として日本最悪の鉄道自殺エリアである八王子〜西八王子駅付近の状況を、仮に「八王子基準」と名付けてみよう。定義としては、両駅とさらにその両隣、4駅以上連続して自殺が10件以上となるエリアだ。豊田〜高尾エリアの自殺件数は90件に及ぶ。

中央線では三鷹〜武蔵小金井エリアもこの基準に達していたが、自殺の合計件数は52件で、西八王子駅のように突出して多い駅は存在しなかった。

品川〜鶴見間は6駅連続10件超

「八王子基準」を超える、6駅連続して10件以上となったのは、品川〜鶴見エリアだ。川崎駅には東海道線、京浜東北線、南武線の3線が乗り入れているが、同駅が関係する31件の路線は考慮していない。同エリアでの自殺件数は計120件に達する。

さらに異常なのは、やはり、近年人身事故が多発している東武東上線だった。自殺件数が6駅連続して10件以上となったエリアが、大山〜下赤塚エリア(6駅・計81件)と柳瀬川〜新河岸エリア(同・計84件)の2か所もあった。

東武東上線は人身事故が多発している

2エリアの自殺件数の合計は165件。1駅ごとの件数は西八王子や桶川より少ないが、これほど連続しているのは、同エリア周辺で何か起きていると考えざるをえないだろう。

東武東上線の異常さを示すもう一つの証拠が、自殺件数の多い駅に占める割合だ。自殺の登場件数10件以上の駅は全国で124駅あり、JRが93駅、私鉄が31駅だった。東武東上線の駅は、私鉄31駅の約4割にあたる13駅が入り、うち12駅が上記の多発エリアだ。

また、首都圏の主要私鉄は東武のほか、東急、西武、京王、小田急、京成、相鉄、東京メトロがあるが、会社別で見ると、登場件数の上位にランクインした私鉄31駅のうち、半数以上の17駅が東武だった。

自殺対策には情報公開が必要

では、東武東上線の上記エリアで、一体何が起きているのか。原因を知りたいところだが、鉄道自殺の集計からは、これ以上のことはわからない。政府の情報公開が足りないからだ。

警察は自殺の一つひとつについて、遺書など動機を裏付ける資料がある場合は、動機を記録し続けている。手段や場所の記録もあり、警察庁に蓄積されている。原因を分析し、きめ細かな対策を検討するためには、このデータ(となってしまった人々の状況)の公開が必要だ。

政府がこの膨大なデータを匿名処理して公開すれば、より効果的な自殺対策が生み出され、鉄道の安定輸送や利用者の安全だけでなく、社会全体の福祉の向上につながるだろう。必要なのは情報公開なのだ。

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