2021年12月5日日曜日

古くて新しい「重力蓄電」は日本でも普及する? ベンチャーが新発想で参戦

 


EnergyShift編集部

再エネの拡大と同時に必要になってくる調整力として今注目を集めている「重力蓄電」。位置エネルギーを使ったこの古くて新しいバッテリーとは。

再エネ拡大に必須の調整力

再生可能エネルギー、自然エネルギーが拡大するためにはその調整力が必要になる。再生可能エネルギーが多くなればなるほど、発電できないとき(太陽が出ていない、風が吹かないなど)の柔軟(フレキシブル)な調整力が必要になる。その柔軟性にはいくつもの種類が考えられる。たとえば、電力の広域的運用や、VPP、そしてもちろん、蓄電技術だ。

蓄電技術(電力貯蔵技術・Energy Storage System)にもいくつかある。大規模で、多く使われているのが揚水式水力発電だ。また、近年普及が進んでいるのはEVにも使われるリチウムイオン電池になる。バッテリーということでは全固体電池も開発が進んでいる。

その蓄電技術に、古くて新しい技術が注目されている。重力による蓄電だ。あのニュートンが発見した重力による位置エネルギーを利用する。重さのあるものが、高い位置にあると位置エネルギーは高くなる。

難しく考えなくてもいい。要は、あるエネルギーを使って低い位置から高い位置に重いものを持ち上げる。これを、高い位置から低い位置に落ちるときに発生するエネルギーを使うのが、重力による蓄電になる。重力蓄電(Gravity Storage)などという。

実は揚水式水力発電も同じものだ。電力を使い、下池から上池に水を持ち上げる。これが蓄電。発電は、上池から下池に水を落とすときにタービンを回せばいい。


コンクリートブロックを上げて下ろす蓄電技術

この揚水式水力発電を知って、「これは水でなくてもいいのではないか」と思いつき、重力蓄電の会社をベンチャーで立ち上げ、実際に資金獲得し事業とし、世界で注目を集めている会社がある。スイスとアメリカに本拠地があるEnergy Vaultだ。

Energy Vaultは水の代わりにひとつ35トンのコンクリートブロックを使う。引きあげる方式は2つあり、ひとつはタワー型。もうひとつはビル型になる。

タワー型では、屋上にクレーンが置かれる。クレーンでブロックを積み上げる(充電)、使うまで高い位置においたままにする(蓄電)。それを下に落とすときにクレーンの機械式モーターが回り、発電になる。

35MWhの場合、クレーンの高さは165m、ブロックは棟のように円筒型に積み上げるので直径60m。30階建てのビルほどになる。ブロックは6,000から7,000個。

もうひとつのビル型でもコンクリートブロックを使う。こちらはちょうど立体駐車場のようなもので、充電時にはブロックが上の階に整然と並べられていく。おいておけば蓄電。使うときは下に落とす。このシステムは10MWh単位で構築でき、数GWhまで拡張できる。このビル型はタワー型よりも高さが4割低くなっている。

環境にも優しくコストも削減できる重力蓄電・・・次ページ

環境・サプライチェーンのリスクが最小の理由

これまでEnergy Vaultはソフトバンクなどから資金調達に幾度も成功し、スイスの電力網にも実証実験としてつながっている。

そして今年10月、Energy Vaultは持続可能な航空燃料(SAF)、グリーン水素製造、ディーゼル燃料製造のベンチャー企業であるDG Fuelsと契約したことを発表。DG Fuelsに1.6GWhの蓄電設備を提供することになった。DG Fuelsのグリーン水素製造過程に使われる。

今回の契約は3つのプロジェクトで最大5億2,000万ドルの収益をEnergy Vaultでは見込んでいる。2022年半ばから最初のプロジェクトは始まる予定だ。

DG FuelsがEnergy Vaultを最終的に選んだ理由として、環境やサプライチェーンのリスクがもっとも小さいことが挙げられている。どういうことかというと、このコンクリートブロックは建設現場の堀削土や鉱山の残土、石炭の燃料残渣、また廃棄された風力発電のタービンブレードなどを再利用したものになる。建設材料から非常に環境・フットプリントのことを考えたつくりになっているのだ。しかも、コストも安い。


コンクリートブロックは再生素材だ

リチウムイオン電池などの鉱物資源は必要なく、これもコスト削減に一役買っている。しかも、時間の経過とともにこの位置エネルギーは基本的に劣化しない。電力効率は80%以上であり、揚水式発電の70%前後よりも効率的だ。

さらに発電時の立ち上げ時間も数十秒と揚水式発電よりも短い。再生可能エネルギーの調整力としてはこの立ち上げ時間の短さも重要になってくる。

なによりこの技術は非常に「枯れた」技術で構成されている。ブロックの管理こそデジタルだが、基本的な技術、上に上げて、下ろす、は、17世紀の発見だ。この技術の堅牢性も評価されている。

Energy Vaultは9月に上場を果たし、11月にはEnergy Vault Solutionという技術部門を新たに立ち上げた。AI等を駆使して最適なアルゴリズムでより効率化を目指す。

揚水式水力発電も建設ラッシュ、蓄電技術の日本での導入は

こうした蓄電技術は再エネの拡大とともに広がりを見せている。海外では2019年以降建設ラッシュがおき、発電設備が2.5倍になった。米国エネルギー省によれば、中国で100GW、米国で52.5GWが数年のうちに設置されるという。

もちろん、こうした蓄電技術は(水素と同じく)「あふれるほどの」再エネがあってその価値を発揮する。しかし、日本でも、出力制限を繰り返す九州や北海道などで十分利用価値があるのではないだろうか。九州電力では2.3GW分の揚水式水力発電が利用できるというが、まったく足りていない。

揚水式水力発電よりも建設コストが安く、リチウムイオン電池よりも環境にやさしく低コスト、建設も容易でスケーラブルなこの重力蓄電。日本でもこれから脚光を浴びるかもしれない。

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