地味な話ですが、今回とてもいい音を聴けたのがAIRPULSE「A300 PRO」であります。
改めてフィル・ジョーンズが作るスピーカーはピュアオーディオ分野の中でも「リアルオーディオ」だと実感。
名設計者です、どうしてこの男が触ったものはなにから何までこうなるのか。
このAIRPULSEも通った音楽はすべての音が濃くなる。
デスクトップのPCスピーカー向けなんてものではない。
下が上を喰う話は好きじゃありませんが、真面目な話これを上回る音を他社の単品で組み直すと笑えない金額になります。
PC/スマホ向け製品だが完全な「リアル」ピュアオーディオ
先に申し上げますと、このスピーカーはスマートフォン・PCのアウトプットをメインに考えられている。
アナログ入力もあるものの、インターフェースはUSBかワイヤレス前提のアンプ内蔵(パワードスピーカー)です。
デスクトップのBluetoothアクティブスピーカーのカテゴリーのはずが
つまりアクティブスピーカー。
デスクトップで使うBose・Anker・JBL・SONYのBluetoothと同じカテゴリ。
この分野は激しい競争ゆえにお買い得です、音がよくて安い。
特に上記のブランドは。
PC周辺機器カテゴリーとピュアオーディオは違う分野(普通ならば)
しかし当然ですがピュアオーディオ、いわんやハイエンドとは完全に違います。
売り手も買い手もピュアオーディオとの比較はしない。
なにしろ入力がこれです、完全にパソコンやスマートフォンとの組み合わせ前提です。
しかし聴かれたらPC周辺機器カテゴリーで出てくるスピーカーとはあまりにかけ離れた音質に驚かれると思います。
フィル・ジョーンズは腕前あり・音質というより「音楽表現」
もし他機種と比較されるかたがおられたらAIRPULSEシリーズについては安心してこう言えます。
「ピュアオーディオと比べてください」と。比べるといいますかもう完全にリアルオーディオですから。
音質というより「音楽表現」。
A80は堂々のメインシステム・太く、ソリッドなミューカリティ
エントリーグレードのA80、安いです
しかしバランスがよく解像度が高い。
「太く・黒く・ソリッドな低音」を再現する。
いわゆるPCスピーカーでは全くありません、堂々のメインシステムになる。
設計者のフィル・ジョーンズの腕前ゆえ。
音に関する限りただの一度も失望させたことのない設計者です。
彼の得意技である
「ストロークの大きいメタルコーンのユニットと、緻密な表現が得意なリボンツィーターのペア」
この一見破綻しそうな組み合わせで、どの作品においてもダイナミックな表現を得意としてきました。
リボンツィーターでソリッド、パワフルに聴かせるA300
今回のAIRPULSEはリボンツィーター、A300もこのユニットの特徴を発揮しています。
ウーファーの素性からすれば異質なものです。
しかし破綻なく、どころか独自の世界になってしまっている。
リボンだからといって幽玄・ホログラムの世界ではございません。
アグレッシブ、ダイナミック、「ほんとに小型スピーカーかよ」てな表現です。
A300 Proは完全な「フィル・ジョーンズ節」・濃厚な中低音
パワードスピーカーに内蔵できるアンプはどうしても質は知れたものになる。
この機種の場合DACも内蔵型。
アンプも大きくできないし、スピーカー自体の振動をもろに受けるわけです。
利点があるとしたら「制約はあるがスピーカーユニットの特性に対してアンプの最適化が出来る」ぐらいしかない。
A300Proの「低音」はフィル・ジョーンズの得意技・太くソリッド
A300 Proはスケールの大きい音です、しかも緻密。
どのメーカーで、何を作ってもアグレッシブで濃い音にする
この人のスピーカーはいつも
高域の繊細さと低音のレスポンスにこだわりがあって結果
「濃い中低域」になる。
太く・黒く・ソリッド
彼独特の低音です。
そのくせなぜか高音は繊細、相反するこの2つが高水準でバランスします。
メーカーが違おうとも手がけたモデル全てに通じる色合いであります。
A80は濃いなーと思っていますが、A100で、そしてA300 Proは更に濃厚。
こういう設計者がアクティブスピーカーを作ると制約のはずが逆にメリットになってしまう。
アンプのチューニングも含めて音を自在に操るれるためです。
DAC・アンプまでもが同じ設計者・フィル・ジョーンズ節全開
これがAirpulseには他社とは根本的に違う優位点です。
DAC・アンプそしてスピーカーを全て同じ設計者がデザインしていること。
アクティブスピーカーの制約を逆手にとって「フィル・ジョーンズ節」を作り上げてしまっている。
例えばこの音を、単品のオーディオコンポーネントで出そうとしたらどうなるか。
A300 Proの予算でコンポーネント組み合わせはかなり難しい
ほぼ間違いなく、かなりの高額になります。
A300 Pro、実勢価格で25万円ぐらいですが
トータル25万円の予算で、他社のスピーカー・アンプ・プレーヤーを個別に買ってこの音を出す組み合わせはすぐには思い付かない。
A100、いわんやA80の価格で購入できるシステムでは絶対に出せない音です。
なおデスクトップに置くと(どうしてもグラグラするので)むしろもったいない。
座りのいいしっかりしたスピーカースタンドに載せてやりたい気持ちにさせます。
つまり使っているとどうしても「おおー、もう少し真剣に聴いてみるか」と思わせる音なのです。
これまでフィル・ジョーンズの作品については今までユーズドを見るたびに欲しいなーと思いましたが(実際かなり人気があります)A300 Proならベスト。
もうコンディションに怯えながら中古を買う必要はない。
A300 Proはまぎれもないハイフィデリティ、「フィル・ジョーンズ節」であります。
メーカーや製品が違っても全てに共通の「黒く太い低音と繊細な高音」
このフィル・ジョーンズ(Phil Jones・ロンドン生まれ)について、「ただの一度も失望させたことがない」と申し上げました。
フリーランスだが常に話題作を作る・彼が触れたものは皆「濃く」なる
ほうぼうのメーカーを渡り歩いているのですが行く先々で必ず話題作を作るからです。
- アコースティックエナジー(AE)
- ボストンアコースティックス(Lynnfield)
- Platinum Audio(Solo・Duo、そして巨大ホーン型のAir Pulse 3.1)
- AAD
アタクシはLynnfield 500Lのレスポンスの速い「黒い低音」にたまげて以来、機会を見てほぼ全てを聴きました。
みんな独特の繊細な高域とソリッドでしかも太い低音
アコースティックエナジー AE-2なんて小さいくせにもはや図太いレベルでありますから。
大型スピーカーでいいのか、初めて自問自答したモデルであります。
Air Pulse 3.1も聴けた(ショップで)、あれだけ例外で小さい部屋だとモワモワしちゃいます。
実は日本でも2−3セットぐらいしか売れなかったそうでアクシスの人も今となっては組み立て方がよくわからないらしい。
部屋の大きさは東京国際フォーラムぐらいの大きさがないとダメという理由です。
AADはよかったのですが、会社自体があまり保たずいくらもしないで消えてしまった。
この人らしい、経営はあまり得意ではない。
まあこれで経営の腕もあったらもう可愛げがありませんが。
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「PJB」ベースアンプも同じ評価・小型、多機能、パワーと繊細さ
この後一度オーディオから離れて『Phil Jones Bass(PJB)』ブランドでベースアンプをリリースしています。今はこちらのほうが有名でしょう。
『Phil Jones Bass』ベースアンプはコンパクトながら上品さとパワフルさ
特にベース系のミュージシャンの方で知らない人はいません。
これまた小口径ユニットですから小型なのですが、評価は「芯がある」「透明感」
オーディオスピーカーのレビューと共通です、この方の本領であります。
上記のピュアオーディオ向けを知っている人はすぐピンと来る。
カテゴリー違いでもピンとくる個性の強さ・独特の繊細感
メーカーどころかカテゴリーが違うにもかかわらず
ソリッドで反応がいいけれど豊か、そして独特の繊細感
これが常に同じ。
この人が触ったとすぐわかる、かなり珍しい個性です。
聴き手が音楽で気持ちよくなる部分を知っていて
そこを狙って音楽をブーストできるセンスを持った人です。
アコースティックエナジー「AE-1」は音の流行すら変えた
特にAE-1がリリースされたときは英国オーディオの流れが変わったと言われたほど。フォロワーが続出しました。
BBCモニター「LS3/5a」以来の英国調を完全に変えた
大きくはタンノイ、同クラスならLS3/5aに代表される「英国調はハイファイ調より響きの暖かさで聴かせる」なんて文法からドーンと外れてしまった。
イギリスだけでなく、世界中の小型スピーカーメーカー各社が特性追求型のモデルをこぞって出したほどです。
これほどの才能がなければフリーのスピーカーエンジニアで食べていくなんて無理でしょう。
実際転職した先々でメインの設計者におさまる。
小型スピーカーの世界的な流行すら変えたAE-1
彼が辞めた後、アコースティックエナジー社は事実上AE-1のモデファイモデルで存続したようなものでした。
ボストンアコースティックスはLynnfieldのあと車載スピーカーの音まで変わってしまった。
あの濃さが好評だったのでしょう。
ただ渡り歩くと表現したぐらい一箇所に落ちつけない人。
才能の代償とでもいうのでしょうか。経営の才能はあまりない。
「契約」とかそういった方面は疎い人らしい。
才能の代償は1社に落ち着けないこと・契約がらみでモメたことも
フィル・ジョーンズのキャリアは1980年に「VITAVOX(ヴァイタヴォックス)」入社した頃がスタートだそうです。
ここでスピーカーの基本を学んだとか、昨今まず聞かれたことのないメーカーと思います。
大変に「英国的」なメーカーです。
キャリアスタートは英国の老舗VITAVOX(ヴァイタヴォックス)・以来腕一本で稼ぐ
セミプロのベーシストをしながら働いたそうですが、設計の才能を認められその後次々と会社を渡り歩いた。
まさに「腕一本で稼ぐ」スタイル。
名設計者として世に認められ今に至っています。
「超保守的」な老舗で独創性を磨いた異例のキャリア
なおその彼がVITAVOX(ヴァイタヴォックス) でキャリアスタートしたことはとても重要です。
1932年(昭和7年)、第二次世界大戦の7年前に創業された世界で最も古いスピーカーブランドのひとつ。
劇場や放送用から家庭用まで幅広く手がけた名門です。
確かCN191ホーンスピーカーのエピソードですが、自社のスピーカーを評して
「女王の声は格調を保って再現されねばならない」
とかうそぶいたメーカーです。
ホーンスピーカーのかんどころを掴んだのかもしれない
FyneAudioが旧Tannoyの伝統技術を色濃く受け継いでいるように、フィルも名門特有の音作りスキルから何かをつかんだようです。
彼の音がただ迫力や解像度だけでない理由のひとつであります。
特にホーンスピーカーや音の品位に関する知見は経験がものをいう。
ヴァイタヴォックスでもないとわからない工夫も多々あると思われます。
現在ハイエンドスピーカーから若干距離のあるJBLがホーン搭載のホームシアターモデルで好評であることは、音楽にはキレの良さが必要かもと思わせる話です。
腕はいいのに落ちつけない・AEでは訴訟沙汰にまでなった
これほどいいものを設計する能力がありながら一箇所に落ち着くことができない
アコースティックエナジー社では訴訟沙汰にまでなったほど。
オレ流すぎて訴訟沙汰にまで・周りを気にしない人
こういうところも逆にファンが入れ込む理由であったりします。
基本単独犯の人、群れません。
しかも他人の評価なんて気にしません。
「オレ流」でここまできた、そこが魅力。
本当の個性ってやつです。
オレ流でもクラシックは絶品・音については冷たいぐらいに客観的
なお付け加えますと、ベーシストといいながらフィル・ジョーンズの作るスピーカーはどれもクラシックが大得意であります、絶品です。
自分の音がどういうものか、他人の耳で聴くだけの客観性がある。
アウトローを気取る手合いにありがちな独りよがりとは無縁です。
AIRPULSE A80がよろしい・あの音であの値段は(よそは絶対)ない
個人的にはともあれA80です。
スピーカー(A80)/スマホ/スタンド(適当にIKEAあたり)でOK
あれはわかりやすく、いい。
もっと代わりがあるかも、とか考える気をなくします。
- 結果として10年ぐらい使ってしまった。
- サブシステムのつもりがメインが入れ替わる間も動かせず、結局最後まで残っていた。
ということは充分ありえる
総計8万円のパワードスピーカー・単品コンポで実現不可能な高音質
アンプとスピーカーとケーブルで8万円の予算
安すぎる、どんな単品コンポを集めてもこの音質レベルを目指したらすぐ予算オーバーとすぐわかります。
中古で買っても無理です。
なおパワードスピーカーはピュアオーディオでは軽く見られる傾向があります。
正直申し上げますとアタクシもそうであります。
ただこのA80は、なんともはや。
雑誌メディアでの露出は少ない。
しかしまさしく8万円しないで、しかもファーストモデルで軽々と一線を超えました。
スタンドはIKEAスツールで充分(というか高音質)
実は本気で考えたことがございます。
とりあえず持っておいて音で悩んだらこいつを鳴らして正気に戻ろうかと。
IKEAのスツールでも台にしてあとスマホがあればもう文句なしです。
Bluetoothで「濃く聴ける」のが嬉しい・ハイレゾ・ロスレス入門に最適
こいつが凄いのは光やUSBが面倒なとき、とりあえずBluetoothで聴いても濃いめの音であることです。
ハイレゾの音質ではないはずが、フィル・ジョーンズのタッチはそれを十二分に補う。
最安グレードながら、リボンツィーターとストロークの大きいメタルコーンのユニットというフィル・ジョーンズ以外ならば破綻しそうな組み合わせを絶妙なセンスでまとめ上げています。
なおA100は一段と音のスケールが大きいしカラーバリエーションが豊富というのは素敵です、予算があればこちらですが。
今回現品の展示がございましたが、買うなら赤がほしい。
ソリッドでいかにも「あかーっ」って感じの発色のよろしい色でした。
Lumia1 (Sonus Faber)やF500(Fyne Audio)は周辺機器の予算が掛かる
前に述べているようにアタクシはSonus FaberのLumia1推しであります。
しかしAIRPULSEと比べてあれはシステムにお金が掛かる、実にかかる。
10万円クラスのブックシェルフスピーカーはハイエンドアンプが欲しくなる
単純な比較は乱暴ですが、「我慢しない音」ともなるとシステムトータルの予算で30万ではちょっと苦しいかも知れない。
それほどのパフォーマンスがある理由でもあります、しかし組み合わせや使いこなしでA100レベルはおろかA80同等も難しい場合がある。
これについては「なにをいい加減なことを」と思われても仕方がありません。
ローエンドがミドルやハイエンドに勝つ話って常に怪しいですから、いっておいてなんですがアタシもそういう話は嫌いです。
アンプそのものも高額になり、しかもセッティングや周辺機器(ケーブルなど)の話が出てくるからです。
アタクシはそのあたりにお金かかるのはあまり好きじゃありませんが。
ただこのA80をはじめとするAIRPULSEシリーズならばそういうところから離れて音楽に専念できる。
フィル・ジョーンズの作品はそういうもの。
(頼むから)AIRPULSEで落ち着いて欲しい・フィルはフラフラ癖があるので
AIRPULSEシリーズに不安があるとすれば製品ではありません。
フィル・ジョーンズ本人がトラブってまたフラフラっとどっかに行ってしまうことです。
このあたりで腰を落ち着けてせめて10年ぐらい作り続けてくれないかな、とA80を見るたびに思います。
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