“日本人は、残酷なクジラ殺しを
隠そうとしている”
アカデミー賞を受賞した
反捕鯨映画「ザ・コーヴ」
その映画が公開されてから、
伝統的な捕鯨文化を誇っていた
町の人々は口を閉ざすようになり...
縄文時代から続くクジラ漁も、
その歴史を断たれるかに思われた。
しかし、この映画の裏側には
思わぬ闇が隠されていた...
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
捕鯨戦争最前線 ~ 日本代表の戦い
From:伊勢雅臣
■1.シー・シェパード(SS)への反撃
2019年1月、次のような
興味深いニュースの報道があった。[1]
__________
米反捕鯨団体、シー・シェパード(SS)の
調査捕鯨妨害を阻止しようと、
政府の許可を受け調査を実施している
日本鯨類研究所(東京都中央区)が、
SSの本部のある米ワシントン州の連邦地裁に対し、
妨害の差し止めと船団への接近禁止を求める訴訟を
一両日中にも起こすことが8日、分かった。
併せて差し止め仮処分の申請も行う。
負傷者が続出し、昨季には
調査打ち切りに追い込まれたSSの妨害をめぐり、
日本側が海外で法的手段に出るのは初めて。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
火炎瓶を投げつけたり、船で体当たりするなど
暴力行為をしてきたシー・シェパードに対して、
法に基づく反撃を行うというもので、
声援を送りたい。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、
われらの安全と生存を保持しようと決意した」
とは、日本国憲法の前文の一節である。
しかし北朝鮮の日本人拉致、
尖閣諸島での中国漁船の体当たりなどを見れば、
「公正と信義」を信頼できる諸国民ばかり
ではないことは、明らかである。
こうした法的な戦いを通じて、
不当な輩を訴えていくことが、
不正がまかり通る国際社会で「公正と信義」を
少しでも増進していく道だろう。
捕鯨問題とは、弊誌でも今まで見てきたように[a,b]、
科学的事実も論理も無視した一部の活動家たちと
それに動かされた国々が、「公正と信義」を
踏みにじってきた世界である。
そんな世界で日本の国益を担って、
敢然と戦ってきた人がいた。
その人、元・農林水産官僚の
小松正之氏の戦いぶりを辿ってみたい。
■2.「その場その場のごまかしも
いい加減にして貰いたい」
まずは、小松氏の戦いぶりを
分かりやすい一場面で見てみよう。
小松氏はIWC(国際捕鯨委員会)で、
反捕鯨国がNGO(非政府団体)を
議場に入れることに腹立たしい思いをしていた。
マスコミはシャットアウトされているので、
NGOのメンバーが会議終了後に
待ち受けていたマスコミに「議論紹介」と称して、
好き勝手な事を吹聴するからだ。
曰く「日本の捕鯨は条約違反」
「鯨肉をたくさんとってきて、
高級レストランに売っています」等々。
小松氏はほんとうの意味での
透明性を高めたいと思っていた。
1998(平成10)年の
オマーン総会の財務委員会でのこと。
この委員会は政府代表団のみが参加できる会合で、
NGOには非公開と定められていた。
ふとアメリカ代表団の方を見ると、
NGOの青バッジをつけた連中が紛れ込んでいる。
小松氏は「なぜこのような重要な
財政問題を話しあう場に、ルールに反してまで
関係のないNGOが出席しているのか」と詰問した。
アメリカ代表団は「この問題は、
NGOが特別に関心があるので、
米代表団に登録していれた」と答えた。
小松氏はこう主張した。
__________
そもそもアメリカ代表団にNGOを
入れること自体が間違いだと思うが、
あなた方の主張に沿ったとしても、
入れるなら入れるで、なぜ会議の前に
代表団の一員として登録をし直し、
そしてバッジを明確に分かるように
黄色に変えないのか、不適切ではないのか。
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米代表団は「彼らは(コーヒーを
入れたり、書類を配ったりする)
サポーティング・スタッフなのだ」という。
しかし、そんな仕事は一切せず、
座って話を聞いている。
それがどうしてサポーティング・スタッフなのだ。
「その場その場のごまかしも
いい加減にして貰いたい」と小松氏は問い詰めた。
■3.「こんな簡単な規則すら守れない
会議などやっていられるか」
事務局に「いったいどうなっているんだ」
と問い詰めると、「問題はとくにありません」
としれっと答えた。
大ありだ。
「こんな簡単な規則すら守れない会議など
やっていられるか」と小松氏以下、
日本代表たちは席を立った。
捕鯨国のソロモン諸島やカリブ海諸国も、
アメリカと事務局の対応に憤慨して、
議場を出ていった。
翌日、アメリカ代表が、コミッショナー会議で、
米代表団の行動について謝罪した。
真の透明性を謳うなら、限られたNGOだけでなく、
メディアを会議場に入れて、実際にどんな議論が
行われているかを聞いて貰うべきだ。
そう考えた小松氏は、
「メディアへの公開」を訴えた。
日本からの提案に「テレビカメラのコードに
足をひっかけたら危ないじゃないか」などと、
理由にもならない反対意見が出たが、
まったく説得力はなく、2000(平成12)年から
テレビカメラを議場に入れることになった。
この一件が、国際会議や国際交渉に臨む
小松氏の姿勢をよく表している。
原理原則に照らして、
自らが正しいと思うことを敢然と主張する。
その姿勢が、日本が捕鯨問題で
筋を通してこられた理由であった。
■4.落ち込んだ日本代表団
1994(平成6)年のIWCメキシコ総会では、
南氷洋のサンクチュアリが採択された。
サンクチュアリとは「聖域、禁猟区」の意味で、
南氷洋での捕鯨行為を禁ずるというものである。
「資源状態にかかわりなく
サンクチュアリを設定する」という提案は、
そもそも「科学的根拠を規制措置の
導入の可否の判断にする」という
IWC条約そのものに矛盾したものであった。
科学的根拠もないまま、数の力で
抑えこもうとする反捕鯨国側に対して、
小松氏は「こんな横暴と不正がまかり通って
よいわけがない」と憤っていた。
おりしも、サンクチュアリと同時に、
日本の南氷洋の調査捕鯨がさんざんに叩かれた。
たとえば反捕鯨国であるオーストラリアの
ある科学者は、調査捕鯨では本来すべての
年齢層のサンプリングをすべきなのに、
日本の調査は4歳以下のミンククジラを
サンプリングしていない欠陥調査である、と指摘した。
日本側も若齢クジラの捕捉が
できていないことは気づいていた。
調査海域では若いクジラがいなかったのだ。
そして、この批判を受けた日本の科学者は、
反論もできず、狼狽してしまった。
唯一の武器だと思っていた南氷洋の調査捕鯨が、
厳しい批判にされされ、日本の代表団全体が、
もう調査捕鯨は終わりか、と落胆していた。
■5.日本代表の屈服
しかし小松氏は違った。
他人の批判は宝の山である。
反捕鯨国が日本が見落としていた
調査のほころびを見つけてくれた、と考えた。
それまではオーストラリアとニュージーランドの
南を東西120度の範囲で調査していた。
データを見ると、それを東西に30度ずつ拡大して、
180度とすると、若齢クジラを捕捉できる可能性が
あることは、それまでのデータが示唆していた。
そこで調査海域を広げて、捕獲枠も
300頭から440頭へ増やす調査計画を建てた。
さらにDNAによる
クジラの系統群の調査なども加えた。
こうした調査計画を小松氏は
土日返上で一年ほどで作り上げた。
こうして2009(平成21)年のダブリン総会に臨んだ。
科学委員会では調査計画を評価する
報告書がまとめられた。
しかし、本会議は科学委員会の議論とは関係なく、
「自粛決議」を打ち出してきた。
彼らも必死である。
せっかくサンクチュアリ決議を通したのに、
逆に日本が南氷洋の調査捕鯨を強化するというのだ。
しかし、調査計画は科学委員会からも
認められたものであり、それを実施することは
捕鯨条約上の権利でもある。
アメリカが本会議で「自粛しろ」と決議しても、
何ら拘束力はない。
しかし、日本側代表は米国側代表と
会談に呼び出されると、圧力に屈したのか、
「捕獲枠は330頭にするから、
自粛決議をやめてくれないか」と切り出してしまった。
■6.「アメリカが経済制裁を加えてくる事はないだろう」
帰国後も政府部内で議論を重ね、
やはり440頭で押し通そうということになった。
小松氏は自らアメリカに飛んで、説明した。
__________
アメリカは、グリーンピースに代表される
環境団体の存在が見え隠れするので、
建前上、反対する。
アメリカ側としては「反対」の一点張りで、
しかし、だからといって具体的に
制裁や圧力、妨害をかけてくるかといえば、
そういうわけではない。
「反対だから何々をします」といわない以上、
実質的な妨害はしないものと捉えていい。
そして、それは交渉当事者の表情と口ぶりで、
だいたい分かるものである。[2,p109]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アメリカが経済制裁を加えてくる事はないだろう、
というのが、小松氏の読みだった。
GATT(関税および貿易に関する一般協定)では、
資源状態が枯渇した品目に対して貿易禁止などの
制裁を課すことができるとされているが、
クジラの頭数はいまや十二分に回復して、
溢れていると言っても良い状態だった。
GATTで争えば、アメリカが負けるのは自明だった。
結局、アメリカの反対を押し切って、
日本は調査捕鯨を拡充した。
アメリカは国内世論に配慮して、
反対したという姿勢を見せただけだった。
サンクチュアリが導入されて以来、
失意のどん底にあった国内では、喜びの声があがった。
鯨類資源の豊富な南氷洋で「持続利用の原則」に
則った反転攻勢に出られたのだ。
■7.相手と「俺、お前」の関係を築く
小松氏は、この交渉を振り返って、こう述べている。
__________
アメリカがこういった対応をすることは
予想がついていた。
これも交渉の駆け引きの一環で、
ひとえに向こうの国内事情などについて
勉強すれば分かるのである。
そして人と人との付き合いもそうだが、
国と国との交渉も、相手を尊重し、
敬意を払い、十分な説明と意思の疎通を
図ることによって確立される。[2,p110]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
こうした交渉のベースとして、
相手と「俺、お前」の関係を築くことが大事だ、
と小松氏は強調する。
__________
われわれは国を代表して交渉に臨んでいた。
国家の利益を第一に考える、国の総意を
体現するといっていいかもしれない。
しかしわれわれと同じく、
交渉する相手だって人間だ。
外交交渉は、国と国の話し合いであると同時に、
人間同士の話し合いでもある。
交渉相手、または同じグループの人間と、
いかに良好な関係を結べるか、それも
交渉において非常に重要な点である。
案件は案件、人間関係は人間関係。
主張することによる尊敬と意見の対立。
これらはまったく別個のものであり、
両立する。[2,189]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
実際、反捕鯨側で激しく対立していた
アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド
の人々は、いまでも「小松さんの訪問を
歓迎します」と声をかけてくるそうだ。
日本人はとかく意見の対立を嫌うがために、
国際交渉の場でも、先の日本代表のように、
とにかく妥協を急ぐことが多い。
これでは、国益を損ねるだけでなく、
互いへの理解と敬意も生まれない。
互いに祖国のために戦う戦士の間には、
相手への尊敬が生まれると言われるが、
それは死力を尽くしての戦いの後に
生まれる共感であろう。
戦う前から、武器を捨てて、
とにかく仲良くしましょうという相手には、
敬意も共感も抱けない。
■8.「人類のための捕鯨を」と主張すべき
冒頭で、小松氏が「原理原則に照らして、
自らが正しいと思うことを敢然と主張する」
ことを大切にしてきた、と述べた。
この点で、小松氏自身は
「捕鯨とは日本単独の利益追求ではなく、
人類のために捕鯨資源を利用しようということを
もっと強く打ち出すべきだった」[1,p93]
と反省している。
反捕鯨国のアメリカ、オーストラリア、
ニュージーランド、フランスなどは
牛肉の輸出国である。
彼らはクジラの愛護だとか、絶滅を防ぐ、
などと科学的な根拠も無視して主張しているが、
その本音は牛肉輸出を護りたいという事ではないか、
と弊誌は勘ぐっている。
環境を破壊せずに、人類に豊富な食糧を提供しうる
捕鯨のパワーを彼らは恐れているのではないか。
肉牛を育てるには、肥料や地下水を使って
トウモロコシなどの飼料を
育てなければやらねばならない。
また排泄物そのものが環境負荷となる。
増大する地球人口を養うには、牛肉では間に合わない。
それに対して、クジラは食物も排泄も
海中の自然循環の中で組み込まれている。
科学的な調査に基づき、乱獲さえ気をつけていれば、
いつまでも持続可能な資源なのだ。
日本が捕鯨に拘っているのは、
それが自然環境を保全しつつ、
人類に十分な栄養を供給する道だからだ、
と主張することが大切だろう。
そのためには、まずは日本国民自身が
こういう使命をよく自覚する所から、
始めなければならない。
■リンク■
a. JOG(097) クジラ戦争30年
捕鯨反対運動は、ニクソンの選挙戦略から始まった。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~
b. JOG(660) 捕鯨は地球を救う
増えすぎたクジラを捕る事で、
食糧危機と環境危機に立ち向かう事ができる。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~
c. JOG(662) 日本人はクジラの供養塚を建ててきた
我が先人たちはクジラの命に感謝して無駄なく利用し、
その上でクジラの霊が成仏するように祈ってきた。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~
■参考■
1. msn産経ニュース、H23.12.9
「シー・シェパード提訴へ
日鯨研、米連邦地裁に 調査捕鯨妨害差し止め」
2. 小松正之『世界クジラ戦争』、
PHP研究所、H22
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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http://blog.jog-net.jp/
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<著者紹介>
伊勢 雅臣
1953年東京生まれ。
東京工業大学 社会工学科卒。
日本の大手メーカーに就職後、
社内留学制度により、
アメリカのカリフォルニア大学
バークレー校に留学。
工学修士、経営学修士(MBA)
経営学博士(Ph.D.)を取得。
生産技術部長、事業本部長、
常務執行役員などを歴任。
2010年よりイタリア現地法人社長。
2014年よりアメリカ現地法人社長を歴任。
イタリアでは約6千人、
アメリカでは約2.5万人の外国人を束ね、
過去最高利益を達成するなど
成果を上げてきた。
これまでの海外滞在はアメリカ7年、
ヨーロッパ4年の合計11年。
駐在・出張・観光で訪問した国は
5大陸36カ国以上に上る。
1997年9月より、
社業の傍ら独自に日本の歴史・文化を研究。
毎週1回・原稿用紙約15枚の執筆を22年間。
正月休み以外は毎週続け、
発行したメールマガジンは1148号を超える。
筑波大学等でも教鞭をとり、日本の未来を担う
「国際派日本人」の育成に尽力している。
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