中国チベット自治区で計画されている世界最大の水力発電ダム建設が気候変動に脅かされている。氷河の融解による地滑りで建設予定地の上流に巨大な堰止湖(せきとめこ)が形成され、湖の水位上昇で決壊すれば建設予定地を直撃する恐れが出ているためだ。
◇堰止湖に東京ドーム480個分の水
建設が計画されているのはチベット高原に端を発するヤルンツァンポ川。源流の標高が世界で最も高く、川の平均標高も約4000mとされることから「川のエベレスト」の異名を持つ。
中国政府は、中期政策大綱の第14次5カ年計画(2021~25年)に、重要プロジェクトとしてヤルンツァンポ川での大規模水力発電を盛り込んだ。
このプロジェクトによる発電量は年間3000億kWh程度を見込んでいる。世界最大の水力発電所である三峡ダム(中国湖北省宜昌)が2020年に記録した年間約1030億kWhの約3倍の数字だ。
一方で、このプロジェクトには、ここ数年、安全性に関連した懸念が指摘されてきた。ヤルンツァンポ川に堰止湖が存在し、それがダム建設予定地の数十km上流にあるためだ。
堰止湖ができたのは2018年10月。気候変動に伴う氷河の融解に集中豪雨が重なって地滑りが発生し、ヤルンツァンポ川が米林(Milin)県(チベット自治区林芝市)付近で堰き止められたのだった。
最近でも今年3月下旬、ヤルンツァンポ川に沿って大規模な地滑りが発生したと、英シェフィールド大のペトリー教授が自身のホームページで報告している。別の学者は「2018年の地滑りと同じ場所のように思える」と指摘している。
香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、堰止湖には約6億立方メートル(東京ドーム約480個分)の水がたまっているうえ水位が徐々に上昇し、「いつ決壊してもおかしくない状況」という。
◇インドでもヒマラヤの氷河で大災害
SCMPによると、土木工学や氷河研究、地滑り防止などで国内トップクラスの科学者、技術者によるチームがここ数年のうちに現地を視察し、ドローンを含む高度な機器を使って堰止湖に関する膨大なデータを収集したという。
メンバーの邢愛国(Xing Aiguo)上海交通大教授(土木工学)はSCMPに「状況は非常に厳しい。直ちに解決策があるわけではない」と悲観的な見通しを示したそうだ。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の推計(2019年9月)によると、チベット高原の氷河は1970年代以降で既に4分の1が消滅し、残りも2100年までに最大で3分の2が消滅するという。ダム建設現場の上流には氷河が多数あり、気候変動の影響によって同様の地滑りが繰り返される恐れがある。整地を手掛ける業者に懸念が広がり、計画がストップする可能性もささやかれている。
実際、氷河崩壊に伴う地滑りによる大惨事が近隣国で起きている。
インド北部ウッタラカンド州で今年2月7日、ヒマラヤの氷河の一部が崩れて川に落ち、大洪水が発生。下流で水力発電所の建設作業をしていた約190人が急流に飲み込まれ、14人死亡、170人以上が行方不明になった。
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