2024年1月10日水曜日

妊娠も出産も諦めさせない! 患者への寄り添い方【週刊 日経メディカル 2023.12.22】

 

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週刊日経メディカル nmo-weekly@nikkeibp.co.jp

2023/12/22 16:47
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週刊 日経メディカルNo.133
2023年12月22日発行
日経メディカル Onlineの週替わり特集を、編集部が1本の記事にまとめてお送りします。
妊娠も出産も諦めさせない! 患者への寄り添い方
 治療薬の進歩やエビデンスの蓄積により、慢性疾患を抱える女性も妊娠が可能になってきた。画像検査も「1回のCT撮影なら問題ない」ことが示されている。「病気があるから」「放射線を浴びてしまったから」と妊娠、出産を諦めさせないため、医師ができることを紹介する。
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 「全ての女性は、疾患の有無にかかわらず、『子を産むか、産まないか』を選択する権利を持つ」。こう語るのは、日本産科婦人科学会特任理事の水主川純氏だ(関連記事)。
 日経メディカル Onlineの医師会員の約3人に1人は、妊娠中も治療継続が必要な慢性疾患のある若年女性の診療に携わっている。ただし、そのような医師の約3人に1人が、「妊娠について気をつけるべきことを伝えていたのに、守ってもらえなかった」というトラブルを経験していた(調査結果)。医師側は説明したつもりでも、患者側にきちんと伝わっていないことがあり得るわけだ。では、このような事態をどう回避したらいいのだろうか。
 まず、慢性疾患を有する女性の妊娠・出産を支える上で、患者やその家族に伝えるべきことを整理したい。その大原則は「病気を理由に妊娠を諦めなくてもいいこと、ただし、病状が安定してから妊娠すること、妊娠中も治療を継続する必要がある」だ(図1関連記事)。
図1 慢性疾患を有する女性に伝えるべき大原則
(取材を基に編集部作成)
 まさに、患者との共同意思決定(SDM)が求められるわけだが、10歳代に診断に至った場合などは、いつ、妊娠・出産についての話をすべきか迷うケースもあるだろう。
説明は極力早いタイミングで
チームでの対応も有効
   
 横浜市立大学附属市民総合医療センター炎症性腸疾患(IBD)センター准教授の国崎玲子氏は「できるだけ早いタイミング」を勧める。その理由は、「中学生ごろになると、服用中の薬についてインターネットで調べ、自分は結婚も妊娠もできないと思ってしまうケースがある」ためだ。そのような事態を避けるためにも、国崎氏は、「薬物治療の説明の一環として、妊娠・出産への影響を説明している」と言う。
 妊娠に影響する薬物の処方の有無にかかわらず、診断がついた段階で疾患の妊娠・出産への影響を説明するという医師もいる。昭和大学病院リウマチ・膠原病内科助教でリウマチ膠原病母性外来を担当する磯島咲子氏は、パートナーの有無にかかわらず診断後早めに説明し、既婚女性であれば挙児希望を1~2年に1度は確認する。「決して妊娠を強いるつもりはないが、『妊娠を希望しているならばかなえたい』という気持ちで診療している」(同氏)。
 医師だけでなくチームで患者の理解をうながすのも有効だ。磯島氏が担当する外来では、妊娠を希望する患者、妊娠中、産後の患者全員が、外来時に助産師と面談できるようにしている。助産師は、基礎体温の記入方法や活用法、避妊法を患者が正しく理解できているかなど確認しつつ、医師に話せていない悩みにも対応している。
ベースラインリスクも説明を
「この薬は大丈夫」はNG
   
 母体の状態が悪化すれば胎児に悪影響が生じるため、慢性疾患を有する女性は妊娠中も治療を継続する必要がある。その際、「ベースラインリスクも説明してほしい」と要望するのは、国立成育医療研究センター妊娠と薬情報センター長の村島温子氏だ。すなわち、「疾患がなく薬を飲んでいない場合でも、2~3%の確率で先天異常の赤ちゃんが生まれるが、処方した薬を飲み続けてもそのリスクは上がらない旨を伝えることが重要」と言う。気をつけたいのは、「この薬は飲んでも大丈夫」と言わない点だ。「『大丈夫』と聞くと、絶対に先天異常のない赤ちゃんが生まれると思ってしまう」(村島氏)からだ。
根拠なき妊婦への「禁忌」
疫学研究の結果受け解除進む
   
 妊娠中も治療を継続し、病状を安定させることが胎児の健康につながるが、添付文書で妊婦への処方を禁忌とする薬剤が多数存在する。しかも、それらの多くは海外では妊婦に一般的に使用されている。この課題を解消するための動きも進展している(インタビュー)。
 日本では、動物実験で少しでも催奇形性の報告があれば、原則、妊婦への投与は禁忌となる。その後、疫学的な調査でヒトで先天異常リスクが上がらないことが確認されても、禁忌の見直しにつながっていなかった。
 国立成育医療研究センター妊娠と薬情報センター内の情報提供ワーキンググループの取り組みにより、これまでに免疫抑制薬(タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン)と降圧薬(アムロジピン、ニフェジピン)において妊婦への禁忌の記載がなくなっている。村島氏は「現在、その他の薬に対しても添付文書の改訂に向けた動きを進めている」とも言い、妊婦に使用できる薬剤の選択肢がさらに広がりそうだ。
 磯島氏が診療してきた膠原病の女性患者は、「病気のために他の人たちとは違う日常を送ってきたが、妊娠・出産がかなったことで自身を肯定的に見られるようになった」とうれしそうに報告するという。
 「全ての女性が有する『子を産むか、産まないか』を選択する権利」を保証するため、患者に伴走する姿勢を十分示せているか、いま一度確認したい。(宇佐美 知沙)
妊婦へのCT検査
必要ならちゅうちょなく実施を
 「絶対過敏期であっても、通常の腹部・骨盤部CT検査であれば、胎児に悪影響はない」。これは、産科婦人科領域で、10年以上前から常識とされる考えだ。とはいえ、「胎児被曝に関する認知度には医師の間で大きな差がある」(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学講師の坪山尚寛氏)のが現状のようだ。ここでは、妊婦への被曝を伴う検査における現在のコンセンサスを復習しておこう(関連記事)。
 2023年8月に発行された『産婦人科診療ガイドライン産科編2023』では、受精後11日~妊娠10週で懸念される催奇形性に関して、「50mGy未満では奇形発生率を上昇させない」とする。現在のCT検査は、腹部や骨盤部であっても、1回のCT撮影で50mGyを超えることは通常ない(表A)。そのため、「『妊婦にCTを撮ってはいけない』との指摘に根拠はない」(坪山氏)。妊娠中でも、CT検査が必要と判断した際は、ちゅうちょなく検査を実施し、治療に注力することが、母体だけでなく胎児の安全な発育につながる。
表A 母体への検査別の胎児被曝線量
(ICRP Publication 84. Ann. ICRP 30を一部改変)
 一方、妊娠に気付かずCT検査を受け、その悪影響を心配する女性も存在するだろう。そのような女性に対しては、妊娠のどのような時期であっても、「通常のCT検査であれば、胎児への悪影響はない」と伝えたい。「100mGy未満の胎児被曝線量であれば、胎児への催奇形性リスクは上がらないため妊娠中絶の理由と考えるべきではない」が国際的なコンセンサスとなっているためだ(Ann. ICRP. 2000;30.)。
日経メディクイズ(症例画像、表示されない場合は再読み込みをお試しください)
■患者背景
 1年3カ月前に顔面に丘疹が出現し、6カ月前に全身に同様の丘疹が拡大したことから前医を受診。経過観察していたが症状は改善せず、丘疹が増えてきたため、当科を紹介受診した。顔面を含む全身に、自覚症状に乏しく、半米粒大~小豆大程度、比較的均一な黄褐色調の丘疹がびまん性に散在している。リング鑷子による摘除は困難であった。ダーモスコピーでは、全体的に黄色調を呈している(写真1)。
↓
問1 最も考えられる疾患は?
(1)尋常性疣贅
(2)若年性黄色肉芽腫
(3)虫刺症
(4)ランゲルハンス細胞組織球症
(5)伝染性軟属腫
問2 確定診断に必要な検査は?
解答と解説はこちらから PDF版のダウンロードもできます

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