https://news.yahoo.co.jp/articles/3c3d087f7fb8c3fedc43307ebd7a742f6be0a60f
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日本IBMの山口明夫社長は「IBMは、テクノロジーカンパニーである」と切り出す。 【もっと写真を見る】
今回のひとこと 「IBMをサービスカンパニーだと思っている人が多い。だが、IBMはテクノロジーカンパニーである。サービスを提供する上で、テクノロジーはますます重要になってくる」 日本IBMの山口明夫社長は、「IBMは、テクノロジーカンパニーである」と切り出す。 IBMの事業は、業界別クラウドソリューションやビジネスサービスを提供するほか、AIや量子コンピューティングなどのイノベーションを提供。テクノロジーの研究・開発、ハードウェアやソフトウェアの提供、コンサルティングサービスの提供、システム開発および保守、運用までのサービス提供などだ。2021年11月には、ITインフラサービスを、キンドリルとして分割している。 日本IBMの山口社長は、「数年前まで、『IBMはサービスカンパニーを目指すと言っていたではないか』と思う人がいるかもしれないが」と前置きしながら、「いまのIBMを表現するならば、サービスとテクノロジーの企業である。だが、どちらかといえば、テクノロジーカンパニーと言ってもらった方が適している」と語る。 米IBMのCEOがジニー・ロメッティ氏までの時代は、IBMは、サービスカンパニーとしての姿勢を強く打ち出していた。しかし、2020年4月に、研究部門出身のアービンド・クリシュナ氏がCEOに就いて以降、テクノロジーカンパニーとしての色を強く打ち出しており、メッセージのバランスが変化している。実際、2022年には、今後10年間で半導体やメインフレーム、人工知能、量子コンピュータなどの研究開発や製造に、200億ドル(約3兆円)を投資する計画を発表。なかでも、2nmの半導体製造プロセスへの投資は、Rapidusとの協業にもつながり、日本の半導体産業の復興に大きな影響を及ぼすことになる。 サービスカンパニーとしての姿勢を捨てたわけではないが、テクノロジーカンパニーとしてのメッセージが増えているのは明らかだ。 5つの価値共創領域 日本IBMでも、同様に、テクノロジーカンパニーとしての姿勢を強く打ち出している。 山口社長は、2022年に5つの「価値共創領域」を打ち出した。これは、2024年においても、日本IBMの事業方針のベースになるものと位置づけている。 「価値共創領域」は、次の5つで構成される。 「社会インフラであるITシステム安定稼働の実現」 「AIやクラウドなどのテクノロジーを活用したDXをお客さまと共に推進」 「CO 2やプラスチック削減などのサステナビリティソリューションの共創」 「半導体、量子、AIなどの先端テクノロジーの研究開発」 「IT/AI人材の育成と活躍の場」 このように、5つの項目のうち、2つの項目で、「テクノロジー」という言葉を使っている。 「サービスを提供するにも、ますますテクノロジーが重要になってくる。日本IBMは、テクノロジーを活用した共創パートナーモデルによって、価値共創領域の観点から、お客様のお役に立つことを目指している」と語る。 2024年の日本IBMも、引き続き、テクノロジーカンパニーとしての姿勢を打ち出し、それを強みとしてサービスを提供していくことになる。 では、IBMは、テクノロジーカンパニーとして、どんなことに取り組んでいるのだろうか。 研究開発部門を統括するIBMリサーチのダリオ・ギル(Dario Gil)ディレクターは、2023年12月に来日した際、「今後10年で大きな進化を遂げる半導体技術による『ビット』、AIの世界を具現化する『ニューロン』、黎明期にある量子コンピューティングの『量子ビット』といったテクノロジーが、コンピューティングの未来を実現することになる」と語り、半導体、AI、量子の3つを、IBMが取り組む重要なテクノロジーに位置づけるとともに、「これらのテクノロジーのすべてが、ハイブリッドクラウドアーキテクチャに統合することになる」とし、ハイブリッドクラウドアーキテクチャがテクノロジーを統合する地盤になることを示した。 3つの主要テクノロジーの取り組みをそれぞれに見てみよう。 世界初の2nmノードチップの開発に取り組む半導体 ひとつめの半導体では、IBMが、世界初となる2nmノードチップの開発に取り組んでいるのは周知のとおりだ。 次世代トランジスタ技術であるナノシートを活用。新たな半導体を量産するために、Rapidusとの戦略的パートナーシップも発表している。米ニューヨークのIBMの研究施設には、すでに100人以上のRapidusのエンジニアが勤務し、400人を超えるIBMのエンジニアと肩を並べて、研究を進めているところだ。 ギルディレクターは、「この戦略的パートナーシップの目的は、2nm技術による最先端ロジックを製造する能力を、日本に持ち帰ることである」とする。 Rapidusでは、北海道千歳市の工業団地である千歳美々ワールドに、Innovative Integration for Manufacturing(IIM)を建設し、2025年4月にはパイロットラインを稼働。2027年には量産を開始する計画を発表している。 ギルディレクターは、「このコラボレーションは信じられないほど強力である。いまのスピードと進展には大変満足している」と自己評価する。 生成AIの時代に求められるwatsonx 2つめのAIでは、watsonxの取り組みがあげられる。 IBMは、2023年5月に、エンタープライズ向け生成AI「watsonx」を発表。わずかなデータ、わずかな時間でAIアプリケーションを構築できるwatsonx.aiと、データガバナンスやAIワークフローに最適化したデータストアであるwatsonx.data、責任があり、透明性が高い、説明可能なAIワークフローを実現するwatsonx. governanceの3つを主要コンポーネントとして構成している。そのうち、watsonx.aiと、watsonx.dataの2つのコンポーネントは、2023年7月から一般提供を開始。2023年12月からは、watsonx. governanceの提供も開始している。 さらに注目しておきたいのは、「Granite」である。 Graniteは、watsonx.aiで利用可能な基盤モデルの新しいファミリーであり、その一部として、granite.8b.japaneseを発表している。ここでは、1兆6000億トークンの高品質な英語、日本語、コードデータを学習したことを公開。そのうち、日本語では5000億トークンを占めているという。 ギルディレクターは、「日本語で高い精度で回答し、他のオープンソースモデルの一般的な回答と比較しても正確に回答できる。最良のパブリックモデルと比較しても満足できるパフォーマンスを発揮している」と、日本語性能の高さを強調する。 また、日本IBMの山口社長は、2024年2月以降、Graniteをベースにして、日本語環境に最適化した業種特化型のLLMを日本市場に投入する計画があることを明かす。ここでは、医療や保険、メディア分野などの業界ごと、あるいは特定の顧客ごとを対象にしたLLMが開発するという。 2024年は、日本IBMの生成AIが、日本の企業や業界に浸透する環境が整うことになる。 利用実績がすでに高まりつつある量子コンピューター そして、3つめの量子コンピュータでは、日本でも利用実績が高まっていることを示す。 山口社長は、「日本の稼働率は100%。世界で最も高い稼働率になっている」と語る。 日本では、2021年7月から、商用量子コンピュータ「IBM Quantum System One」を、新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センターで稼働。2023年10月からは、127量子ビットのEagleプロセッサを搭載した「IBM Quantum System One」も稼働させている。 東京大学が設立した量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)に参画する産官学の組織が積極的に利用しており、バイオインフォマティクスや高エネルギー物理学、材料科学、金融など、幅広い分野での量子研究が進んでいる。 また、2023年12月に、米ニューヨークで開催されたIBM Quantum Summit 2023では、世界最高性能の量子プロセッサとなるIBM Quantum Heronプロセッサを発表したほか、IBM初のモジュール式量子コンピュータ「IBM Quantum System Two」を発表。さらに、東京大学やアルゴンヌ国立研究所、ワシントン大学などとともに、ユーティリティスケールの量子コンピューティングの実証を推進していることなどを明らかにした。 ここで注目しておきたいのが、IBM Quantumの開発ロードマップを2033年まで拡張したことだ。 というのも、このロードマップで、2033年に示された姿は、「量子コンピュータが、完成形といえる段階に到達することを明示した」という声が、関係者の間からあがる内容になっているからだ。 2033年には、Blue Jayシステムとして、2000量子ビット、10億ゲートを実現。エラー訂正による大規模な量子コンピューティングに留まらず、最終的には完全なエラー訂正を組み込んだシステムを構築することができるという。 ギルディレクターは、「完全にフォールトトレラントなマシンを大規模に構築するには2000万量子ビットのシステムが必要だったが、IBMはわずか10万量子ビットで実現できる。これは、これまでのすべてのテクノロジーと比較して大きな違いになる」としたほか、「2033 年以降、量子を中心としたスーパーコンピュータが登場し、ここに1000量子ビットを組み込み、量子コンピューティングの能力を最大限に発揮できるようになる」としている。 IBMは、量子ロードマップの改訂を繰り返し、ゴールとなる年を伸ばしてきたが、今回は10年先のゴールまで示してみせた。これまでのIBMの量子ロードマップでは、予定通りの進化を遂げてきたことが証明されている。そのIBMが示した10年先の量子コンピュータの未来は、実現可能な世界だといえるだろう。 ここにも、テクノロジーカンパニーであるIBMの底力が感じられる。 文● 大河原克行 編集●ASCII
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