https://www.chem-station.com/blog/2024/01/smartpmi.html
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概要
医薬品をはじめとする有機分子の工業生産では、単に経済的につくるだけでなく、環境への影響に配慮した合成ルートの実現が求められている。このグリーン&サステイナブルケミストリーの観点から、プロセス質量強度(Process Mass Intensity, PMI)はある合成ルートが原料やコスト、持続可能性に与える影響を評価するための重要な指標である。全体あるいは特定のステップの PMI を計算し、最適化することは、世界における製薬業界とくにプロセス化学部門で一般的になってきている。
それでは、合成標的とする化合物を合成するときに、合成ルートはどれだけ”良く”できるのだろうか?Merck (MSD) の Sherer らは、2022年に標的の分子構造のみからPMIを予測するSMART-PMI(in-Silico MSD Aspirational Research Tool)を開発した[1]。この方法では、2次元の化学構造のみを用いて、分子の複雑さ(Complexity)と分子量(MW)から PMI の予測値を得ることができる。
SMART-PMI = (0.13 x MW) + (177 x Complexity) – 252
SMART PMI を予測するために使用するそれぞれの係数などは、MSDの内部で得られた過去のPMIデータを Complexity と MW によって再現するような機械学習モデルによって算出している。また、分子の複雑さ Complexity は著者らが以前開発した方法[2]によって算出している(算出するための code は GitHubで公開されている[3])。
使い方
プロセス化学の立場からは、SMART-PMI は構造のみから予測されるため、メディシナルの経路ででてきた悪い(大きな) PMI をプロセス化学の工夫でどこまで良く(小さく)すべきか、という指標として使うことができる。例えば実際の PMI をSMART-PMI で割った値が 1 付近(0.9~1.1) であれば、これまでに開発したプロセスと同程度の最適化ができたということで「成功(Successful)」と評価できる。同様にして [実際のPMI]/[SMART-PMI] = 0.5~0.9 は「世界標準(Exceptional)」、 0.5 未満まで下げることができたら「熱望的(Aspirational)」と評価できる。メディシナルなど分子設計の立場からは、複数の候補化合物を選択可能な場合は、SMART-PMI の小さい方を選んだ方が製造プロセスにおけるリスクを回避しやすいとも考えられる。
実例
Gefapixant (MK-7264)[1]
計算した complexity = 2.4 (citrateは除く);MW = 353 (citrateは除く)
SMART-PMI = 218(citrateは除く) + 20(citrate) = 238 (citrate 含む)
PMI Successful = 216–259; PMI Exceptional = 129–215; PMI Aspirational = <129
実際の臨床試験用プロセスの PMI = 366 … SMART-PMI (238)より大きく、従来の技術や考え方をつかって改善できる余地があると評価できる。
2020年に公開された実際の工業プロセスの PMI = 88[1](原著論文[4]中では78と記載) … Aspirational のレベルまで下げることができた、優れたルートであると評価できる。
参考文献
- Sherer, E. C.; Bagchi, A.; Kosjek, B.; Maloney, K. M.; Peng, Z.; Robaire, S. A.; Sheridan, R. P.; Metwally, E.; Campeau, L.-C. Driving Aspirational Process Mass Intensity Using Simple Structure-Based Prediction. Org. Process Res. Dev. 2022, 26, 1405-1410. DOI: 10.1021/acs.oprd.1c00477
- Sheridan, R. P.; Zorn, N.; Sherer, E. C.; Campeau, L.-C.; Chang, C. Z.; Cumming, J.; Maddess, M. L.; Nantermet, P. G.; Sinz, C. J.; O’Shea, P. D. Modeling a Crowdsourced Definition of Molecular Complexity. Journal of Chemical Information and Modeling 2014, 54, 1604-1616. DOI: 10.1021/ci5001778
- https://github.com/Merck/compoundcomplexity 利用環境として MOE とPerl が必要。
- Ren, H.; Maloney, K. M.; Basu, K.; Di Maso, M. J.; Humphrey, G. R.; Peng, F.; Desmond, R.; Otte, D. A. L.; Alwedi, E.; Liu, W.; et al. Development of a Green and Sustainable Manufacturing Process for Gefapixant Citrate (MK-7264) Part 1: Introduction and Process Overview. Org. Process Res. Dev. 2020, 24, 2445-2452. DOI: 10.1021/acs.oprd.0c00248
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