2016年11月2日水曜日

山手線が見送った「中吊り広告完全デジタル化」をなぜ西武が車両投入したのか?


デジタルサイネージの搭載で中吊り広告をなくした西武の新型車両40000系(写真提供:西武鉄道)

JR山手線の新型車両では見送られた、デジタルサイネージによる「中吊り広告デジタル化」がついに実現する。西武鉄道が9月8日に第一陣の完成を発表した来春デビュー予定の新型車両「40000系」に導入され、紙の広告も残るものの、中吊り広告は廃止される。

40000系の導入は2015年の夏に発表された。座席の向きを長手方向のロングシートと、2人がけのクロスシートの両方に変換できる「ロング・クロスシート転換車両」となることや、ベビーカーなどの利用に便利な空間「パートナーゾーン」の設置などが注目されていたが、デジタルサイネージによる中吊り広告の廃止が明らかになったのは今回が初めてだ。

――1両に最大16面のサイネージ

西武の新型車両40000系の外観(写真提供:西武鉄道)

西武によると、40000系の車内にはドア上のほか、線路と直角方向となる通路上に17インチ液晶ディスプレイを2つ並べたデジタルサイネージを1両あたり12~16面、10両編成で計156面搭載。停車駅などの案内に加え、ニュースや天気予報などの放映にも対応する。

同社は車内のデジタルサイネージを「Smileビジョン」と名付けており、現時点での最新型車両である30000系と、地下鉄乗り入れ対応車両の6000系に搭載している。いずれもドア上に設置しているが、40000系ではこれが一気に増えることになる。

デジタル広告に力を入れる西武

クロスシート状態になった座席と壁際に設置されたコンセント(写真提供:西武鉄道)

さらに、車内にはクロスシート状態のときに使用できるコンセントも2席に1つずつ装備するほか、Wi-Fi設備も搭載。40000系は来春から運行を開始する予定の座席指定制列車に使用するため、長距離の利用に対応してトイレも1カ所装備する。

西武は今年3月にリニューアルが完成した池袋駅のコンコースに、首都圏初となる4K対応の84インチディスプレイを含む計132画面を設置するなど、デジタルサイネージに力を入れている。

昨年11月末に登場したJR山手線の新型車両「E235系」は、ドア上だけでなく車内の荷棚上にも液晶ディスプレイを搭載し、運行開始前は「中吊り広告がなくなる」という噂で話題を呼んだが、結果的には中吊り広告は継続となった。西武の新型車両での中吊り広告廃止は、鉄道関係者や広告関係者の話題を呼びそうだ。

40000系は10両編成8本が導入される予定で、このうちロング・クロスシート転換車両とデジタルサイネージの搭載は、今回完成した編成を含む今年度導入の2本には採用するが、残りの6編成については現時点ではまだ決まっていないという。

――座席指定列車は来春から

この車両を使用する座席指定列車は、平日は通勤客向けとして西武池袋線~東京メトロ有楽町線直通列車に、土曜・休日は観光客向けとして西武秩父線・池袋線~東京メトロ副都心線~東急東横線~みなとみらい線(横浜高速鉄道)間を運転する計画。東京メトロ副都心線・東急東横線・みなとみらい線では初の座席指定列車となる。

関東の鉄道各社では「座れる通勤列車」の導入や計画が相次いでおり、今年春には京王電鉄も新たに導入するロング・クロスシート転換車両によって、2018年春から座席指定制の列車を運転すると発表。同社の車両もコンセントやWi-Fi設備の設置などをうたっており、私鉄各社の新型車両によるサービス競争が加速しそうだ。

デジタルサイネージの充実による中吊り広告の廃止、さらに地下鉄を経由して関東地方を縦断する座席指定列車としての運転と、話題性の多い西武の新型車両40000系。利用者の前にその姿を現すまではあと半年ほどだ。

著者
小佐野 景寿:東洋経済 記者

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