2016年11月2日水曜日

3Dプリンタで磁石を作ることに成功 - ウィーン工科大 荒井聡


ウィーン工科大学の研究チームは、3Dプリンタを使って磁石を作ることに成功した。これにより、望みどおりの形状の磁場を持った永久磁石を手軽に作製できるようになる。研究論文は学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。

永久磁石の性能については、磁力の強さ以外に、発生する磁場の形状を制御したいという要求がある。たとえば、ある方向に対しては磁場一定だが、別の方向に対しては磁場の強度が変化するというような磁石が欲しい場合、コンピュータを使って適切な磁石の形状を計算すればよい。

しかし、こうして計算して設計したとおりの磁石を、実際に作るのは難しい。ひとつの方法として射出成形技術を用いるやり方がある。ただし、成形用の金型の作製に時間とコストがかかるため、少量・単品の磁石を作るには向かない。

3Dプリンタで作製したキャップ状の磁石(出所:ウィーン工科大学)

そこで、もっと簡単な方法として研究チームが着目したのが、3Dプリンタを利用した磁石の成形である。3D磁石プリンタは通常の3Dプリンタとほぼ同じ原理で動作する。異なるのは、通常の3Dプリンタがプラスチックを成形するのに対して、磁石プリンタではフィラメント状の磁性マイクロ粒を高分子バインダーと合わせて使用する点である。この材料を加熱し、ノズルを用いて必要な位置に1点ずつ配置していくことで、予め設計したとおりの形状を作っていく。これにより、磁性材料90%程度、プラスチック10%程度で構成された三次元物体を得ることができる。

ただし、この時点ではまだ、マイクロ粒が磁化されていない状態であるため、作製された物体は磁性を示さない。作製プロセスの最終段階で製作物を強力な外部磁場にさらすことによって、はじめて永久磁石に転化する。

この技術を使えば、コンピュータで設計したさまざまな種類と形状の磁石を、短時間で精密に実現できる。磁石のサイズは数cm~数十cmの範囲に対応でき、1mmの加工精度で成形できる。今回の研究では、極めて強力な磁性を持つネオジム鉄ボロン磁石のフィラメントを使って、特定の漂遊磁場を発生させる複雑な形状の磁石を作製した。論文では、設計段階での磁場シミュレーションと、実際に作製した磁石の磁場形状がよく一致していることが示された。

異なる種類の磁性材料を組み合わせることも可能(出所:ウィーン工科大学)

磁石プリンタを使うことで、時間とコストを節約できるだけでなく、従来の方法では作れなかった新しいタイプの磁石を作ることもできる。たとえば、異なる種類の磁性材料をひとつの磁石の中で使うことによって、磁力の強弱を磁石内で滑らかに変化させることなども可能であるという。研究チームのDieter Süss氏は「3Dプリント技術によって、これまでは空想することしかできなかったようなデザインの磁石が現実のものになる」とコメントしている。


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