数十年前から、従業員のリモートワーク(在宅勤務)を認めてきたIBMが、社員にオフィスでの勤務を命じる通達を出した。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、会社の方針転換に応じられない場合、社員は離職を求められるという。
マーケティング部門に務める2600人に加え、人員数が明らかにされていないIT部門、調達部門、そして自己学習プログラムWatson関連部門に所属するIBM社員は今年2月、アトランタ、オースティン、ボストン、ニューヨーク、ローリー(ノースカロライナ州)、そしてサンフランシスコのアメリカ6都市で勤務しなければならないとの通知を受けた。
1995年から2009年にかけて、同社はオフィスの面積を7800万平方フイート(約725万平方メートル)縮小し、1億ドル(約111億円)以上のコストを削減したという。だが、同社は直近の20四半期連続で減収となっている。職場をネットワーク上から現実のオフィスへと移すというIBMの決断は、同社が長く重んじてきた、仕事をする環境を社員に委ねるというポリシーを覆すものだ。
他の企業もIBMの在宅勤務に追随し、リモートワークはホワイトカラー職種にとって、望ましい労働条件と見なされるようになった。現在、アメリカ人の4人に1人がリモートワークで仕事をしている。また、現在リモートワークを利用していない人々のうち、80〜90%がリモートワークでの勤務を望んでいるとのデータもある。IBMの広報担当者はマーケティングチームを、段階的にオフィス勤務へと移行させる決定を下したのは、現場の要望を受けたものだとも説明している。
「現代のマーケティングは、人から人へと仕事が手渡される流れ作業ではない。事業を進める中で発生する変化の影響を瞬時に理解し、リアルタイムで反応を返すというような双方向的な業務だ」と、IBMの広報担当者はBusiness Insiderに語った。
同社の社員もIBMのチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)、ミッチェル・ペルーソ(Michelle Peluso)氏から、これに近いメッセージを社内向け動画で受け取っている。
ペルーソ氏は「顔を合わせて仕事をすることで、チームはさらに強力になり、影響力を持ち、クリエイティブになる。そして楽しんで働くことが出来るようになるとも思っている。人々が集まることで、新しい可能性も生まれるだろう」と説明したと伝えられている。
多くの研究は、リモートワークが従業員と雇用者の双方に、デメリットを上回る利益をもたらすことを指摘している。4000件以上の調査を基に、Global Workplace Analyticsが行った分析によると、遠隔就業には、デメリットに対して2倍ものメリットがあるという。リモートワークを利用する従業員の多くは、幸福度と生産性が高く、離職率も低い。
一方、リモートワークによって、同僚間で嫉妬心が芽生えたり、セキュリティリスク上の問題が高まる可能性も指摘された。また上司が部下への不信感を募らせるケースもあるという。
Global Workplace Analyticsは、リモートワークに適合しない社員の存在についても言及している。社員の中には、自己管理能力に乏しい人材や、個人の技術的な問題でリモートワークが不適当なケースも存在するという。
IBMの広報担当者は、国際的な研究を引き合いに出し「同じオフィス内という小回りのきく環境で働くマーケティングチームは、より効果的に働くことができ、仕事へのやり甲斐もより多く感じられる。事実、マーケティング部門全体でこの体制を敷いたところ、とても良い反応が返ってきている」と話した。
一方ペルーソ氏は従業員に対し、今回の改革が一部の従業員にとって、難しい決断になる可能性についても語ったという。特に、家族連れは「仕事」と「住む場所」を天秤にかけなければならない。匿名を条件に、IBM社員の1人が経済ニュースサイトQuartzに語ったところによると、今回の決定に対する社内の評判は芳しくないという。
同社員は「私の知る限り皆、今回の決定に怒りを覚えている」と語った。
(翻訳:忍足亜輝)
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