2019年1月11日金曜日

FOCAL Aria 906 レビュー(シェアしました。)

勉強の為に転載しました。
http://blog.livedoor.jp/yoshi_audio/archives/Aria906_Review.html

focal-aria-906-gallery
我が家の Aria 906 は Walnut 仕上げ。キャビネットは3種類の素材が組み合わされた、非常に凝った作りだ。Utopia III シリーズで実績のあるフランスのデザインハウス Pineau & Le Porcher によるデザインである。
デザインするにあたり、メーカーが求めるパフォーマンスを満足した上で、最も美しく最適な素材を選択している。トップのガラスは充分な強度のため、前面と背面バッフルの合成レザーは回折を考慮し適切な吸収性を実現するために採用。サイド面は、PVC の素材にピーチスキン仕上げを施し高級感を演出。すべすべとした触感が特徴で、木目は大変美しく、同系色の家具とのマッチングも良い。
※ 別色の Black High Gloss は、複層の塗装と、磨き上げを施した高級感を漂わせる仕上げ。両者間の3万という価格差は、これに掛かるコストと工数が上乗せされた結果だ。
Aria906_side
そして、バスとミッドレンジのドライバーには、その存在を感じさせないようにソリッドなメタルリングを装着。ツイーター部は、拡散性能を向上させることを優先し、黒の艶消し塗装されたウェーブガードを搭載。グリルは磁石脱着式である。どの方向から見てもネジ穴などは一切見られず、細部までこだわり抜いたデザインで、家具の一部としてインテリアに違和感なく溶け込む。
Aria906_tweeter
ユニットも Aria シリーズを産み出すに当たって新開発。詳細な説明はメーカーサイトに譲るが、特にウーハーの振動板については、5年もの歳月を費やしたそうだ。FLAX (亜麻) をコア素材とし、グラスファイバーで両面から包み込む FOCAL お得意のサンドイッチ構造。フランスは FLAX (亜麻) の産地として古くから有名で、その質は世界最高と言われており、この素材に辿り着いたのは必然と言えるだろう。ツイーターについても、最上位機種 Utopia で得られた成果をこのクラスにも還元した新しい TNF Tweeter を開発。製造工程においても、これまで手作業で行われていた成型プロセスの自動化を成功させ、低コストで高品質を実現したという。
Aria906_tweeter2
さらに、ユニットからキャビネット、仕上げに至る製造や組立、その工程全てがフランスの自社工場で行われている。B&W や KEF といった名だたるメーカーでさえ、中価格帯以下はすべて東アジア製であろう。FOCAL は Aria シリーズの弟分に Chorus シリーズという低価格モデルもあるが、これらも含めすべてが自国生産。コストカットが企業の至上命題と言っても過言ではない現代にあって、敢えて自国製を貫くメーカーの姿勢に、強い熱意とプライドを感じずにはいられない。
※他に自国製を通すメーカーは デンマーク Dynaudio、スイス PIEGA 等がある。
Aria906_grille
その想いが音質となって表れるのは当然のことで、まず最初に気付かされたのは広いサウンドステージ。これまで聴いたどのスピーカーよりも、大きな幅と奥行き、高さを感じる。我が家では今までに経験したことのない感覚だ。
この特徴はどのジャンルを聴いても恩恵を受けている。クラシックでは、楽器から奏でられる音に、より自然な広がりをもたらす。ジャズであればバンド間の距離間を絶妙に表現し、各パートの存在感をより引き立たせる。ポップスやロックでは、より開放的な演奏と実在感のあるボーカルを生み出す。ブックシェルフという限られたサイズで、どうやったらこんな表現が出来るのか説明できないが、目の前に実現されているんだから不思議だ。
Aria906_flax
次に感じたのは、自然で優しい音だということ。聴いていて心地が良い。細かい音も聴こえるが、分析的なスピーカーというわけではない。過去に非常に細かい音まで表現するスピーカーを聴いたことがある。最初はこんなに情報量が多いものかと感心したものだが、こういう聴き方は長く聴けない(正確には“聴けなくなった”だが)。
一方、Aria 906 は、飛んでくる音の粒子が細かく、繊細さもあるが、聴き疲れしない自然な鳴り方をしている。比較的騒がしいロックやポップスの曲を聴いても煩さを感じず、耳が痛くならず聴き疲れもしない。良く言えば上品なのかもしれないが、身体に染みこんでくるような浸透力のある音と表現するのが適切だろう。音量を上げてもこの傾向は同じで、長時間気持ち良く聴くことができる。これは私にとってまさに好みで、どっぷりと音楽に浸ることができる。
Aria906_logo_net
全体のバランスも非常に良い。高音は非常に綺麗で華やか、中音は充分な厚みがあり、低音もキレが良い。ジャズの中でも一番好きな楽器はアルトサックスだが、Ernie Watts の In a Sentimental Mood ([AL] Classic Moods) から奏でられるその音は、情緒もたっぷりで非常に色気のある鳴り方をする。男女混声のアカペラグループ The Idea of North の His Eye Is On The Sparrow ([AL] Evidence) では男女それぞれのボーカルの存在感が非常にリアルで、グループが調和するハーモニーには大いに引き込まれる。
Aria906_woofer

ここで少し話が理屈っぽくなってしまうが、Soundstage! HiFi 測定によれば、 Aria 906 は 80Hz 〜 15kHz の間で水平方向 0 ~ 75 度までの周波数特性が素晴らしく均一だという。これがトータル的なバランスの良さと広大なサウンドステージを実現するのに一役買っているようだ。
更にもう一つ、測定結果から気づいたことがある。45 〜 75度のグラフで見ると顕著なのだが、10 〜 15kHzあたりで比較的分かりやすい落ち込みが見られる。どこかで見たことがあると思ったら、FM放送の周波数特性に似ているのだ。

<FMの周波数特性>
fm-station
FM放送では一般的に15kHz頃から急激に減衰し、それ以上の周波数は殆ど情報(パイロット信号を除く)がない。この影響からか、FM放送というのは聴き疲れしにくく、ながら聴きに最適な音質になっているように思う。当然ながら、Aria 906 は 20kHz 以上も充分な特性が出ており、根本的には FM とは異なるのだが、この特徴が Aria 906 にも少なからず現れていると考えれば、自然で聴きやすいというのも頷ける。
さて、話を実際の音質に戻して、最後に不満を上げる。まず低音域と言う事になるが、これはどのブックシェルフにも共通の課題と言える。クラシックで求められる非常に低い音域やフルオーケストラの雄大さを表現するには、926 や 936 などのフロア型に頼る方が良いかもしれない。ちなみに、ピアノの最低音は30Hzで、Aria 906 の再生周波数は 55Hz~28kHz。雰囲気は出せるけど、充分かと言われればちょっと苦しいだろう。ただ、先の測定でも 80Hz までは充分で、その下も 50Hz までは出ている。Eagles の Hotel Calfornia (Hell Freezes Over) で冒頭に出てくるティンパニや、Michael Jackson の Black and White (Dangerous) のドアを叩く音など、「トンッ!トンッ!」ではなく、ちゃんと「ドンッ!ドンッ!」とフロア型にも聴き劣りしない音を出してくれるし、ジャズのバスドラの音は非常にキレが良くユニットの特徴が充分活かされていると感じる。
Aria906_rear
そのほか、その上品さゆえにハードロックなどの激しく元気のある音を求める場合は物足りないと感じるかもしれない。私自身は、ロックでも比較的大人しい方ばかりなので、大きな不満にはならないが。

<まとめ>
広大なサウンドステージとナチュラルさを備えた上で、トータルでバランスの整った音。これが私が感じたこのスピーカーの特徴である。Made in France を一貫し、デザインにもユニットにもメーカーの妥協のない姿勢が表れている。実勢13万という価格でこの実力を備えたスピーカーがあったとは、初めて本格的なオーディオに出会った時以来の感動かもしれない。
なぜ埋もれているのか不思議なくらいである。ここ最近オーディオ雑誌にも多く目を通しているが、Aria を取り上げている雑誌はひとつも見当たらなかった。宣伝費にお金をかけないからなのか知らないが、FOCAL そのものの知名度が非常に低いのは残念だ。

ぜひ多くの人にも聴いてみて欲しい、超オススメのスピーカーである。

【2015.11.14 追記】
海外サイトの翻訳記事を2本追加しました
FOCAL Aria 906 レビュー 【Hi-Fi Choice 翻訳版】

【2016.01.17 追記】
Aria シリーズについて追加情報。なんと、Aria の設計には日本人が大きく関わっているようだ。以下に、ステレオサウンド 2014 Winter (No.189) で掲載されている「フォーカル新CEO クリストフ・シコウ氏に訊く」の記事(三浦孝仁氏執筆)から、同社 CEO Christophe Sicaud 氏の言葉を引用させて頂く。
Aria 900シリーズは音質とルックスについて、これまで以上にデザインされた新製品です。外観については、アイ・バリュー、つまり視覚的な価値の高さを追求しています。しかし、音質がもっとも重要です。新開発のフラックス・サンドイッチ振動板は、日本から来たエンジニアのシンタロウ(細井慎太郎)が努力して完成させました。私は彼に繊維素材を使ったらどうかと提案していたのです。それは私の知識と経験からの自然なアドバイスでした。結果的にフランス産の亜麻繊維を使うことが決まりましたが、成型にはかなり苦労しました。シンタロウはフォーカルにとってもっとも重要なデザイナーのひとりに成長しています。彼がいなかったら、Aria 900 シリーズは完成しなかったでしょう
ここで出てくる「細井慎太郎」その人こそが、Aria 900シリーズの中心人物という事である。Google 先生に尋ねてみたところ、細井氏は、1999年〜2009年まで約10年超、なんとパイオニアに所属していたようだ。しかも、同社スピーカー技術部で、あの EXシリーズ「S-1EX」に採用されたマグネシウム振動板とベリリウム振動板を用いた同軸ユニットを設計。その後の「S-3EX」も彼が手がけたものだという。EX シリーズと言えば、パイオニアが世界に誇る TAD の技術を惜しみなく投入し、当時のオーディオ業界に鳴り物入りで登場したスピーカーだ。その設計の中心メンバーの1人が細井氏と言うことだ。細井氏は他にも、フェーズバンドコントロール というAVアンプに採用されたテクノロジを開発した中心人物でもあるようで、パイオニアのオーディオ設計の最前線にいた方と言えるだろう。
その彼が 2009年11月 FOCAL に籍を移し、同社でスピーカー設計に携わっていた。パイオニアで実績充分の彼が、FOCAL で本格的に手がけたスピーカーが Aria シリーズ。これまでの FOCAL のスピーカーと毛色が違うと感じたのは彼の影響によるものだったのかと、今になって気付かされた。去年発表された Sopra No2 も彼が手がけたモデルだそうだ。日本人設計者が海外のスピーカー設計に深く関わったメーカーを他に知らないが、日本人として誇りに思いますなぁ。そして、初めて FOCAL に触れるキッカケになった製品が Aria だった事が何だか嬉しいし、二度美味しい気分。感謝の想いでいっぱいだ。細井さん、これからも頑張って〜!

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