2024年1月20日土曜日

海水から水素の製造可能に、貴金属を使わない合金電極を開発 筑波大など 2024.01.18

 

https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20240118_n01/


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 豊富な海水を電気分解して水素を工業的に製造できるようにする合金電極を、筑波大学などのグループが開発した。チタンなど化学反応を起こしやすい9つの卑金属元素で構成する。加速劣化試験で10年以上は使える耐久性を確認。イリジウムなど高価な貴金属を用いなくてすむため、海に面する砂漠地帯などで安価に水素が作れる可能性があるという。

9種類216個の原子で構成する合金の構造モデル(筑波大学数理物質系伊藤良一准教授提供)
9種類216個の原子で構成する合金の構造モデル(筑波大学数理物質系伊藤良一准教授提供)

 脱炭素が求められる昨今、水素は化石燃料に代わるエネルギーとして注目されている。再生可能エネルギーを使って海水を電気分解するのが手っ取り早いが、海水中の塩化物イオンが電気化学反応を起こして電極(陽極)が劣化するのを防ぐには、イリジウムや白金、ルテニウムなどの貴金属を材料として使う必要がある。

 筑波大学数理物質系の伊藤良一准教授(電気化学)らは、コストの安い卑金属で耐久性のある電極づくりを目指した。5つ以上の多元素がほぼ同じ原子量で溶けて均一に固まった「高エントロピー合金」は強度と触媒能力が向上し、化学反応に対する安定性が優れることに着目。卑金属15の元素を候補として、すべてを加えた合金の安定性を調べた。

 塩水中で電流を流し、溶けずに残った成分であるチタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)の卑金属9元素を、産業で多用されるアーク溶解法という不活性なガス中で合金にし、2022年に発表した。

合金の透過型電子顕微鏡像(左上)と、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Moについて元素分析を行った「その場元素マッピング」像。9つの元素が均一に混じり合っている(筑波大学数理物質系伊藤良一准教授提供)
合金の透過型電子顕微鏡像(左上)と、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Moについて元素分析を行った「その場元素マッピング」像。9つの元素が均一に混じり合っている(筑波大学数理物質系伊藤良一准教授提供)

 この合金電極を海水の塩分濃度に相当する塩化ナトリウム水溶液と実際の海水に入れ、電源のオンとオフを6000回繰り返す加速劣化試験を行ったところ、水溶液、海水ともに電解性能をそれぞれ97%、92%まで保持できた。1日1回電源がオンとオフになる太陽光発電を利用した場合、10年以上は電極の劣化がほぼ起きないとされる高い耐久性が示された。

合金電極の加速劣化試験。電位に対して電流密度が大きくなるほど水電解が起き、水素発生も多くなる(筑波大学数理物質系伊藤良一准教授提供)
合金電極の加速劣化試験。電位に対して電流密度が大きくなるほど水電解が起き、水素発生も多くなる(筑波大学数理物質系伊藤良一准教授提供)

 化学反応を起こしやすい卑金属でありながら耐久性がある理由を、シミュレーションによって解析した。電極表面の酸化によって塩化物イオンが表面へ吸着しにくくなるうえ、水から酸素を発生させる触媒として働く場所に塩素がくっつきにくくなり、触媒活性が保たれるとみている。

 卑金属合金は耐久性こそ高いものの、酸化イリジウムに比べると高電圧が必要でエネルギー効率が劣る。伊藤准教授は「改善の余地はあるが、淡水も貴金属も必要としない水素製造が将来見込める」と話している。

 研究は名古屋大学や高知工科大学と共同で行い、2023年12月9日付けの国際学術誌ケミカルエンジニアリングジャーナルに掲載された。

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