2024年1月20日土曜日

光合成タンパク質の正確な構造を解明 2014.12.01

 

https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20141201_02/index.html

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 光合成による水分解反応を触媒する光化学系Ⅱ複合体の正確な構造を、岡山大学大学院自然科学研究科の沈建仁(しん けんじん)教授、菅倫寛(すが みちひろ)助教、秋田総理(あきた ふさみち)助教らが突き止めた。X線自由電子レーザー施設SACLA(さくら、兵庫県佐用町)で解析した成果で、人工光合成開発の糸口になりそうだ。理化学研究所放射光科学総合研究センターの山本雅貴(やまもと まさき)部長、吾郷日出夫(あごう ひでお)専任研究員らとの共同研究で、11月27日付の英科学誌ネイチャーのオンライン版に発表した。

 植物の光合成は、太陽光を利用して、生物が利用可能な化学エネルギーに変換するとともに、水を分解して酸素を作り出している。この反応を担っているのは、藻類や植物の葉の中の葉緑体にある複雑な膜分子の光化学系Ⅱ複合体で、19個ものタンパク質からなる。沈教授らは2011年、日本の温泉由来のラン藻の一種から取り出した光化学系Ⅱ複合体の世界最高品質の結晶を作り、その構造を大型放射光施設のSPring-8(佐用町)の放射光X線を用いて、高い分解能で解析した。

 この成果は、米科学誌サイエンスによって2011年の科学上の10大発見に選ばれたほど注目された。しかし、X線結晶構造解析で使用するX線回折写真の撮影に必要な1秒のX線照射の間に、水分解反応の触媒中心の一部がX線による放射線損傷を受けて、本来の構造とわずかに異なっている可能性があり、より正確な構造解析が求められていた。

 研究グループは今回、同じ良質の光化学系Ⅱの結晶を、12年から使えるようになったSACLAに持ち込み、そのフェムト秒X線結晶構造解析を試みた。この自由電子レーザーは1パルスでX線回折写真を撮影できるほど極めて明るい。しかも、1パルスの継続時間が100兆分の1秒(10フェムト秒)とごく短いため、X線による放射線損傷で分子の構造変化が起こる前に、X線回折写真を撮影でき、正確な構造がわかる利点がある。

 この方法で、光合成の光化学系Ⅱ複合体の本来の構造を1.95 オングストローム(1オングストロームは1億分の1センチ)の分解能で詳細に解析することに初めて成功した。今回明らかにしたタンパク質中のマンガン原子と酸素原子の距離は、SPring-8の放射光を用いて得られた構造より0.1〜0.3オングストローム程度短くなり、水分解反応の鍵を握る触媒の反応中心の部位をより正確に絞り込めた。構造から、水分解の反応の仕組みも推定した。

 沈建仁教授は「放射光の撮影には1秒かかっていたが、今回はその100兆倍も高速の撮影をして、本来の構造を捉えることができた。この解析で、効率的な光合成の水分解反応の動的な仕組み解明に近づいた。光化学系Ⅱの反応は『人類の夢』といえる人工光合成の実現に重要なヒントを与えるものになるだろう」と話している。

光化学系Ⅱ複合体の構造。19個のタンパク質からなる単量体が2つ集まった2量体構造で、真ん中に対象軸がある。青色のボールは水分子を表す。
光化学系Ⅱ複合体の構造。19個のタンパク質からなる単量体が2つ集まった2量体構造で、真ん中に対象軸がある。青色のボールは水分子を表す。
光化学系Ⅱに含まれている水分解触媒の構造。左は、SACLAのX線自由電子レーザーで解析された構造。各原子間の距離をオングストロームで表している。右は、左側の触媒の構造を回転し、地球儀の上に載せて表した。
図2. 光化学系Ⅱに含まれている水分解触媒の構造。左は、SACLAのX線自由電子レーザーで解析された構造。各原子間の距離をオングストロームで表している。右は、左側の触媒の構造を回転し、地球儀の上に載せて表した。
(いずれも提供:岡山大学)

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