東北大学などの研究グループは、代表的な強磁性トポロジカル半金属であるコバルト(Co)、スズ(Sn)、硫黄(S)の化合物であるCo₃Sn₂S₂の電子状態に着目し、元素置換した薄膜試料を作製することで、異常ネルンスト係数の符号を正・負双方に制御できることを明らかにした。加えて、元素置換で作り分けた2つの強磁性層を接続してサーモパイル素子を作製し、ゼロ磁場下での熱電変換動作を実証した。トポロジカル物質に基づく磁気熱電変換材料の開発やエネルギーハーベスティング(環境発電)の実現に向けた技術の高度化に活用が期待できる。
富山県立大学や物質・材料研究機構(NIMS)と共同で研究した。本研究ではCoをニッケル(Ni)に、Snをインジウム(In)に元素置換した薄膜試料において、電子状態が変調されて、元素置換による異常ネルンスト係数の制御が可能であることを「初めて」(研究グループ)実験的に検証した。スパッタリング法を用いて、①CoをNi置換した「Co₃₋x Ni x Sn₂S₂」と、②SnをIn置換した「Co₃In y Sn₂₋y S₂」、の薄膜を作製し、異常ネルンスト効果の組成依存性を系統的に評価した。100K(セ氏約マイナス173度)で、元素置換していないCo₃Sn₂S₂薄膜の上向き磁化状態における異常ネルンスト係数の符号は正だったが、NiおよびInを微量置換した①②の薄膜においては符号が負に反転することを見いだした。価電子数を減少させるIn置換の効果は電子状態の理論計算と合致する結果だったが、価電子数を増加させるNi置換での符号反転は実験で「初めて」(研究グループ)観測された。
①②の薄膜試料は、強い垂直磁気異方性の強磁性を示すことから、適当な着磁処理を行うことで、磁化の配向をゼロ磁場下でそろえて維持できる。これらの性質を組み合わせ、ゼロ磁場下で、正負の異常ネルンスト係数を持つ2つの強磁性層の接続数に比例して熱起電力が増加することを実証した。これは、元素置換による異常ネルンスト効果の符号制御で実現したサーモパイルの「初めての報告」(研究グループ)となる。
本研究では、汎用的な元素置換の手法で強磁性トポロジカル半金属の異常ネルンスト係数を制御し、サーモパイルを作製した。今後は磁性体、特に、トポロジカル物質の異常ネルンスト効果を用いた素子化研究に向けた取り組みが加速されると期待される。研究グループによれば、本知見を室温で強磁性を示す物質に適用することが、素子応用に向けた当面の課題になる。
<研究概要>
●キーワード
トポロジカル磁性体、トポロジカル半金属、サーモパイル、磁気熱電効果、熱電変換、熱起電力、元素置換、異常ネルンスト効果、垂直磁気異方性、着磁処理、スパッタリング法
●関連研究者
藤原宏平、塚﨑敦、野口駿、柳有起、平井孝昌
●関連研究機関
東北大学金属材料研究所、富山県立大学、物質・材料研究機構
●関連論文掲載先
Nature Physics
●関連論文タイトル
Bipolarity of large anomalous Nernst effect in Weyl magnet-based alloy films
●関連論文URL
https://www.nature.com/articles/s41567-023-02293-z
●詳細情報
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/01/press20240109-02-topo.html
●キーワード
トポロジカル磁性体、トポロジカル半金属、サーモパイル、磁気熱電効果、熱電変換、熱起電力、元素置換、異常ネルンスト効果、垂直磁気異方性、着磁処理、スパッタリング法
●関連研究者
藤原宏平、塚﨑敦、野口駿、柳有起、平井孝昌
●関連研究機関
東北大学金属材料研究所、富山県立大学、物質・材料研究機構
●関連論文掲載先
Nature Physics
●関連論文タイトル
Bipolarity of large anomalous Nernst effect in Weyl magnet-based alloy films
●関連論文URL
https://www.nature.com/articles/s41567-023-02293-z
●詳細情報
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/01/press20240109-02-topo.html
(ニューズフロント 小久保重信)
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