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麻倉怜士の大閻魔帳
第50回
2023年9月26日 08:00
ついに出揃った各社の2023年最新テレビ。今季は各社が採用している有機ELパネルにも違いが生まれており、麻倉怜士氏は「有機ELテレビ戦線異常あり」と表現する。その理由と、各モデルの気になったポイントを独自の目線で解説する。
有機EL戦線“異常の予兆”は去年から
――シャープが7月25日にQD-OLED採用モデル「AQUOS FS1」を発表して、各社の2023年テレビのフラッグシップ機が出揃いましたが、改めて2023年の有機ELパネルの状況を振り返りましょう。
麻倉:今年の有機ELテレビ戦線は異常あり、です。“異常の予兆”は去年からありました。これまでLGディスプレイだけだったパネル供給メーカーにサムスンディスプレイが加わったのです。
そもそも、有機ELの画質は2014~15年くらいから大きくは変わっていません。あの時点で画質という面では、すでに液晶を凌駕していました。つまり、当時ライバルは液晶しかおらず、その液晶よりも圧倒的な高画質を持っていたわけです。その差は説明不要で、誰が見てもわかるものでした。
だから、それ以降にLGディスプレイが取り組んできたことは、例えば「スピーカーなしでも画面から音が出る」、「フレームがない」、「曲げたり、巻き取ったりできる」といった、今までのディスプレイにはなかった機能性や発展性、応用性などの訴求でした。それはとてもユニークでしたね。
ところが、2021年くらいにサムスンディスプレイのQD-OLEDが出てくるという噂が立ち始めました。それまでテレビに使うような大型の有機ELパネルは白色有機ELでしかできないと言われていました。
実際、サムスンディスプレイも一度RGB塗り分け方式の有機ELパネルの製造に失敗しています。当時は55型、2Kパネルでしたが、たいへん少ない良品率だったと言われています。とにかく失敗が多すぎて、結局サムスンは自滅するような形になりました。
しかし、その後サムスンディスプレイは液晶にQDシート(量子ドットシート)を組み合わせたQD液晶を頑張り、そのQD技術を有機ELに導入するという噂が2021年ごろに出始めた。こうして、LGディスプレイのお尻に火がついたわけです。
聞くところによると、LGディスプレイが昨年導入した「OLED.EX」や、今年の「META」パネルは、本来、もっと後に投入するつもりだった技術らしいのです。
LGディスプレイはずっと表に出ないところで画質改善をしていました。取り組んできたのは、もちろん輝度。HDR時代になって、ピーク輝度3,000nitsだというコンテンツも出てきました。
液晶はかなり明るいので、そういったハイピークなHDRコンテンツに対応できますが、有機ELはHDR、特にハイピークに対して弱いところがあった。だから輝度を上げましょうという作戦で、その“前哨戦”が2022年のEXパネル、“本戦”が、英語で「超越」を意味する今回のMETAパネルになります。
さらに将来的には強力なアルゴリズムを開発する方向のようです。LGディスプレイでは、METAの命名は、Facebookがmetaに改名するより早かったのですが、それは社内のことで、タイミングとしてFacebookのmeta改名に先を超されています。
改めて振り返っておくと、2022年のEXパネルは、重水素を使うことでパネルの寿命を延ばし、その延びた寿命分を輝度向上に回しています。これによりピーク輝度が30%ほど向上しました。
EXパネルよりも前のパネルのピーク輝度を1,000nitsだとすると、EXでは30%改善されて1,300nitsになりました。2022年の段階でQD-OLEDを採用しているのはサムスンとソニー、DELLだけだったので、EXでも充分戦えました。
しかし今年のMETAパネルを見てしまうと「ちゃんちゃらおかしいね」となってしまうのです。METAパネルはEXパネルよりもピークが60%明るいとされているので、先程の例に合わせるとピーク輝度が2,000nits以上になるわけです。これはとても大きな違いですね。
METAパネルについて簡単に紹介しておくと、これまで捨てていた迷光をレンズを使って前に押し出すことで、総合的に輝度を上げています。この夏に、ソウルとパジュのLGディスプレイ本社と工場で、METAパネルの開発ストーリーを取材しました。詳しくは、9月16日の発売されたHIVIの秋号に書きました。
壮大な、開発苦闘物語ですが、思いついた最初のきっかけが太陽電池だったそうです。太陽の光を効率的に電池に照射する光を集めるレンズの仕組みを、反対の光を出すディスプレイの発光に応用したらどうかと、発想したそうです。それからの開発が、難事の連続だったという話は、ぜひHIVIの最新号でお読みください。
それはともかく、METAパネルではピーク輝度だけじゃなく、平均輝度もそれなりに上がっています。ピーク輝度というのは、パネルの小さい一部分だけの明るさを測るのでパワーを集めやすいんです。
全体が真っ白な絵では、ピーク輝度とは明るさが相当違います。これまではピーク輝度1,000nitsに対して、全白時は200nits以下程度でした。具体的な数値は公表されていませんが、METAパネルでは全白時の輝度も上がっています。なので、画面全体が明るいんです。中間階調のところがうまく持ち上がっていて、ピークもしっかり上がっている。これはまったくEXでは味わえなかった世界で、確かにすごいなと思います。
もう少しMETAパネルの全白輝度について言うと、それが色再現の改善につながることも、注目です。LGディスプレイの有機ELは、WRGB方式と呼ばれます。白色OLEDパネル+WRGBカラーフィルターという構造です。WOLEDの「W」とは、輝度を高めるための白サブピクセルです。Wのサブピクセルが輝度向上に寄与していますが、半面、色再現に影響します。
でも、全白輝度を高めることができれば、R/G/Bのそれぞれの輝度が上がり、カラーボリュームが増え、色再現性が高まります。すると、「W」への依存度を減らせます。実際、METAパネルでは、ある輝度までは、「W」を発光しないことにしています。今後は色再現改善のため、新しいOLED材料を使った高色再現のOLED素子や高透過・高色彩カラーフィルターなどを開発するとのことです。
――一方のQD-OLEDの進化はどうでしょう?
麻倉:QD-OLEDは、青色一色で発光するパネルにQDフィルターを組み合わせて波長変換して、青から赤、青から緑を作っています。つまり、出てくる光はRGBです。サムスンは当初からRGB方式に取り組んできたので、その目指していた世界に近づいたわけです。色は良くなりましたが、最大の問題点は偏光フィルター/偏光板がないこと。つまり、外光の影響を防ぐものがないんです。
本来はガラスがあって、偏光板があって、有機ELがあります。LGのWOLED有機ELにも偏光板が入っていて、外光による影響を防いでいます。しかし、この偏光板を使うと光の出力が落ちてしまうのです。おそらく、サムスンは色を良くするためだけじゃなく、明るさを確保をしたいから偏光板を外したんだと思います。ただ、その影響が出てしまう。
真っ暗な部屋であれば外光が存在しないので問題ありませんが、普通のリビング程度の明るさだと、外光が画面の中に入ってしまい、特に暗いシーンで赤いノイズが出ることがある。これはシビアに画質を評価すると、当然気になります。液晶にしろ、WOLEDにしろ、暗いところにノイズが出るテレビなんて、今までなかったわけですから。なので、去年の段階では“アンタッチャブルな存在”でした。
2023年のパネルは改良を加えています。ひとつは青色素子の素材が変更され、そもそもの青色が明るくなりました。青色発光層の新材料には「OLED HyperEfficientEL」と命名しました。
さらにビッグデータに基づくAI技術により、各画素の情報をリアルタイムに収集し、それを用いて発光を最適化するためのアルゴリズム「インテリセンスAI」も開発。この高効率の有機材料とよりAI技術の適用により、2022年モデルの消費電力から最大25%削減しています。ピーク輝度もほとんど同じくらいです。
METAパネルは正確には2,100nitsで、QD-OLEDは2,068nitsくらいなので、ほとんど変わりません。単に色が良くなっただけでなく、輝度そのものも上がっているのです。
以前の連載でも紹介しましたが、サムスンは色の高彩度が加わると、たとえ輝度数値は同じであっても、人の視覚の認識では、より明るいと感じるというH-K効果(ヘルムホルツ-コールラウシ効果)を基にした「XCR(eXperiential Color Range)」という独自の尺度を開発しています。そのXCR効果が、今年のパネルには特に出ていて、明るさもあって、パンチもあって、色もすごい。色もひじょうに鮮明なのです。すごく個性が出てきたなと思います。ただし、このXCRはCESでは、大大的にPRしていましたが、実際の広告宣伝には使われていないようです。
各社の個性が出てきた2023年モデル
――新世代パネルについてよくわかりました。それでは各社のテレビについても聞かせてください。まずはパナソニックから。フラッグシップの「MZ2500」にLGのMETAパネルを採用しています。
麻倉:ここから私がさまざまなところで、最新モデルを観た評価を述べましょう。すべての機種で、映像モードはシネマ、もしくはそれに準ずる比較的暗い環境に
適したモードで観ています。HiVi最新号では、詳細な評価を書いていますので、ぜひご覧ください。
MZ2500では、ピーク輝度4,000nitsでHDRオーサリングされている映画「MEG ザ・モンスター」のワンシーンを観ました。小さなサーチライト光源から光が鋭く射出するシーンです。前モデルの「LZ2000」では、光源が白く飛び、そこにある模様は判別できませんでしたが、MZ2500ではこれほど明るいオブジェクトであっても、サーチライトの光源の様子が手に取るように分かりました。
映画自体がピーク輝度4,000nitsでオーサリングされている、つまりその領域までの高輝度映像を再現するには、ピーク輝度が限りなく高くなければなりません。前世代のLZ2000ではその高輝度は再現できないので、白く飛んでしまいました。しかしMZ2500は、そんな難しい映像でも、余裕を持って階調再現できるのです。
そもそもパナソニックのハイエンドモデルである2000番シリーズは、GZから始まってHZ、JZと来ていて、その時々でパネルの使い方がものすごく上手です。上手というのは、パネルのひとつの改良点を捉えるだけでなく、全体のクオリティを持ち上げているということ。今回で言うと、ピークの明るさも良い上に、黒の表現も良くなっています。階調がしっかり出て、締まりも出ていて、全体の品位感というか、質感が良いんですよね。
輝度の話ばかりしていると、「明るいだけじゃないの?」というイメージになりますが、全体がすごくいい。QD-OLEDほどではありませんが、色のバランスも良く、なおかつ黒の再現度もバランスが良くて、全体に画質が上がっています。MZはひとつのメルクマールというか、画質づくりにおける権威者のような存在で、全体的なパフォーマンスを持ち上げているなと思います。
とくに良いのは色のバランス。強調感や不足感がなく、過不足のない彩度感、色相感をしているんですよ。肌色が一番分かりやすいです。肌のツヤ感や中間調も絶妙な色合いをしていますね。しっとりするような画はしっとりしますし、フォーカスが必要な画は、きちっとフォーカスが出ています。
「自分たちの絵はこうだ!」と押し付けるのではなく、入ってくる信号に対して、「表現したいものを代弁しますよ」という雰囲気がある。これは相当手練の絵づくり師じゃないと、できないレベルですね。フツーは新しいパネルを手に入れると、そのパネルの良さをガーンと出して「どうだ!」とやりたくなるもの。それに対して、ちゃんとパナソニックの“物語”があるのは流石だなと思います。
――ちゃんと使いこなした上で、パナソニックにおける“マスモニ”のような存在として、レベルが違う世界をちゃんと再現しているわけですね。
麻倉:(METAパネルを)よくこの短期間で使いこなしたなと感心します。METAパネルを提案されたのは去年くらいだと思うので、1年以内で形にしているわけです。しかも1月のCES 2023で披露しているわけですから、それまでにある程度、形にしていると考えると、数カ月でこのレベルまで持ってきていることになる。やはり絵づくりの経験もあるし、ノウハウもあるし、リファレンスが確立されているんじゃないかと思います。
2000番シリーズは、HiViグランプリを取ることが多いシリーズです。去年、LZ2000もグランプリを受賞していますが、MZ2500のほうが断然良いですね。やはりEXパネルでは限界があるんです。ベーシックな限界というか、パネル自体のインフラ的な限界で「持っている性能以上のものは出せませんよ」という印象があります。
今年はもともと絵づくりに力があるところに、METAパネルという“良い素材”が来たというか。凄腕の料理人のところに、高級素材が来たようなものですよ。悪い素材でも、そこそこ美味しい料理に仕上げる料理人のところに、ブランド牛が届いたような感じです。達人がブランド牛を料理すると、ここまで味が出るのか! と痛感しました。
――そんなMZ2500と同じく、METAパネル搭載モデル「G3」を投入しているのがLGです。
麻倉:G3には、MZ2500と同じように感動しました。パナソニックとは(絵づくりなどは)大いに違います。こちらは、METAパネルを使うことで、それをテコに画質をぐっとあげた印象です。
パナソニックも同じパネルを使っていますが、主役はパネルではなく、あくまでパナソニックです。ところが、LGのG3は素直にパネル自体のパフォーマンスを利用 しようとしています。全体的にとてもスッキリしていて明るいんです。中間調も良い。ピークも良いですし、色再現性も良くなっています。
パナソニックは、素材をどういう順番で調理するのかというところに匠の技を駆使していますが、LGはMETAパネルが持っているハイパワーというか、全体の明るさ、中間調の色の良さなどを、素直に出している。基本的にはコントラストが高いんですが、階調感もいい。有機ELが一番最初に批判を受けた暗部の情報もよく出ている。演者の目に映るキャッチライトの輝きにピーク感がありましたね。
今回は特に明るさの付加価値感のようなものを感じました。オーディオに例えると、ハイレンジで、ダイナミックでキレが良くて、情報量が多い、ハイレゾな感じです。そういった画の強さをストレートに、でも強調感があるわけではなく、バランスよくストレートに出している印象がありました。明るさをテコにした絵づくりは、今回ひとつステップが上がったなと思います。
また、以前からLGはプロセッサーを前面に打ち出していて、パネルについては言及しないメーカーでした。それが今回、日本市場でのみMETAパネルやマイクロレンズアレイについて説明しているのです。これはLGの世界的な戦略からすると異例なことですよ。実際、今回も日本以外の市場ではMETAパネルやマイクロレンズアレイにまったく言及していない。その代わりプロセッサーを訴求しているんです。
つまり、LGはそれだけ絵づくりに力を入れてきた会社と言えるわけで、そういう点ではパナソニックと方向性が似ているとも言えます。その絵づくりも、G3では特にAI周りが一段上がってきて、そこにMETAパネルの力も合わさったというのが大きな違いですね。
同じパネルを使っていても、パナソニックだとプロっぽい、精密な、精緻な印象を受けましたが、LGはそういう意味ではプロっぽいというよりも、「とにかく明るいだろう! 楽しいだろう!」といった感じの、世界共通に誰もが楽しいと思うような仕上がりです。明るくて、色もクリアで、伸びや良くて、輝いている、ブリリアントな感じ。LGはこれまでも基本的にそういう絵づくりをしてきたわけですが、そこにMETAパネルの力が加わることで、良いところが浮き出てきた印象がありました。
ただ、これだけは言っておきたいのですが、LGのリモコンはもの凄く、“超”使いにくい! 他社のリモコンでは操作カーソルが移動する先は決まっていますが、LGのリモコンはポインティングデバイスのように自由に移動できるので、選びたいボタンを行き過ぎてしまう。絶対オーバーシュートするし、「行き過ぎた」と思って戻すと、今度はアンダーシュートしたりして。
ゲームではよいとは思いますけど、普通のリモコンとして、ここまで使いにくいものはない。まさに史上最悪のリモコンだと断言しておきます(笑)。
――そんなパナソニックやLGとは違い、EXパネルを採用したのがTVS REGZA「X9900M」でした。
麻倉:レグザはこれまで絵づくりが上手いとされてきましたが、いまや絵づくりで勝負する時代というより、パネルが大改革される時代です。つまりパネルの力をうまく使いこなさなければならない。“パネルドリブン”が今シーズンのテレビトレンドなのです。
METAパネルとQD-OLEDパネルを搭載した新有機ELテレビは、それ以外の旧バネルの有機ELより、インフラ的に確実にアドバンスしたクオリティを見せています。でもレグザは2022年のEXパネルなので、レグザのすごく細かいところまでこだわる良さが、残念ながらそれほど目立たないと感じます。そういう点でレグザは可哀想。
METAパネルを使ったモデルと比べてしまうと、あきらかに明るさが低く、絵の抜け感やクリア感もそれなりのレベルでしか出てきません。色のクリア感も同じです。今はどれだけ明るいか、どれだけ色が出るかといったところが、業界全体の流れになっています。ぜひレグザも、METAパネルを採用する方向に進みたいですね。
とはいえお家芸である、超解像などの高画質テクニックは、さすがという感じがしますね。最新のアルゴリズムを採用した新しいZRαプロセッサーを使った奥行き感の表現は、良いと観ました。
――これまでの3社と違い、QD-OLEDを採用したのはソニーとシャープです。特にシャープは今年初めてQD-OLEDを投入してきました。
麻倉:なぜシャープがQD-OLEDを採用したかというと、理由は単純。「有機ELはシャープ」とのイメージがいまひとつ獲得できないからです。トップはパナソニックやレグザだったわけですから。シャープは2020年から有機ELテレビを展開していますが、なかなか感心するのは、説明会のスライド資料の多さ。シャープは2年くらい前から、放熱設計に関する取り組みを詳細に説明しています。
それだけ技術もあるわけですが、いかんせん“液晶のシャープ”というイメージが強すぎたので、「有機ELテレビも始めたけど、実際どうなの?」という印象を持たれてしまった。しかも、当初はAQUOSとも名乗りませんでしたよね。どういう姿勢で有機ELテレビを展開するつもりなのかが分かりにくかった。
しかも液晶でminiLEDを「液晶と有機ELの中間」とコミュニケーションしたので、シャープにおける有機ELテレビの立ち位置が、いまひとつわからなくなりました。
そこで他社と同じLGディスプレイのパネルを使っている以上、いくら細かく頑張っても(ライバルメーカーより)上に行けないと判断して、QD-OLEDを新採用したわけです。シャープにとって幸運だったのは、さきほど説明した今年の第2世代のQD-OLEDを使えていることです。
あとで述べますが、ソニーのQD-OLEDテレビ「A95K」は昨年の2022年モデルです。第2世代は輝度も上がっているし、色も良くなっています。偏光板はまだ使われていませんが、外光反射については第1世代より少し改善されています。
シャープのQD-OLEDテレビは個性的というか、強力という印象。パワー感がありますね。パナソニックは大人の味わいで、しっとりとしたところもあるし、バランスも良い絵ですが、シャープはバランスというよりも、色の強さをテコにして「ここまで色が出るテレビは他に無いぞ」というのを強烈な武器にしている。彩度も高いし、色の階調もよく出ています。
原色もそうですが、肌色など中間色も、なかなか良いです。そういった色のパワー感をテコに絵づくりをしているんだなという印象です。明るさのパワー感についても、METAパネルと同じくらいの輝度はあるわけですから、色と輝度のパワー感を使って、力で押すんだというところがよく出ています。
これは今年のQD-OLEDパネルの特徴だと思いますよ。なぜそう言えるかといえば、第1世代QD-OLEDを採用したソニーの有機ELテレビ「A95K」には“QDらしさ”が、あまり感じられないからです。
――QD-OLEDも第1世代と第2世代で、そこまで大きな差を感じるんですね。
麻倉:シャープの絵づくりは、とにかく積極的前に押し出すイメージですが、ソニーはとてもバランス型ですね。昨年の発売当初に観た時には、もっとパワーを感じたのですが、それは選択したモードの違いかもしれません。今回はモニター指向のカスタムモードで観ました。
最近観たA95Kの映像は、良く言えばバランスが良いのですが、フラットな印象で、フォーカスも今ひとつでした。逆に言えば温かい絵なんですよね。シャープはクールで尖ったような、まさに社名のように攻めた絵。それに対してソニーのA95Kは、あまり個性を出さず、バランス型で、突出しないような雰囲気があります。エッジを穏やかにして、温度感も高く、暖かい。
シャープと見比べて思ったのは、初代のパネルは制御が難しいのではないかということ。暗部のノイズ問題もありますし、黒の締まりもちょっと不足気味。もうちょっと沈み込んでほしいなと思います。なので、言うほどダイナミックレンジも広くないなと思ってしまいます。
やはり第1世代のパネルというのは、制御が難しく、そのため大人しめの絵づくりをしているのではないかな。性能を引き出そうとすると、粗も目立ってきてしまうので、むしろ抑えることで、問題が出ないようにしようとしているのではないでしょうか。
シャープが搭載した2023年パネルも同じく偏光板はありませんが、シャープは回路側の絵づくりにて、対処しています。シャープには、明るい環境で自動的な暗部階調を出す特別な仕掛けがありますが、その効きを弱くして、ノイズが目立たないようにしています。
実は、ソニーがアメリカで展開している77型は第2世代QD-OLEDパネルなんです。なので、それを見てみないと最終的な評価はできませんね。日本市場では、少なくとも当分は第2世代パネルを採用したモデルは出てこないので、第1世代パネルを採用しているA95Kで比較するしかありません。そうなると、サムスンディスプレイのQD-OLEDはまだ始まったばかりとは言え、第1世代と第2世代では大きな違いがあるという印象です。
シャープにしてみれば、これも差別化できるポイントになりますね。ソニーさんのQD-OLEDとは違いますよと訴求したいわけですから。一方、ソニーの場合はLGのWOLEDパネルを採用したモデル(EX)も展開しているわけですから、QD-OLEDばかり訴求するのは難しい。そういう点でも、大人しめの、フラット気味の絵づくりになっているのかなと推察します。
シャープもラインナップとしてはEXもそのまま継続使用しているので、シチュエーション的には同じなのですが。シャープの場合は、捨て身で攻めるポジションなわけですから、前向きにQD-OLEDのパワーを使おうとしている印象です。
2008年くらいにRGBのLEDバックライト、ローカルディミングが出たときに、ソニーがXR1を、シャープがXS1をリリースしました。ソニーは比較的バランスがいい絵したが、シャープはものすごく赤い色で、当時、「地獄のお釜色」と表現しました。なぜか、それを懐かしいなと思い出すキャラクターの違いでしたね。シャープはパネルを作って、セットの絵づくりをしてきた会社なので、パネルに対する敬意があると思います。
今回これだけ高性能で差別化ができるパネルであれば、そのパワーを最大限以上に活用して、シャープとしての色のアイデンティティ、パワーのアイデンティティを作りたいのではないかと、私は想像しています。ただし注があります。ここで述べたシャープQD-OLEDの画質は、あくまでも私が観た試作機段階のもの。製品ではバランス指向が採り入れられているかもしれません。
それはともかく、ソニーは第2世代のQD-OLED搭載機を一刻も早く、日本で展開すべきでしょう。それと共にMETAパネルをどう使いこなすかもぜひ、観てみたいです。
――今年は、今まで以上に各社の違いがハッキリと分かりそうです。
麻倉:おもしろいなと思ったのは、各社個性が出てきたことです。これまではパネルがまったく同じなので、絵づくりで変えるくらいしかできませんでしたが、今年はWOLEDが2種類、QD-OLEDも2種類あります。このパネルによる最終的な映像の出方の違いは、選択肢のひとつになると思います。
有機ELは液晶より良い、というのは浸透してきていて、「次にテレビを買い替えるときは液晶じゃなく、有機ELだね」という考え方は常識になりつつあると思いますが、これまで有機ELはひと括りにされていて、「私はどこどこのメーカーが好き」という漠然としたイメージでしかありませんでした。しかし、今年は違います。店頭でも違いが分かりやすいはずです。
大人で、長けた人はパナソニックが良いかもしれない。力がある絵でパワーを感じたい、色に浸かる“色浴”をするならシャープが良いし、パナソニックに似ているけれど、バランスよく、ウォームな感じでしっとり観るならソニーが良い。
情報量があってハイコントラストで、画像情報量の多さに埋もれたい人はLGが良い。レグザには熱心なファンが居ますし、マイスターとしておなじみの住吉(肇)さんが手掛けている地上波番組の絵づくりの精密さを楽しみたいとか、絵づくりの巧妙さ、精巧さを楽しむならレグザが良い。
また熱心なテレビファンは、シャープのQD-OLED採用「AQUOS FS1」と、パナソニックのMETAパネル採用「MZ2500」という対極的製品を両方使うのもアリかもしれない。有機ELが、そういったマニアックな、こだわりの世界に入ってきたことを面白く感じますね。各社の違いが出るような有機ELを、もっともっと出してほしいと願いたくなる流れになったなと思います。
――TVS REGZAのミリ波レーダーや、LGの「パーソナルピクチャーウィザード」など、新しい取り組みも目立ちました。
麻倉:LGのウィザードは面白いですね。これまでテレビとユーザーは、ただ見ているだけの関係でしたが、レグザはミリ波レーザーを使って、ユーザーの位置情報を取り始めました。そうなると次はユーザーの好みの情報を取りたくなるわけです。
どうやって取得するか、そのやり方はいろいろあります。NHK技研ではカメラを使って「ユーザーが笑うと、それは好み」と判断するというものがあったりしました。LGのウィザードと同じように「好みの絵を選ぶ」という手法は、シャープとソニーが15年くらい前にやっていましたが、結局誰も使わず失敗しました。
今回LGが投入してきたパーソナルピクチャーウィザードは、AIを使って、視聴者の好みの傾向を学習しています。ただ、この機能を使うと不便なところもあって、どんなメディア、画質を選んでも、次にはこのウィザードで分かった好みの絵が最初に来てしまうんです。シネマモードを選ぼうとしても、これになってしまう。まあ、設定で変更もできますが。いずれにせよ、ひとつこういうのが出てきたのは、面白い流れだなと思いますね。
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