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スーパーコンピューターとは桁違いの計算能力を持つ可能性を秘める次世代計算機「量子コンピューター」の国産3号機が、大阪大で昨年12月稼働した。関西初の設置で、共同研究する企業などがインターネットを介して利用できるが、実用化は10年以上先と言われる。阪大で現状と課題を聞いた。(村上和史) スパコン桁違いの計算能力、次世代「量子コンピューター」稼働…2030年代後半の実用化へ
3号機のある豊中キャンパス(大阪府豊中市)の研究棟で昨年11月、計算機能の「核」となる量子チップの取り付け作業が一般公開された。中高生や家族連れなど約400人が訪れ、京都府宇治市の高校2年の男性(17)は「最先端のコンピューターが大阪にもあるとは知らなかった。身近に感じる」と話した。
従来の「0」か「1」ではなく
量子コンピューターは従来型のコンピューターとは仕組みが大きく異なり、量子と呼ばれる原子や電子といった極めて小さな物質の特殊な性質を生かして計算を行う。どういうことか。 従来型は全てのデータを「0」か「1」の信号の組み合わせで表し、計算する。一方、量子コンピューターは「0でもあり、1でもある」という「重ね合わせ」の現象を利用する。 この現象を起こすには、チップを絶対零度(マイナス273.15度)近くまで冷やして電気抵抗をなくす「超伝導」状態を起こす必要がある。3号機は魔法瓶と同じ構造の冷却装置を使用しており、阪大が独自に開発した制御装置で電磁波を精密に送って操作する。
関西初の設置、約40機関が研究に利用
共同研究に参加する企業など約40機関は3号機を「クラウド」上で利用でき、ネットを介して指示すると計算結果が送り返される。3号機の整備を担当する根来誠・准教授は「関西の研究者らに使ってもらい、阪大を世界に負けない拠点にしたい」と期待する。 量子コンピューターを巡っては、米IBM製が2021年、国内で初めて川崎市に設置された。国産は昨年3月に理化学研究所が1号機(埼玉県和光市)を、同10月に理研と富士通が2号機(同)を、それぞれ開発。23年は稼働が相次ぐ「国産元年」となった。 量子コンピューターは数えきれないほどのパターンから、最適なパターンを一つ見つけ出すといった計算が得意だ。創薬やAI(人工知能)開発、金融予測、交通渋滞解消などで飛躍的な能力を発揮する可能性がある。
計算高速化、金融分野での活用期待
ただし現状では計算エラーが多い。1~3号機はいずれも64量子ビットで、阪大は「エラーを制御するには少なくとも1万量子ビットが必要」とする。実用化されれば従来の暗号化システムの一部が破られ、データ流出の恐れが高まるとの指摘もある。正確で安全に利用できるようになるのは、30年代後半頃とみられている。 もっとも、実用化を見据える阪大は、応用方法の研究も進めている。 宮本幸一・特任准教授(量子コンピューティング)は金融分野での活用を模索する。証券会社や銀行は、金融派生商品の評価に従来型のコンピューターを使っている。量子コンピューターで計算が高速化すれば、損害が出る前にリスク回避できる可能性がある。宮本さんは「世界の大手金融機関も量子コンピューターに注目しており、いずれ競争になるだろう」と話す。
従来型との連携模索
水上渉・准教授(量子計算物質科学)は、次世代エネルギーとして注目される水素やアンモニアの合成で化学反応を促す「触媒」の開発に活用できるとみる。「効率よく環境に優しい触媒に代えていく研究に、量子コンピューターは有効だ」と説明する。 実用化を急ぐため、理研は昨年11月、量子コンピューターと従来型のスーパーコンピューターを連携するシステムの確立に向け、研究を始めると発表した。水上さんは「より高度で複雑な計算にはそれぞれの強みを生かすことが重要だ」と強調。連携を可能にするソフトウェアの開発も進めている。
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