https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08787/
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半導体大手が、パワー半導体の性能向上とコスト削減を進めている。炭化ケイ素(SiC)で大きなシェアを握るスイスSTMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)は、低損失な新構造のSiCパワー素子の開発に取り組む。パワー半導体最大手のドイツInfineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)は窒化ガリウム(GaN)のコスト削減に本腰を入れる。車載パワー半導体大手のデンソーは、低コストの新型Si IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の開発に力を注ぐ。
2023年12月に展示会「SEMICON Japan 2023」と併催されたセミナーで、パワー半導体大手が技術戦略を明らかにした。登壇したのは、前出の3社である。
STマイクロは、米Tesla(テスラ)の電気自動車(EV)にSiCパワー素子が採用されたことを契機に、SiC事業が成長した。2023年度のSiC事業の売上高は約12億米ドル(約1700億円)になると予測した。
スーパージャンクション型に注力
そのSTマイクロは、SiC MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)で競合他社と異なる戦略を採る。多くが「トレンチ型」に注力する中、STマイクロは「プレーナー型」に力を注ぐ。
プレーナー型はトレンチ型に比べて構造がシンプルで製造しやすい。一方、トレンチ型は抵抗値(オン抵抗)を下げやすく、低損失化に向く。STマイクロは独自技術によってプレーナー型でも低い損失を実現できると判断し、プレーナー型に集中している。
次は「Super Junction(スーパージャンクション)構造」の製品化を狙う。どの程度高い電圧で利用できるかの指標となる「耐圧」と、オン抵抗はトレードオフの関係にある。耐圧を高めるとオン抵抗が上がる。オン抵抗を下げると、耐圧が低くなる。同構造ではこのトレードオフの関係を緩和できる。その分、同じ耐圧で低いオン抵抗を実現しやすく、損失低減につながる。Siでは製品化済みだが、SiCでは研究開発段階にある。
300mmのSiウエハーでGaN
インフィニオンは、次世代パワー半導体では長年にわたりSiC中心だったが、近年はGaNにも力を注ぐ。SiCに比べてGaNは低コスト化と機能集積に向くと見ているからだ。安価で口径の大きいSiウエハーを利用できることに起因する。現在の口径150mm(6インチ)から口径200mm(8インチ)のSiウエハーに移行しつつあるという。将来、300mm(12インチ)ウエハーの利用も見据えている。これは、Si IGBT並みの大きさである。ウエハー口径が大きいほど、生産性が高まり、コスト削減につながる。
Siウエハーを利用するので、同一ウエハー上に他の素子を造って集積しやすい。例えば、電流センサーや温度センサー、ゲートドライバーなどだ。
GaNパワー素子に対して、信頼性を課題視する声もまだ残る。そこでインフィニオンは、業界で標準化された信頼性仕様を達成するだけではなく、独自の高い基準を設け、それをパスすることで高い信頼性を確保できると説明する。
高耐圧/高出力の用途はSiC、低・中耐圧/低・中出力の用途はGaNと見ている。GaNの主な用途が、スマートフォンやノートPCの電源アダプターだ。今後、車載充電器への採用を狙う。
HEVにはRC-IGBT
デンソーは競合と同じくSiCに注力しているが、独自構造のSi IGBTも訴求する。EVにはSiC、ハイブリッド車(HEV)にはSi IGBTという方針だ。
SiCパワー素子を適用すると電力損失を低減できる。同じ航続距離であれば、電力損失が少ない分、電池容量を減らせるので電池コストを削減できる。電池容量が大きいEVではコスト削減効果が大きいが、HEVではEVほど電池容量が大きくない。
そこでHEVには安価なSi IGBTが適すると見ている。デンソーが得意とするのがIGBTにダイオードを集積して1チップ化した独自構造の「RC-IGBT」である。インバーターやコンバーターといった電力変換回路では、IGBTのようなトランジスタとダイオードをセットで用いる。これらを1チップ化することで、それぞれを別に用意する場合に比べて、パワー素子のサイズを約3割削減できる。その分、コスト削減につながる。
デンソーのRC-IGBTは例えばトヨタ自動車のHEV「プリウス」の第5世代品に採用されている。従来のRC-IGBTに比べて特性を高めつつ、造りやすい構造で生産性を高めた。
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