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1.8億の債務超過からV字回復し、30年連続黒字を実現。「社員の成長こそが、企業の成長」と信じ、人をとことん大切にする経営を推進してきたのが、株式会社日本レーザーの代表取締役会長、近藤宣之さんです。しかし、かつては不良在庫・不良設備・不良債権・不良人材など多くの「不良」がはびこり、事実上の経営破綻状態にあったそう。そんな状況を変えるきっかけになった、社長のある覚悟とは?今回は同社の圧倒的な強さの秘訣と、近藤会長が考える「人が辞めない組織」に必要な条件、企業変革におけるリーダーシップについて伺いました。
1944年生まれ。慶應義塾大学工学部卒業後、日本電子株式会社に入社。1994年、子会社である株式会社日本レーザーの代表取締役社長に就任。2018年より、同会長(CEO)。2021年秋の叙勲で旭日単光章を受章。著書に「ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み」(2017年/ダイヤモンド社)等がある。
株式会社日本レーザーについて
1968年創業のレーザー専門商社。最先端の研究・産業用レーザー、工学機器などの輸入・販売を手掛ける。2007年、経営層・従業員全員で親会社から株式を買い取り、日本初のMEBO(マネジメント・アンド・エンプロイー・バイアウト)に成功。「社員全員が株主」という、非常に珍しい企業。年商62.9億円(2022年度実績)従業員数60名(2023年1月現在)。30年連続黒字を記録している。第一回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞「中小企業庁長官賞」等を受賞。
「志」と「理念」さえあれば儲かるのか?
――第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞をはじめ、貴社の「人を大切にする経営」は多くの注目を浴びています。一方で、「人を大切にすれば儲かるのか?」といった声を聞くこともあるそうですね。
近藤宣之さん(以下、近藤): そうですね。たとえば少し前から聞く機会の増えた「ミッション」や「パーパス」もそうですが、当社のように人を大切にしたら会社は潰れないのかと聞かれたら「そんなことはありません」と答えるでしょう。
理念や会社のあり方が基本ですが、その上で大切なのは「やり方」。 ビジネスモデルによってもまったく違います。実際「クレド、ミッション、パーパスも日本レーザーさんと同じようにやったけど、儲かりません」とクレームが来ることもあります。そんな人に「私とあなたは、社長というだけで別人ですよね?」と言うと困った顔をします。これは一例ですが、背中で教える経営者と、トップダウンで「お前らやれ!」と命令する経営者がいた時に、掲げているものが同じでも、結果はまったく違うものになると思いますね。
私は、既存の制度をぶっ壊して、社員のモチベーションを上げるために色んな施策を試しました。だからこそ、30年間連続黒字経営、離職率ほぼゼロの「人が辞めない組織」をつくりあげることができたのです。
――近藤会長が考える「人が辞めない組織」に必要なものとは何でしょうか?
近藤: 一つは、 徹底した「社員第一主義」 です。当社ではクレドにも「お客様満足より、社員と家族の満足が第一です」と明記しており、それをホームページで公開しています。
社員が「会社から大切にされている」と感じるために、家庭の事情、本人の状況、価値観を優先した、一人ひとりに合った働き方を導入。そのため、毎年就業規則は変えています。長時間労働の削減、有給休暇の取得はもちろん、賃金は今でも毎年4~5%アップしています。今では幹部の1/3が女性ですし、男性の育児休業については6か月取得した社員が2人います。闘病しながら働いてくれている社員に対しては、給料を全額支給します。中国やドイツなどさまざまな出身の外国人が働いていますし、障害者雇用や高齢者の就業も促進しています。
これらは全部政府が「働き方改革」として打ち出してきた内容。すべて実践している企業は、おそらく日本で当社だけなのではないでしょうか。
当社は「生涯雇用」を経営方針としており、人事制度の運用で誰でも契約にかかわらず70歳まで働けます。そして、現在75歳を過ぎていて、80歳まで働くことを目指している社員も数人います。とにかく雇用を守る。「辞めさせる」なんてことは、絶対しません。
私は 会社の存続理由は唯一「社員を雇用すること」 だと思っています。 それをした上で、仕事を通じて社員を成長させることが責務 です。雇用した以上はそこで幸福感を保ち、やりがいを感じながら働いてもらう。仕事を通じて成長し、家族も含めて生計を成り立たせていく、それが経営の目的です。
「お客様は神様」と言う人がいますが、そうじゃないですよ。 働いてくれている社員こそが「神様」。 だって、働いてくれる人がいないと、会社って成り立たないでしょう。
たとえば大きな損失が発生して、事業の存続が危ぶまれた場合。その事業に関わる従業員の雇用を守らなければいけません。新しい事業を見つけてきて、そこから彼らを教育して担当に就いてもらう。必要ならば、総務や財務、経営本部などの間接部門に配置転換する。とにかく、雇用を守るための仕事をつくりだす。それを考えるのが経営者の役目です。
こうやって、社長が「社員第一主義」を実行していると、社員はお客様に対してより精一杯尽くすようになります。そうすると、お客様からまたリピートオーダーをいただける。利益が増え、それをまた社員に還元できます。すると、社員はもっとここで頑張ろうと思える。そんな良い循環が回り始めるんですね。
――なるほど。とはいえ、これも「なかなか真似できない」という声も聞こえてきそうですが……。
近藤: もちろん、社員第一主義を実現することは、本当に大変ですよ。私の話を聞いたり書籍を読んだ経営者からは、「近藤さんだからできたことであって、普通はできないよね」と言われます。
「自分にはできない」そう思っている経営者の方に、私はこう聞きたいです。
「じゃあ、会社潰れてもいいんですか?」と。
そうではないですよね?
優秀な社員が採用できない、教育しても辞めてしまう…。そんな課題を抱えているのなら、まずは一人ひとりに向き合った経営を目指すことも必要でしょう。結局は、 経営者の覚悟の問題とも言える んです。
圧倒的な「当事者意識」が会社を強くする
近藤: 「人が辞めない組織」に欠かせないもう一つの要素が、 圧倒的な「当事者意識」の醸成 です。
――「当事者意識」を醸成するためには、何が必要だと考えられますか?
近藤: まず 「言いたいことが言える」環境づくり です。自由にものが言える社風があれば、社員は自律的に仕事をするようになります。そのために、上司・部下の上下関係ではなく「横の関係」を重視しています。当社では、社内のすべての人間関係において「信頼し合うこと」「お互いに魅力的な存在であること」「連帯感」を大切にしているんです。たとえば、社長であった私は「雇用を守る」「赤字を出さない」を実行し、社員にとって魅力的な存在であり続けるように努力してきました。一方の社員も、業績を上げて社長にアピールする。そうすれば、互いに信頼感やリスペクトが生まれます。
同時に、 「やりたいことを任せてもらえる」「失敗しても責任を追及されない」環境 も大切ですね。当社でも過去、社員のミスで4,200万円の損失を経験したことがあります。それでも社員に任せますし、失敗を責めることはありません。失敗例は全社で共有して、二度と繰り返さないことが大切です。
もう一つは、 「徹底した情報開示」 です。当社は、毎月銀行に提出しているレポートと同じ内容を、全社員に丁寧に説明しています。損益計算書、貸借対照表、キャッシュフローなどすべてです。そして、粗利の3%を成果賞与として還元します。そうすると、当事者意識はどんどん上がっていきます。
そして、当社の圧倒的な当事者意識を支えているものが、もう一つあります。それは、2007年に日本で初めて成功させた 「MEBO(マネジメント・アンド・エンプロイー・バイアウト)※」 です。
※MEBOとは:会社の経営陣だけでなく、社員も一緒になって親会社から株式を買い取る手法
「社長の覚悟」が社員を本気にし、「社員の本気」こそが会社を立て直す力となった
近藤: まず、当社がMEBOに至るまでの経緯をお話ししましょう。
私は大学卒業後、電子顕微鏡技術者として、日本レーザーの親会社であった日本電子に入社しました。28歳の時に労組執行委員長となり、約1,000人のリストラに直面。その後、米国法人の副支配人として渡米するも、そこではまたしても社員に解雇を通告する役割でした。本社に戻ってからは、再び幹部のリストラに奔走…。これらの経験により「経営がしっかりしていなければ、雇用を守れない」ことを痛感しました。
そして1994年、日本電子の役員を務めながら、子会社である日本レーザーの5代目社長に就任。当時の日本レーザーは1億8,000万円の債務超過となっていて、銀行からも見放され、事実上の経営破綻状態。その再建のために派遣されたのが私だったんです。
――当時の社内の状況は、いかがでしたか?
近藤: とにかく散々たる状況でした。まず、商品の棚卸しがまったくされておらず、社内のいたるところに売り物の機器が転がっている。多くの不良在庫も抱えていました。さらには、過剰な設備、不良債権、そして、酔っ払って上司を殴る社員、虚偽申告をする社員、粉飾する社員などの「不良人材」も少なくありませんでした。
さあ、これから会社を立て直すぞという時には、当時ナンバー2だった常務が、優秀な部下と商権を持って独立。信頼していただけに、大変ショックな出来事でした。おそらく、私が親会社から派遣されてきたことにより、社長になるチャンスを失い、不満がたまったのでしょう。
そんな状況でも、何とか1年目から黒字化を実現。しかし社員からは「近藤さんは、うちを再建したら本社に戻るんでしょう」という声が聞こえてきました。実は、私自身もそのつもりでした。しかし、そんな状態で社員のモチベーションが維持できる訳がありません。
私は覚悟を決め、再建2年目に3期6年務めた日本電子の取締役を退任し、日本レーザーの専任となりました。まさに「背水の陣」。そして、「日本レーザーの船長として、みんなと航海に出る。途中で下船することは決してない。」「必ず、全従業員の雇用を守る。だから協力してほしい。」と社員に宣言したんです。これによって、明らかに社内の空気が変わりました。結果的に、その年に累計赤字を解消できたのです。
社長の覚悟が社員を本気にし、そして「社員の本気」こそが会社を立て直す力となった のです。ただ、再建の兆しは見えてきたものの「日本電子の子会社」である以上、本社のルールに縛られ、柔軟に経営することは困難でした。さらに、社長や役員になるにも「親会社からの出向」などの壁があり、このままでは社員のモチベーションが下がってしまうと危機感を抱きました。
それで決断したのが、 親会社からの独立、つまりMEBOです。
――詳しく教えてください。
近藤: 2007年、経営陣と従業員が一緒になって、日本電子から株式を買い取る方法「MEBO」を実行しました。正規社員はもちろん、派遣社員、パート社員で入社してもフルタイムになった社員全員が株主です。これは、日本では初だと思います。
MEBO実現後も、大きなリスクを抱えるなどの苦労はありました。しかし、これによって組織は大きく変化しました。まず「親会社」という存在が無くなったことにより、それまでのピラミッド型組織が、フラットな組織に変わりました。
私自身も、それまでのように売上や市場などに向いて経営するのではなく、社員に向いて経営できるようになりました。そして何より、 従業員全員が株主であるため、彼らに「当事者意識」が芽生えた のです。もちろん、MEBOだけで当事者意識が上がったのではなく、それまでの風土づくりが非常に重要です。ただ、「自らが会社の株主である」という事実が大きく影響していることは間違いありません。
リーダーは「問題はすべて自分の中にある」と自覚せよ
――貴社は非常に難しいビジネスモデルであると聞いていますが、「30年間黒字経営」を実現されていますね。その要因は何なのでしょうか?
近藤: まず、当社は「レーザー機器を世界から輸入する」というビジネスモデルです。なので「為替」の動きに大きく左右されます。たとえば、アベノミクスの時代には調達コストの増加額が前年の経常利益を上回ったこともあります。また、当社は主に海外メーカーと代理店契約を結ぶ訳ですが、「他の代理店への鞍替え」「メーカーが日本法人を作る」「取引先が買収される」などのリスクに定期的に見舞われます。だから「年間で20億の取引先を失う」なんてことも実際にある訳です。毎日のように為替に悩んだり、取引先が買収されないか心配したりしている経営者は、珍しいかも知れない(笑)。本当に、危なっかしいビジネスモデルですよ。
ただ、それでも30年間黒字を維持してきました。それはなぜか。利益が無くなっても、取引を切られても、また新たなビジネスを探すからです。
――なぜ、それが実現できるのでしょうか?
近藤: それは、この事業は自分が責任者で、お客様は自分自身が大切にしなければならないという、 いわば個人商店的とも言える圧倒的な「当事者意識」。 また、いつ取引が切られるかも知れない、取引先が潰れるかも知れないという 健全な「危機意識」。 そして、最終的には取引先、お客様、サプライヤー、そして社内も含めた 「仲間意識」。 これらの3つの意識があるからです。
これを、まず社長や役員が持たなければいけない。そうでない会社は潰れてしまうし、逆に言えば社長から従業員まで全員がそういう意識を持てば、みんなが「指示待ち」ではなく自分で工夫しながら動けるようになる。そうすれば、非常に難しいビジネスモデルである会社でも生き残れます。
そして、 社長や幹部が「他責」にすることは絶対にダメ です。政治が悪い、インフレが悪い、制度が悪い、環境が悪い……。自分たちでどうにもならないことを、業績の悪さの要因にするのはナンセンス。売上が落ちてきたこと、人が辞めること、ミスで損が生まれること、 経営者の周りで起きた不都合なことは、すべて社長自身が招いていること なんです。すべての現象には、原因がある。だから、他責にはできないはずです。
社長は「問題はすべて自分の中にある」ということを自覚しなければなりません。そうやって、 社長が「他責」から「自責」に変化することで、社員も変わり、会社も変わります。
当社も円安や取引先の都合で、業績に大きな影響を受けることがあります。しかし「自社としてできることは何か」と自責として向き合い続けたから、30年連続黒字を成し得たんだと思います。私が自責の思考であることにより、社員も「人のせい」にしなくなりました。それにより、逆境に負けない強い組織が生まれました。
社長の仕事は「笑顔」。笑顔は“性格”ではなく“能力”である
――ありがとうございます。最後に、近藤会長が考えるリーダーの仕事について教えてください。
近藤: 一つは、 社長ではなく社員にとっての「得」を選ぶこと です。経営者が自分の「得」になりそうなことをやっていたら、失敗します。自分にとってはあまり得ではなくても社員にとってはチャンスで、挑戦するだけでも成長するかも知れない、という時。そこは「社員のため」を選ぶ。だから社長は、時に身銭を切らなきゃダメだと思いますね。
私の例で言うと、親会社の取締役を辞任した時、そしてMEBOで大きなリスクを背負った時がそう。「損か得か」ではなく「正しい選択は何か」という視点で判断しました。
あとは、 「社長の仕事は笑顔」。 これは言い切れます。
――詳しく教えてください。
近藤: 社長は会社に来たら、「○○さん、おはよう。今日も頑張ろうね。」一日が終われば「お疲れ様でした。」と、こちらから声をかけることが仕事。もちろん、笑顔で。昔から心がけていることですが、社員のモチベーションを高める方法は、社長自身の「笑顔」と「声がけ」です。だから、 社員からの良い報告は笑顔で聞きますが、「悪い報告」はもっと笑顔で聞くようにしています。
近藤: と言っても、私がもともと笑顔の人だった訳ではないんですよ。昔は、どちらかと言えば「俺が、俺が」タイプでした。再建を担当するようになって、MEBOを成立させようとしたあたりからですね。変わったのは。私が変わらないと、MEBOなんか成功しなかったと思います。
私は、 笑顔は「性格」ではなく「能力」だと思っています。つまり、伸ばせるものなんです。
当社は、2階のオフィスに入ると等身大の鏡があります。私はそこで、ニコニコと笑顔の練習をしてからオフィスに入ります。この間、新入社員が私の練習風景を見て「近藤会長は、言っていることとやっていることが同じだな」と思ったみたいです。でも、当然ですよね。みんなそれぞれ事情があって、その日笑顔どころじゃない時だってある。もう、潜在意識のトレーニングだと思ってやり続けています(笑)。
※同社が推進してきた経営の具体的なノウハウについては、近藤会長と香川哲氏の共著『人を活性化する経営「バイオエネルギー理論」実践編(ワニブックスPLUS新書)』で紹介されています。
(文:三神 早耶 写真提供:株式会社日本レーザー 編集:櫛田 優子)
この記事についてコメント(4)
ただただすごい会社ですね。誰もはまねできない経営でしょう。しかし、この経営手法こそが、少しでもこれからの日本の中小企業経営に生かされていくべきで、付加価値の高い経営が求められる中、この経営手法が次の時代の「日本型経営」と言われるようになればと願います。
2023年12月19日内容的には私がいつも思っていることをうまくまとめて実行している。物事にはA.B.Cがある A:当たり前のこと を B:ボヤっとしないで C:ちゃんとする。 いつも責任者教育では教育資料(建前でまとめられている)を使ってきょういくしますが、最後はA.B.C で締めます。 当たり前のこと?中学をあまり勉強しないで卒業した人が、おかしいと思うことはだめで、ボートせず、きっちりきちんとする。 これができると超一流 誰でもこうするのが一番いいと思ってもなかなか実行できない、いろんな要因がある、それをきちんとできる人、周りの人を気にせず正しいことを実行できれば、世の中で何も怖いものはない。
2023年12月18日日本レーザーの経営については10年以上前から注目してきました。社員個々の事情や能力・得意分野の違いを尊重してタスクを割り当てる独自の仕組み、社員が会社を信頼して会社の運命と仕事を自分事と意識できるようにする仕組み、社員の能力向上を刺激する仕組み等々が、トップの日常的な言動が醸し出す明るい組織文化と相俟って、困難な外部環境のなかでも強靭な組織力を発揮し続けることを可能にしています。「社員のための経営」が、「社員が持てる力を発揮できる経営」になっています。日本企業に求められる経営とはこういうものだと思います。ところが、大企業で働く人々は「日本レーザーのような中小企業だからできることでしょ」、「うちは事情が異なるからできないよ」と、真面目に検討することもなく、参考にするに至らないのがほとんどです。日本レーザーの経営の本質をよく理解し、自社に合わない仕組みは、「ではどうすればよいか」と試行錯誤と組織学習に取り組むべきなのに、そうするところがあまりない。不思議な現象です。
2023年12月17日大変ためになる記事でした。有難うございます。
2023年12月15日
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