2024年2月29日木曜日

核融合新興、大電流対応の高温超電導体 炉を小型化。2024年2月29日 5:00

https://www.nikkei.com/prime/tech-foresight/article/DGXZQOUC28AAI0Y4A220C2000000?n_cid=NPMTF000P_20240229_a17

https://www.nikkei.com/prime/tech-foresight/article/DGXZQOUC28AAI0Y4A220C2000000?n_cid=NPMTF000P_20240229_a17


ヘリカルフュージョンが開発したHTSは「曲げやすい」「大電流密度」といった特徴を備える(写真:ヘリカルフュージョン)
核融合スタートアップのHelical Fusion(ヘリカルフュージョン、東京・中央)は、独自開発した高温超電導体(HTS)の実証に成功した。構造を工夫して柔軟性を持たせ、大電流に対応できる。超電導コイルに利用すれば強力な磁場を生み出せ、核融合炉の小型化に役立つ見込みだ。
ヘリカルフュージョンは開発したHTSを核融合炉の磁場コイルに使う方針だ
ヘリカルフュージョンが実証したHTSは、断面が約3cm四方、長さが4m強の、柔軟性を持つケーブル状の導体だ。希土類元素を含む銅酸化物のHTS線材であるREBCOを30枚積層して作製した。2024年2月に実施した通電試験において、電気抵抗のない超電導状態で19kA(キロアンペア)の通電に成功した。温度はセ氏マイナス253度(20K)、磁束密度は8T(テスラ)の強磁場環境下で実施した。
核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の大型導体試験装置を利用した。今回は試験装置の最大通電量(20kA)に合わせて実施したが、今後は数倍の通電量となる100A/mm²以上の大電流を流せる導体の開発を目指す。この技術が実現すれば核融合炉を小型化・高性能化できる見込みだ。
今回のHTSは、核融合科学研究所の研究成果を基にヘリカルフュージョン研究開発部門統括の宮澤順一氏が発案したもの。HTSはセラミックに近い素材で本来は柔軟性に欠けるが、「南京玉すだれのように滑らせる構造にした」(同社)ことで折れずに曲げやすくした。複雑な3D形状の核融合炉向け磁場コイルとして利用できる。フジクラがREBCO線材を提供し、金属技研(東京・中野)が設計・作製を補助した。
左図が実証試験用に準備した導体、右図が試験機を試験装置に設置している様子(写真:ヘリカルフュージョン)

2034年にも発電実証へ

ヘリカルフュージョンは、2023年10月に文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業」に採択され、20億円の補助金交付が決定した。同事業で核融合炉用のHTSの技術成熟度レベル(TRL)を高めていく。2025年にコイル状の実証実験を、2026年以降に実際の炉に使用するヘリカル型コイルの実証実験を予定する。
HTSは、核融合を起こすのに必要な超高温のプラズマを磁場で閉じ込める超電導コイルへの採用が進んでいる。低温超電導体(LTS)と比較して、比較的高い温度で超電導状態を実現でき、磁場の強度も数倍から10倍程度に上がる。核融合炉の心臓部分ともいえる重要部材で、欧米企業が開発で先行している。ヘリカルフュージョンはHTSの開発を進め、グローバルでコスト競争力のある核融合炉の実証に取り組む。
ヘリカルフュージョンは2021年に核融合科学研究所から独立したスタートアップで、磁場閉じ込め方式の核融合炉の建設・運用を目指す。2034年にも核融合発電を実証し、2040年以降に本格的な商業発電を実現する計画だ。2重らせん構造の超電導ヘリカルコイルを使い、高温のプラズマを長時間安定して閉じ込められるのが特徴だ。

キーワード

核融合(Fusion) 水素のような2つの軽い原子核同士が衝突・融合して、ヘリウムなどの重い原子核に変わる反応。新しく生成した原子核や放射線が持つ膨大なエネルギーを発電に利用することでエネルギー問題の解決に役立つと期待されている。核融合では燃料1グラムで石油8トン分という膨大なエネルギーが得られ、燃料となる重水素は海水に含まれるためエネルギーコストも安い。二酸化炭素(CO₂)のような温暖化ガスが発生しないため、カーボンニュートラルの実現にも寄与する。原子力発電のような高レベル放射性廃棄物を出さないため、比較的に安全性が高いとされる。
(NIKKEI Tech Foresight/日経クロステック 佐藤雅哉)

0 コメント:

コメントを投稿