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富士電機はパワー半導体の技術開発を加速させている(写真:日経クロステック)
富士電機はパワー半導体の技術開発を加速させている(写真:日経クロステック)
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 富士電機は、パワー半導体事業の強化に向けて、素子やモジュールの新技術開発を加速させている。現行製品に比べて損失を低減したシリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)のパワー素子を搭載したモジュール製品を2025年ごろから順次量産する予定だ。新たな材料技術や配線技術を組み合わせることでモジュール製品の出力密度向上や小型化も進める。

パワーモジュールの技術開発にも注力している(出所:日経クロステック)
パワーモジュールの技術開発にも注力している(出所:日経クロステック)
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 2024年1月開催の展示会「パワーデバイス&モジュールEXPO」の併設セミナーに、富士電機の半導体事業本部長の宝泉徹氏(取締役兼執行役員専務)が登壇し、今後の技術戦略を明らかにした。同社のパワー半導体事業の売上高は、2022年4月~2023年3月期で約2000億円である。このうち、パワー素子を搭載したモジュール(パワーモジュール)が主力だという。

 今後、パワー半導体市場をけん引するのはパワーモジュールと見ており、新しいパワー素子に加えて、モジュール向けの新しいパッケージング技術や配線技術の開発にも力を注ぐ。産業用と車載用、いずれもモジュールの小型化や電力損失の低減、信頼性の向上が求められており、それらの実現に向けて研究開発を進めている。

低損失な次世代パワー素子を開発

 Siパワー素子の主力は、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)である。現行製品は、富士電機にとって第7世代に相当する。現在、第8世代に相当する新IGBTを開発中だ。第7世代に比べて、オフからオンにする「ターンオン」時の損失を低減するなどして、電力損失を約20%削減するという。

 SiC MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)でも新製品の開発に取り組む。現行製品は第2世代品だが、第3世代品では、微細化などによって電力損失を約15%削減する予定である。

材料や配線に新技術

 パワーモジュール向けのパッケージング技術や配線技術の開発にも余念がない。パッケージング技術では、高温対応を強化する。現在、パワーモジュールの動作温度は高くてセ氏175度である。次は、セ氏200度を狙う。高温に耐えられるほどモジュールを小さくしやすい。

 SiCパワー素子の場合、セ氏200度でも動作する。一方、Siパワー素子の場合、セ氏200度での動作は非常に厳しい。ただし、連続動作ではなく、一時的であればSiパワー素子でも動作可能で、それを求める声もあるという。そこで、セ氏200度にも耐えられるパッケージの封止材や素子(チップ)の接合材料、絶縁基板の接合材料などを開発する。

 電流密度を高めて出力密度を高めるチップ配線技術も開発する。パワーモジュールで一般的なのは、アルミニウム(Al)ワイヤである。配線の自由度が高いという利点がある一方で、電流密度を高めるのには限界がある。そこで富士電機は、「銅(Cu)クリップ」と呼ぶ技術で電流密度を高めやすくした。Alワイヤに比べて、電流密度を約1.4倍にできるという。富士電機は、大電流を求める車載モジュールで利用している。

 一層の電流密度向上に向けて、「立体構造配線」と呼ぶ技術を開発中である。Cuクリップに比べて、約2倍の電流密度を達成できると見る。すなわち、Alワイヤと比べると、約2.8倍の電流密度になる計算だ。

SiCで出力密度4.5倍に

 こうした一連の新技術を投入することで、パワーモジュールの出力密度を高める。例えば、第7世代IGBTを搭載したパワーモジュールに比べて出力密度を4.5倍にしたSiCパワーモジュールを開発中である。車載向けの水冷型である。2027~2028年ごろの量産を見込んでいる。

 IGBT搭載のパワーモジュールも高出力化する。第7世代IGBTから第8世代品に置き換えて出力密度を約1.2倍にした産業向け製品を2025年ごろに量産する予定である。

キーワード

SiC 炭素(C)とシリコン(Si)の化合物で、シリコンカーバイドや炭化ケイ素とも呼ばれる。Siに比べてパワー半導体として材料特性が優れる。インバーターのような電力変換器にSiCパワー素子を適用すると、Siに比べて電力損失を大幅に削減できる。Siパワー素子では動作が難しいセ氏200度以上の高温でも動作する。電力損失が小さい、高温動作が可能といった特徴から電力変換器を小型化しやすい。電気自動車や再生可能エネルギー、鉄道、産業機器といった高出力・高耐圧が求められる用途に向く。