週刊東洋経済(7/13号)に順天堂大学の白澤卓二教授が『肥満の原因は小麦だった』と題して寄稿している。
米国ウィスコンシン州、ミルウォーキー市の予防循環器科の医師、ウイリアム・デイビス博士は、自らの体験から肥満症の原因は全粒粉の小麦にあると発見した。私[白澤先生]が翻訳したデイビス博士の著書『小麦腹、小麦を断てば健康になる』で、小麦を断つことが健康に長生きできをするための基本条件と主張している。

従来、全粒粉の小麦は健康的な炭水化物食材の代表格とされてきた。パンなら全粒粉のパンやライ麦パン、シリアルなら全粒粉のシリアルと選ぶように健康本などに書かれている。

全粒粉の小麦を日本の米に置き換えるとするのであれば、全粒粉の小麦が玄米で、精製小麦粉が白米のような関係だ。そのため博士の主張は日本で「玄米が肥満の根源だ」と主張するのに近いものがある。私[白澤先生]も昨年『「砂糖」を止めれば10歳若返る!』という本を出版して反響を呼んだが、博士の主張が米国社会に与える影響はそれをはるかに超えるものだろうと想像する。

そもそも砂糖に麻薬のような中毒性があるのは、サトウキビなどの天然食材に精製という人工的なプロセスを加えて製造するためだ。天然食材はどんなに甘みがあっても、これまで中毒のような社会現象は観察されてこなかった。リンゴは甘いが「リンゴ中毒」という報告はこれまで聞いたことがない。麻薬物質のコカインですら原料のコカの葉自体に中毒性はない。

しかし、デイビス博士は全粒粉の小麦自体に中毒性があると主張している。精製などのプロセスで特定の中毒性物質の濃度が高くなったという話ではない。それでは全粒粉の小麦に何が起きたのだろう。答えは品種改良だ。米国で現在流通している小麦の中には、1960年代に食べられていた品種は存在しない。小麦は交配を繰り返し、異種配合を行い、遺伝子移入が重ねられてきた。現在生産されている小麦は古来品種とは似て非なる新しい品種なのである。つまり、品種改良の結果、現在の小麦には中毒性があり、肥満症やメタボリック症候群を発症させるようになったというのだ。

その証拠の一つが小麦に含まれるグルテンというタンパク質だ。グルテンはアレルギーを示し、小麦粘膜上皮に炎症を起こすセリアック病を引き起こすようになっている。最近の報告では米国人の100人に1人がセリアック病を発症し、患者数はこの20年で急速に増加しているという。

_SS500__SS500_

デイビス博士は、小麦の摂取を完全にやめることを勧めている。
日本でも小麦粉はパンをはじめ、うどん、お好み焼き、ケーキなど幅広く使われている。その小麦粉を食べないということができるのだろうか。デイビス博士は、小麦を使わないレシピ本(写真の右側)も出版しているようだ。ちなみに、原書のタイトル"Wheat Belly"「小麦腹」という意味。

小麦にもいろいろと種類があるが、どれも同じなのだろうか。小麦に限らずさまざまな食材が品種改良をされているのではないか。それも人間の都合のいいように。何か人工的な加工を施すことで「中毒性」をもつようになるのだろうか。そういった食材は、われわれのまわりにいくらでもありそうだ。そんなことを考えていたら何も食べるものがなくなってしまう。食材に偏りがなく、適度な量を食べることが大事なんだろう、と思いたい。

小麦がダメだとしたら、パスタも食べられないというのは残念なことだし・・・・・