飲み薬による抗ウイルス治療の有益性と注意点とは?
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C型肝炎は肝硬変や肝細胞がんの原因になるウイルス疾患です。C型肝炎の治療は近年、新薬の開発などと共に進展してきています。最近では内服薬のみでの治療も選択肢となっていますが、有益性が高い一方でやはり注意すべきこともあるようです。
◆飲み薬のC型肝炎治療薬での重要な報告
2016年4月、C型肝炎治療薬のダクルインザ®錠(成分名:ダクラタスビル塩酸塩)とスンベプラ®カプセル(成分名:アスナプレビル)の適正使用に関して「留意事項と報告症例の概要」(以下、「概要」)が出されました。
今回の「概要」においては、HCVと同時にB型肝炎ウイルス(HBV)にも感染している人がこれら2つの薬剤を使った場合に影響があるのではないかという懸念が報告されました。
◆ダクルインザ®、スンベプラ®はどんな薬?
それまでのC型肝炎治療においても内服薬は存在しましたが、インターフェロンという注射薬を一緒に使う必要がありました。
インターフェロンは体内の免疫系に作用することでウイルスなどの増殖を抑える薬です。以前は週3回の注射が必要でしたが、効果が持続するよう改良されて週1回の注射で済むようになり、かなりの確率で治癒できるようになってきました。このことによって、C型肝炎が原因となる肝硬変や肝細胞がんの予防策が打てるようになったのです。
それでも副作用や注射による投与などに対してのデメリットなどは少なからずあります。インターフェロンには非常に有益な効果がある反面、発熱や全身の倦怠感、関節痛などに加えめまい、脱毛、うつ(抑うつ)などの副作用があらわれる場合があります。このため、インターフェロンに代わる新たな治療法が研究されてきました。
ダクルインザ®とスンベプラ®はインターフェロンを用いないC型肝炎治療として高い有効性が確認されています。抗ウイルス作用の仕組みを少し詳しくみていくと、ダクルインザ®がHCVの複製などに関わる非構造タンパク質5A(NS5A)という物質を阻害する薬であり、スンベプラ®がHCVの複製に必要な酵素(非構造タンパク質3/4Aプロテアーゼ)を阻害する薬となります。
◆どんな問題が発生したのか?
ダクルインザ®・スンベプラ®はHCVに対して高い有効性をあらわす反面、今回の「概要」においては、B型肝炎ウイルス(HBV)への影響に関する懸念が報告されました。
そこでは、実際にダクルインザ®・スンベプラ®による治療を受けていた人のうち、HCVに加えてHBVにも感染したことがある人において、治療開始後、HCV量が低下する一方でHBVが再び活性化し、肝機能障害に至ったという例が挙げられています。
ここで挙がった少数の事例に、ダクルインザ®・スンベプラ®と因果関係があるかどうかはわかりません。確実な証拠はまだありませんが、関係している可能性は否定できないと言えます。
◆ ハーボニー®配合錠とダクルインザ®・スンベプラ®の共通点とは?
さて、今回のダクルインザ®とスンベプラ®の「概要」を受けてか、2016年4月25日に他のいくつかの内服C型肝炎治療薬に関しても「PMDA及び厚生労働省において評価中のリスク等の情報について」における「使用上の注意の改定等に繋がりうる注目しているリスク情報」の欄に表記されました。
この中には発売当初、その高い有効性と合わせて1錠当たりの薬価が8万円を超える薬剤として話題を集めたハーボニー®配合錠も含まれています。このハーボニー®は、国内外の臨床試験においてHCVに対して極めて高い効果をあらわした薬としても知られています。
ハーボニー®は抗ウイルス作用の仕組みもダクルインザ®・スンベプラ®両剤併用療法と比較的共通点が多い薬です。
ハーボニー®はその「配合錠」という名前からもわかるように、レビパスビルとソホスブビルという2種類の薬によって造られている薬剤です。レジパスビルはHCVの複製などに関わる非構造タンパク質5A(NS5A)という物質を阻害する薬で、ダクルインザ®と同じ種類の薬になります。一方、ソホスブビルは肝臓の細胞内で代謝された後、HCVの複製に関わる酵素(非構造タンパク質5B(NS5B)RNA依存性RNAポリメラーゼ)を阻害する薬です。
ハーボニー®とダクルインザ®・スンベプラ®は、標的とする酵素やタンパク質の種類こそ異なりますが、2種類の薬(その内、1種類は同系統の抗ウイルス薬)によってウイルス複製に必要となる物質を阻害することで高い抗ウイルス作用をあらわすなどの共通点を持っています。
◆他のC型肝炎治療薬は大丈夫なのか?
今回はハーボニー®の他、ハーボニー®に次ぐインターフェロンを用いない3番目の治療法として発売されたヴィキラックス®配合錠、さらに数点のC型肝炎治療薬が「使用上の注意の改定等に繋がりうる注目しているリスク情報」の欄に表記されました。
もちろん、作用の仕組みなどに共通点があるからといって、これらの薬でHBVの再活性化が起こるとは言えません。そもそもダクルインザ®・スンベプラ®がHBV再活性化の原因かどうかはまだわかっていません。仮にダクルインザ®・スンベプラ®に問題があったとしても、少しでも違う薬剤なら作用点や関与する酵素、成分の化学構造のわずかな違いなどさまざまな理由によって、有効性や副作用に大きな差が生じる場合があります。
しかし、HBVは肝炎治療以外の治療、例えば免疫を抑える治療を行った場合などでも、再び活性化する可能性があるウイルスです。理屈から言えば、C型肝炎治療薬のうちどれかが再活性化を促すことは想像しやすいことです。
だからといってHBVの再活性化を危惧して、C型肝炎治療の薬を自己判断で止めてしまっては元も子もありません。HBV再活性化に対しての対策を取っていればリスクは最小限に抑えられるとされていますし、肝機能障害における初期症状をしっかり理解することで有事の時の早めの対処が行えます。ちなみに肝機能障害における主な初期症状とは、倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸、発疹、吐き気・嘔吐、かゆみなどです。これらの症状がみられた場合、特に症状が続く場合には放置せず主治医へ連絡することが大切です。
◆ 新しい治療法が適しない場合もある
C型肝炎治療薬には、「HBVへの影響」以外にも注意すべきことはあります。
一般的に内服薬のみによるC型肝炎治療は以前の治療に比べると、かなり副作用を軽減できるとされています。それでも副作用が全くないわけではなく、例えばハーボニー®ではそう痒感(かゆみ)、吐き気、口内炎などが、ヴィキラックス®では浮腫、頭痛、吐き気などが、副作用としてあらわれる場合があります。また腎機能が低下している人などには使いづらい(場合によっては使えない)薬もあります。
また内服薬のみでの治療は、薬剤が効かない耐性変異ウイルスを生じる可能性を危惧する声もあります。対してインターフェロンは体の免疫系に作用する薬なので、耐性の問題は起こりません。このことを考えるとインターフェロンを使った治療の方が有益な場合も考えられます。人それぞれに適した治療があるということを理解することが重要です。
C型肝炎などの抗ウイルス治療、中でも内服薬による抗ウイルス治療は特に十分な知識と経験をもつ医師による、適切な適応判断が必要とされます。治療を受けるときには薬剤の持つメリット・デメリットについてしっかり話を聞いておき、体に何かいつもと違う変化があった場合はその都度連絡・相談していくことが大切です。
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