2022年11月24日木曜日

航空機エンジンがセラミック製になる日

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GEがセラミックマトリックス複合材料の新工場を相次ぎ建設へ
航空機エンジンがセラミック製になる日

ADVENTによるCMC製ブレードを採用した低圧タービン(画像:GEアビエーション)

 人類は3000年以上にわたって鉄やスチールでものづくりをしてきた。いまや月面から海底まで、様々な場所に、合金製の機器や設備が設置されている。しかし、サンジェイ・コレア氏をはじめGEアビエーションのエンジニアたちは「金属が尽きてしまうのも時間の問題」だと確信する。

 彼らが開発中のセラミックマトリックス複合材料(CMC)と呼ばれる新素材は、これから発電産業から航空産業まであらゆる分野に革命を起こし、たとえば航空産業で言えば10年も経たないうちに今よりはるかにパワフルで効率的なジェットエンジンを作れるようになる。

 「それはもう、絶大な進歩になりますよ」とコレア氏。GEは今週、昨年ノースカロライナ州アッシュビルに開設した米国初のCMC工場に続き、今度は米国アラバマ州・ハンツビルに2つのCMC工場を新設すると発表。CMC製部品の量産に必要なサプライチェーンを構築するために、2億ドル(約240億円)を投資することを決めた。

 CMCのような「複合材料」とは、その名が示すとおり、異なる材料を組み合わせてできているもの。身近な複合材料の例を挙げるならば“コンクリート”もそのひとつ。

 最初に炭化ケイ素の製造に着手した場所は日本だった

 GEのCMCは、炭化ケイ素マトリックスに埋め込まれた微細な炭化ケイ素繊維から作られている。この炭化ケイ素繊維はヒトの髪の毛の5分の1の細さで、「企業秘密のコーティング」が施されている。

 金属材料の3分の1と軽量でありながら、耐熱温度は金属材料より20%も高く、多くの合金が溶解し始めるほどの高温でも使用することができる特性がある。つまり、金属並みの強度があり、セラミックより耐久性のある素材だ。

 GEが初めて炭化ケイ素遷移の製造に着手した地は日本。日本カーボンが50%、GEが25%、サフラン・グループが25%を出資した合弁会社、NGSアドバンストファイバー株式会社(以下、NGS)を2012年に立ち上げた。

 今回アラバマ州での建設を決めた2つの工場のうち1つは、米国で初めて炭化ケイ素繊維を扱う工場となり、GE製品のためだけでなく米国防総省への素材供給も行う。

 もう1つの工場では炭化ケイ素繊維を利用して企業秘密のCMCテープを作り、すでに稼働しているノースカロライナ州・アッシュビルにあるGEのCMC工場で利用することになっている。

事業を跨いでテクノロジーや知識を転用


 GEの科学者たちはCMCの研究に20年間取り組んできた。彼らが研究する「スーパーセラミック」は金属と同等の強度がありながらも重さは3分の1と、非常に軽量。しかも、耐熱温度は華氏2400度で、最先端の合金よりも500度も高い。

 これらの特性のおかげで、部品の軽量化を図れるだけでなく、従来ほど冷却空気量を必要としないため、よりパワフルで燃費のよいエンジンを作れるようになる。コレア氏と彼のチームは、CMCを活用することで2020年までにジェットエンジンの推力を25%向上させ、燃料消費を10%削減することができると確信している。

 その一方でCMCの量産は非常に困難で、つい最近までその利用は宇宙産業と戦闘機の排気装置に限られてた。GEの最初のCMCの応用はそんな高尚なものではなく、むしろ実用的なものだった。

 2000年には、オイル&ガス事業のフィレンツェの施設において、出力数2メガワットのガスタービン内部にCMCを採用し、テストを開始。その後5年間、CMC製シュラウド(マシンの高温部に送り込む空気の流線方向を決定する特殊なパーツ)を備えたタービンは何の問題もなく何千時間も稼働し続けた。

 これを見たGEアビエーションは、2007年からこの技術をジェットエンジンへ応用する手法の模索をデラウェア州のリーン・ラボでスタート。これGEが誇る「GEストア」という事業を跨いでテクノロジーや知識を転用し合う取り組みだ。

 すでに、CMC製の静的部品はGEと仏スネクマ社(サフラン・グループ)の合弁会社、CFMインターナショナルが開発した次世代旅客機エンジン「LEAP」に実用化されており、これまでに受注または内定したLEAPエンジン販売数は9,500基を越え、リストプライスでの受注額は1200億ドルを上回る。

 2015年には、GEはボーイング製「ドリームライナー(B787)」にも多数搭載されているGE nxエンジンでCMC製部品のテストを開始し、GEの最新型大型エンジン「GE9X」向けテクノロジーの完成を目指す。

 2020年にCMCの需要は10倍に膨らむ

 このテクノロジーが完成すれば、ファン直径11フィート(約3.4 m)、空気圧縮比60対1を実現するGE9Xエンジンは、世界最大かつ航空機史上最高の圧縮比を誇るジェットエンジンになるはず。コレア氏は「これらのエンジンの商用利用が始まる2020年の終わりまでには、CMCへの需要は10倍に膨らむと見ている」という。

 軽量化による相乗効果は計り知れない。ファンブレードがすべて軽量化されれば、ニッケル合金のタービンディスクも、従来のようにガッシリした作りである必要がなくなる。

 遠心力が弱まれば、ベアリングや他の部品もスリム化することができ、エンジンのいっそうの軽量化は大きな燃費削減につながり、絶大な経済効果と環境効果をもたらしてくれるだろう。

 鉄のかたまりに見えていた航空機エンジンがセラミック製になる日も、遠くはないかもしれない。

村上毅
村上毅Murakami Tsuyoshi編集局ニュースセンター デスク
航空機におけるCMCは、自動車におけるCFRPと似ている。強度と軽量化を合わせ持つ新素材として注目されている。より航続距離を長く、それでいて省エネルギーな次世代機の開発が進む航空機業界。それは機体だけでなく、エンジンも同様だ。燃費性能を高めるために、高温環境下に耐える耐熱性、そして羽根などの回転部品の軽量化が求められる。CMCは航空機エンジン部品で一般的なニッケル合金よりも耐熱性があり、軽量な炭化ケイ素で構成される。価格は高価だが、普及する速度は加速しそうだ。

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