住宅メーカー最終決戦!戸建てバブル崩壊秒読み#2Photo by Ryo Horiuchi

破竹の勢いで成長を続けてきたオープンハウスグループが、創業から26年という驚異のスピードで売上高1兆円を突破した。しかし、そのオープンハウスで異変が起きている。急成長を支えてきた破壊力抜群の「モーレツ営業」を封印し、社内改革に踏み切ったのだ。特集『住宅メーカー最終決戦! 戸建てバブル崩壊秒読み』(全6回)の#2は、オープンハウスに生じた異変に迫る。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

コンプラ重視で「ゲリラ営業」封印か
「次の1兆」へ大胆なコンバート

 2023年秋のある日、東急東横線日吉駅沿いの通称「綱島街道」で、異様な光景が広がっていた。まるでイベント会場へ誘導するかのように、オレンジ色のジャンパーを身にまとった「戦士」たちが、歩道で待ち構えていたのだ。

 しかも、その数は10人ほど。日吉駅から南西へ約100メートル間隔で1人ずつ立ち、通行人に片っ端から声を掛けまくっていたのだ。

 オレンジ色のジャンパーを着た「戦士」とは、オープンハウスグループの社員である。無論、通行人への声掛けは、イベントの告知ではない。これは、社員自らが出向いて顧客を獲得する「源泉営業」と呼ばれるものだ。

 オープンハウスの全契約の3割をも占める源泉営業は、その成長を支えてきた原動力である。しかし、オープンハウスのこうしたゲリラ的な営業手法は、姿を消すかもしれない。

 創業から26年、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を遂げて売上高1兆円を突破したオープンハウス。カリスマ創業者である荒井正昭代表取締役社長は社内で、事あるごとに「三井不動産を抜いて業界ナンバーワンを目指す」と豪語している。

 ところが、である。その壮大な野望とは裏腹に、荒井社長はオープンハウスの成長を支えてきた自慢の「モーレツ営業」を封印し、社内改革を推し進めているのだ。

 その契機になったのは、オープンハウスを巡る「週刊文春」の一連の報道である。社員によるパワハラ、不適切営業、欠陥住宅……。トラブルを抱えた被害者の告発が次々と報道され、企業イメージは大きく悪化。強引ともいえる営業手法などにもクレームが相次いだ。

 業界の頂点を目指すオープンハウスにとって、ガバナンスとコンプライアンスのさらなる強化や徹底は不可欠となった。販売活動と契約の実務を分離したほか、経営幹部を対象にした外部の弁護士による研修や、社員へのコンプライアンステストを定期的に実施したりして、改革を進めている。

 それだけではない。実は、社員の大胆な「コンバート」も断行したのである。コンバートは、オープンハウスの成長を支えてきた営業マンたちに及び、オープンハウスの“攻撃力”を弱めかねないリスクもはらむ。

 次ページでは、荒井社長が踏み切った大胆なコンバートの中身をつまびらかにする。また「次の1兆」へ向けたオープンハウスの戦略も解き明かす。

トップ営業社員を採用担当に配置
事業多角化へ新卒・中途採用強化

 荒井社長が踏み切った大胆なコンバートとは、各事業部や営業センターのトップ営業社員を人材開発部、つまり人事部門に抜てきしたことである。

 オープンハウスのさらなる成長に向けて新卒・中途採用を強化する方針で、この方針に基づいて荒井社長自らが、モーレツ営業を引っ張ってきたトップ営業社員を採用担当に配置したのだ。

 これに対し、「トップ営業マンを人事に引き抜かれては、業績にブレーキがかかる」と懸念する声も社内で上がる。しかし、オープンハウスのある幹部は「このままでは、オープンハウスは伸びていかない」と、モーレツ営業一辺倒への危機感を募らせる。

 背景には、オープンハウスの急成長を支えてきた主力の戸建関連事業が、苦戦を強いられていることがある。

 オープンハウスの強みは、屈強な営業部隊が地元の不動産業者や地方銀行、信託銀行を徹底的に回り、駅から徒歩10分以内の好立地な狭小地を仕入れること。そして、リーズナブルな価格の3階建て分譲住宅を顧客に素早く売り切ることだ。

 ただし、これまでのモーレツ営業により、駅近の好立地な狭小地をほぼ食い尽くしてしまった。そこでオープンハウスは“攻撃”エリアを拡大したところ、大きな壁にぶち当たった。

 とりわけ苦戦しているのは、第一種低層住居専用地域と呼ばれるエリアだ。

 第一種低層住居専用地域は、各自治体が定める都市計画によって建物の高さや敷地境界から建物の外壁までの距離を制限されている。このエリアでは、オープンハウスが得意とする3階建ての一戸建てが基本的に建てられない。このため、オープンハウスは、2階建ての一戸建てでライバルに勝負を挑んだ。

 ところが、思うように売れていないのが現状だ。東京都杉並区や世田谷区などでは、土地の仕入れから資金回収までの回転率を上げるため、値下げに踏み切らざるを得ない物件が相次いでいる。

 オープンハウスが苦戦している理由について、ある住宅業界関係者は「2階建ての商品企画について、オープンハウスはハウスメーカーに劣る上、顧客のニーズを捉え切れていない」と指摘する。さらに2階建ての一戸建てでは、オープンハウスの武器であるコスト競争力を発揮できない結果、顧客に値頃な商品を提供できていないというのだ。

 打開策が、オープンハウスが23年10月に買収した三栄建築設計の活用である。今後、同社が供給するデザイン性に優れた高品質の分譲住宅を投入する方針だ。これにより幅広い商品ラインアップをそろえ、顧客のニーズに対応する狙いがある。

 ただし、三栄建築は暴力団組員に金銭を供与したとして、東京都公安委員会から暴力団排除条例に基づく勧告を受けており、買収したオープンハウスは最優先事項として、三栄建築のガバナンスや経営の立て直しを進めなければならない。買収によるシナジーを早期に発揮できるかどうかは、不透明な情勢だ。

 オープンハウスは24年9月期から3年間の経営方針について、「次の飛躍に向けて足場固めをする時期」と位置付けた。前の中期経営計画「行こうぜ1兆!2023」のような、刺激的なキャッチコピーは影を潜めた。

 足元で苦戦する戸建関連事業をカバーすべく、富裕層をターゲットに収益不動産事業やアメリカ不動産事業をはじめとする戸建関連事業以外の拡大を急ぐ。またマンション事業の強化に向けて、ゼネコンの買収も視野に入れている。

 つまるところ、オープンハウスは「次の1兆」に向けて事業の多角化を進め、それに対応する幅広い人材を確保するため、荒井社長は足元のモーレツ営業を封印してまで、トップ営業社員を採用担当に配置するなど大胆な改革に踏み切っているのだ。

 オープンハウスは売上高1兆円達成を発表した23年11月14日を境に、株価は下落傾向に転じた。これは、オープンハウスが24年9月期、初めて営業減益になる見通しを示したことに市場が反応したことが大きい。

「一回しゃがんで、大きくジャンプするための時期だと思って歯を食いしばるしかない」。別のオープンハウス幹部は、気を引き締める。

 不動産業界の頂に立つという野望へ突き進み、破竹の勢いで業績を拡大してきたオープンハウス。ここで“息切れ”してしまうのか。荒井社長が繰り出した大胆な改革が吉と出るか、凶と出るか。戸建てバブル崩壊のリスクも高まる中、正念場を迎えている。

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