2024年3月5日火曜日

パワー半導体の製造コストが中間膜の発明で、75%ほど減る見通しだ。安価なシリコン基板に炭化ケイ素(SiC)などを積層できるようになったおかげで御座います。東京大学発のGaianixx(ガイアニクス、東京・文京)は、電圧や電流を調整するパワー半導体の製造で使う「中間膜」と呼ぶ素材を開発した。電気自動車(EV)などの高性能化に弾みがつく可能性がある。

 

パワー半導体を安価に製造 東大発新興、コスト75%減

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パワー半導体はEVの航続距離の向上や電子機器の小型化につながると期待される。主流の素材であるシリコンより性能が優れたSiCや窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)などの引き合いが強まる。たとえば、SiCは半導体の機能に必要な電気特性がシリコンの約3倍とされる。高温時でも電流の漏れが少なく、誤作動が起きにくい。

一方、これらの新素材は供給量が少なく、基板1平方センチメートルあたりの価格はシリコン(100円未満)の数倍〜400倍に上る。需要が拡大するなか、コストの抑制が喫緊の課題になっている。

中間膜を使うと、安価なシリコン基板にSiCなどの薄膜を積層できる。素材間で異なる原子の並び方に合わせて中間膜が変形し、欠陥や性能低下を招く「ひずみ」の発生を抑えるためだ。薄膜を同じ素材の基板に重ねる従来法に比べ、製造コストは約4分の1に減らせる。

ガイアニクスは2025年までに年約2万枚の中間膜の生産能力を整える。量産投資に充てるため、ベンチャーキャピタル(VC)のJICベンチャー・グロース・インベストメンツやアルコニックスベンチャーズなどを引受先とする第三者割当増資で3億5000万円を調達した。

ガイアニクスの木島健最高科学責任者(CSO)は東大特任研究員も務め、異なる素材の原子構造のずれを合わせる中間膜を開発してきた。約30年にわたる研究成果を生かす。

まずは国内半導体大手の需要を見込み、海外メーカーへの販売も視野に入れる。中尾健人社長兼最高経営責任者(CEO)は「多くの新素材を使えるようになれば、次世代パワー半導体の普及を加速できる」とみる。

富士経済によると、SiCなどでつくる次世代半導体の世界市場は35年に3兆4579億円と23年に比べ8.8倍に膨らむ見通し。成長市場を捉えようと、スタートアップが動き出している。

名古屋大学発のUJ-Crystal(UJクリスタル、名古屋市)はシリコンの溶液に炭素を溶かし、SiCの結晶を析出する手法を確立した。化合物ガスから析出する一般的な手法に比べて結晶の欠陥が少なく、電気代も安く済む。製造コストは3分の1程度に抑えられる。

手法確立にあたっては人工知能(AI)を活用した。模擬試験の結果を学習させ、結晶化に適した溶液の温度や濃度の組み合わせを割り出した。名大教授も務める宇治原徹代表は「約4年間をかけ、シミュレーションを何千万回も繰り返した」と振り返る。

結晶化したSiCからつくる半導体ウエハーを26年までに量産する。数十億円を投じて生産設備を増強し、ウエハーで主流の6インチと8インチを合わせて年1万2000枚ほど生産する。

AGCなどが出資するノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県狭山市)は独自の坩堝(るつぼ)でGa2O3の結晶化に取り組む。特殊な形状の坩堝のため、内部の温度変化が緩やかで、品質の高い結晶を析出できるという。

従来のガスを使う方法に比べ所要時間は100分の1程度、製造コストは3分の1程度にそれぞれ減らせると見込む。数十億円を投じて国内に新工場を建て、Ga2O3製の6インチの半導体ウエハーを27年にも発売する。

半導体は戦略物資として重要性が高まり、中国や米国による囲い込みへの懸念も広がる。スタートアップは技術力や機動力に優れる半面、生産力は十分でない。世界のトップシェアだった「日の丸半導体」の再浮上に向け、大企業との連携や政府の支援策も不可欠になる。

(永森拓馬)

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