NHKは9月25日、「縮小ニッポンの衝撃」と題したNHKスペシャルを放映。100年近い歴史を持つ国勢調査によって、初めて人口が減少した日本の各地で今、実際に起こっている事態に迫った。 番組内では、人口の一極集中が進む東京が歩むであろう未来や、財政破綻に伴うインフラサービス縮小に悩む自治体の姿などを紹介。その陰惨たる現実を突きつけられた視聴者は放映後、インターネット上に絶望にも似たコメントなどを多数投稿していた。 2016年2月に発表された2015年の国勢調査によると、1920年の同調査開始以来、日本の総人口が初めて減少に転じたことが明らかになった。2010年の調査時より減った数は94万7,000人で、全国の8割以上の自治体で減少が認められたという。 日本の人口は、1920年に約5,600万人だった。そこからベビーブームや、地方から都市部への集団就職、高度経済成長などを経て人口とGDPが順調に右肩上がりで増加してきた。だが、これから日本が直面するのは、かつて経験したことのない「人口の急降下」だという。そして、その現象には人口の一極集中が進んでいる東京ですら抗(あらが)えない。 東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年は、東京で人口が減少に転じる年と考えられている。品川区や目黒区、渋谷区、中野区、豊島区などの11区で人口が減るとの試算があり、豊島区では28万が減少に転じるとみられている。 豊島区は長らく、出生数より死亡数が多かった。普通に考えれば人口は自然減少していくはずだが、その減少数を補うほどの転入者が区の人口増加を支えてきたという背景があった。 この転入者が区の将来を左右すると考えた豊島区は、その実態を詳細に調査。最も多かったのは「20代の単身者」だったが、その給与収入ベースは240万円である事実が判明した。この年収では結婚して子供を持つのが難しいため、将来の人口減の一因となることが懸念されている。 さらに別の事実も明らかになった。これまでは20~24歳の年代が同区に転入して人口を増加させる一方で、25歳~39歳は結婚を機に郊外へ移転するなどして転出数の方が多かった。ただ、最新のデータでは25歳~29歳、30~34歳、35~39歳のいずれの年代でも転入超過が確認されており、明らかにこれまでの傾向とは異なっているという。 この現象の背景に、今の「東京の現実」が見え隠れしている。現在、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて建設需要が高まっているため、警備人員が手薄になっているとのこと。ある警備会社は直近1年間で約60人を採用し、その7割近くが地方出身者だそうだ。一度は地方で就職し、職を失うなどして東京へ出てくる若年層が増えているとみられる。 この警備会社は、単身者向けの寮を2年間で14カ所増やしたが、6畳ワンルームに2段ベッドを2つ置き、4人が過ごす光景が映し出されていた。1日の家賃が1,350円のその部屋を「一時的な仮の住まい」とするはずだったが、結果的に長期間になってしまっている人が増えているという。新潟県出身のある男性は、年収200万円程度で結婚も難しいと話していた。 豊島区の年代別人口ピラミッドを見ると、現在の20~30代は2040年に3割減ると予測されている。そしてこの新潟県の男性のように未婚の20~30代が区内にとどまると、住民税などによる税収が少なくなる一方で、高齢化に伴い社会保障費が増大するという問題が浮上してくる。 豊島区が想定する最悪のシナリオは以下の通りだ。 ■2020年に区の人口が減少 ■2028年に区の税収が減少 ■2035年に社会保障費が現在より50億円増え、区は財源不足に陥る ■2060年には区の財源不足が100億円を超える 豊島区の高野之夫区長は「今の財政規模の中で(財源が)100億円少なくなると区民サービスを相当カットしなければいけないし、大変な行政経営になってくる」と危機感を口にする。 豊島区が描くこの近未来は、「東京全体の縮図」とも言われている。2040年には都内のすべての自治体で人口が減少に転じると予想されているためだ。東京は日本全体の「成長エンジン」。東京の富が地方に行き届くことが長らく日本の発展を支えてきたが、その成長モデルの根幹が今、揺らごうとしている。 「縮小ニッポン」では、人口増加を前提にしてきた社会システムを見直し、縮小していく必要に迫られる。そのような痛みを伴う「撤退戦」にいち早く挑んでいるのが北海道夕張市だ。10年前に財政破綻した同市は、かつて11万人の人口を誇ったが今では9,000人以下にまで減少。「人口に合わせた行政サービス」の模索に市は悩んでいる。 夕張市役所には、「行政サービスをどこまで切り詰めるか」という難題の"ヒント"を見つけるべく、似たような境遇に置かれている自治体職員や地方議員が全国から視察に来るという。これまでに市は公園や図書館を廃止し、医療機関を縮小させている。 夕張市の財務課長は「市民からも全然希望は聞いていない。やはり近隣の市町村だとか類似団体が当たり前にやっていることが夕張市ではできていない」と内情を明かす。350億円以上の借金を返すべく行政の効率化に着手し、さまざまなサービスをカットしているためだ。 その陣頭指揮を執る鈴木直道市長は、市長という役職に就いていながら、ある月の手取り給与は15万8,000円で交通費は自腹で捻出。市のための最善策を日夜、模索している。 現在、夕張市が最も"効率化"を進めたいものの一つに市営の清陵団地がある。以前は1,200世帯が住んでいたが、現在は260世帯まで減少。1世帯のみが居住している建物が団地に点在しているため、インフラ維持でコストがかかる点がネックとなっている。 2016年2月、同団地について市は「政策空き家にする」という案を示した。将来の取り壊しを前提に、建物が丸ごと空き家になるよう行政が誘導するという手法だ。政策空き家に指定されると、新たに入居が認められず、部屋も移れない。階段の上り下りがつらい高齢者といえども、下の階に移り住むということができなくなるわけだ。 同団地の大部分を政策空き家に指定して住民自体を大幅に減らし、最終的に4棟程度の建物に住民を集約させたい意向を市側は持っている。市の人口流出につながるリスクがあるが、建物を取り壊してインフラを縮小することで市のコストを削減する道を選んだ。今後、住民の理解を得られるように努力を続けていく方針だが、すでに同団地の一部では住宅の取り壊しが始まっている。 夕張市の断腸の思いの策が実施されている一方で、水面下では新たな問題が発生していた。市内の中学生3年生を対象にしたアンケートでは、地元の高校へ進学を希望する子どもたちが3分の1程度しかいなかったのだ。以前は8割ほどが希望していたそうだが、学校の統廃合など行政サービスが切り詰められてきた現実を肌で感じている世代は、一刻も早く夕張市を離れたいと考えているようだ。 並行して、市内の保育園の老朽化という問題も夕張市は抱えている。番組で紹介されたある保育園は、建てられたのが40年前で現在の耐震基準を満たしていない。そのため、毎月の避難訓練で子供たちの安全確保に努めているとのこと。夕張市にある3つの保育園は、いずれも耐震基準を満たしていないという。 高校か、保育園か――。鈴木市長は、財源が限られる中での選択を迫られる。「こっちにハンドルを切って助けに行ったら、こっちでまた悲鳴が聞こえてそっちに行く。本当は両方見て、どっちも対策をできれば一番いいんですけど、それがなかなかできない」と苦しい胸の内を吐露する。 熟考の末、高校に新たに予算をつけ、資格取得や進学を目指す子どもたちを後押しすることを決断した。財源はふるさと納税の寄付金だ。未来を担う子どもたちのための鈴木市長の戦いは、まだまだこれからも続く。 夕張市のように、行政側が苦心しながら最低限のサービス維持に努める一方で、住民に行政サービスの一部を肩代わりしてもらう自治体も出てきている。 島根県雲南市は、深刻な財源不足のため2005年に「財政非常事態宣言」を宣言。職員を2割減らすといったコストカットに着手した。将来的に予算も人員も増える見込みはないが、少子高齢化など市の問題は山積しており、市内の隅々までサービスを行き渡らせるのは難しいと考えた。 そこで考案したのが「住民組織」だ。市内を30の地区に分け、そこに住む住民全員を組織のメンバーにした。国からの借入金を活動資金として交付し、代わりに住民組織が行政のサービスを担うという仕組みだ。 雲南市の鍋山地区では、60代の住民7人が険しい山にある400世帯の水道検診を受け持つ。福祉サービスも兼ねているため、高齢者の見守り業務も行っている。ただ、この住民組織が開始されて10年が経過し、メンバーの高齢者が相次いで亡くなっているという。 「この先、地域を支えていけるのか」――。市の担当者には、住民たちの悲鳴が聞こえだしてきている。サービスの担い手がいなくなれば、集落の維持は困難になる。だが、行政側はその対処も住民に委ねたい意向を持っている。 「何もしなければ、極端な話になれば、消滅してしまうこともありえるわけでして、それはやりようだと思います。『消滅してしまいましょう』ということも選択肢としてありえる。どのように考えるかは、住んでいる方ご自身で考えていくこと」と市の担当者は話す。 鍋山地区は専門家のアドバイスを仰ぐことに決めたが、その内容とは「集落維持のため人口に見合った規模に生活圏を縮小する」ことだった。住民組織の担い手が少ない以上、それが現実的な判断だという。 この助言を受けて、住民があらためて地区の状況をつぶさに確認したところ、住宅や田畑が荒れ地に囲まれるように点在していた。これ以上、土地の荒廃が進めば、道の整備や高齢者の見守りが難しくなる。鍋山地区の住民は、地域の縮小を議論していく方針だという。 人口や行政サービスが現在進行形で縮小している現実。番組放映後は、その正視しがたい事態に不安や絶望に似た感情を抱く人たちが多かった。以下は一例だ。 「夕張市の現状や地方自治体の住民組織のあり方を見ると、恐ろしくて仕方ない」 「『縮小』や『消滅』が当たり前に語られる日本では、若者が将来に対して悲観的になるのも無理はない」 「NHKスペシャルが精神を削ってくる」 「NHKスペシャルで心が折れそうになる」 「未来はもっと明るいと思っていたが、とても切なくなる」 雲南市のような住民組織は現在、各地で1,600以上あるそうだが、国は今後4年間で3,000に増やそうと計画している。私たちの多くは近い将来、行政によるサービスを享受するだけの存在ではいられなくなる。自分たち一人ひとりが、自らの住む自治体の課題に向き合わないといけなくなる。 正社員と非正規社員の賃金の格差是正や、共働き世代が子育てをしやすいような会社の制度づくり、保育に関わる施設や人材の充実……。国が目を背け、先送りし続けている課題が暗示するものは、「縮小ニッポン」以外の何物でもないだろう。 ※写真と本文は関係ありません豊島区が抱える問題
区が想定する最悪のシナリオ
痛みを伴う「撤退戦」に挑む
高校か保育園かの二者択一
住民組織の担い手がおらず、地域を縮小
サービスを享受するだけではいられない将来
2016年9月26日月曜日
NHKスペシャルの「縮小ニッポン」の衝撃の内容に、絶望の声が相次ぐ
22:05
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