2016年12月10日土曜日

原発処理21.5兆円、東電支援策は不安だらけ

世界最悪レベルの事故を起こした福島第一原発(代表撮影)

東京電力ホールディングスが引き起こした福島第一原子力発電所事故の費用が、ハイペースで増え続けている。

経済産業省が設けた「東京電力改革・1F問題委員会」(以下、東電委員会。伊藤邦雄委員長=一橋大学大学院特任教授)は12月9日、廃炉や汚染水対策、被災者賠償、除染などに必要な総額が21兆5000億円に達するとの見通しを示した。

費用総額は2014年1月に示した従来見通しの11兆円からわずか3年間で倍増した格好だ。賠償などに充てるための政府による交付国債枠は2012年5月時点の5兆円から2014年1月に9兆円、そして今回は13兆5000億円に膨れあがった。

廃炉費用が4倍の8兆円に

費用総額の見積もりでは被災者賠償費用が従来の5兆4000兆円から7兆9000兆円に増大するほか、放射性物質に汚染された宅地や農地などの除染費用が2兆5000兆円から4兆円に膨らむ。除染で発生した土砂や廃棄物を保管・減容化する「中間貯蔵施設」の整備に必要な費用も、従来の1兆1000億円から1兆6000億円に増額した。

数ある費用項目の中で最も膨れ上がったのが、従来2兆円と見積もられていた廃炉・汚染水対策の費用だ。原子炉の炉心から格納容器の底部に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しに前例のない難しさがあることが分かってきたことを理由に、8兆円という試算が示された。米スリーマイル島事故と比べた場合、25~30倍に相当するという。ただしこの数字は専門家などへのヒアリングに基づいて“仮置き”したものに過ぎず、実際に8兆円に収まるかははっきりしない。

一方、廃炉にかかる費用は厳密なものではなく、債務として認識する必要はないとされる。東電の連結純資産(2016年9月末時点で2兆2686兆円)を大幅に上回るにもかかわらず、経産省幹部は東電自体が債務超過に陥ることはないとの見通しを示している。東電は、送配電事業子会社が合理化努力によって捻出した利益を廃炉事業に回すことで、30~40年もの超長期にわたって廃炉費用を賄う。しかしながら、費用が合理化努力分を大きく上回ることになれば、今回のシナリオは根底から崩れる。

東電委員会の伊藤邦雄委員長(記者撮影)

廃炉・汚染水対策の費用捻出に際して、電気料金の値上げを求めないことから、経産省では国民負担は生じないとの見方を示している。しかし、この見方には問題がある。

送配電子会社の合理化努力分は、現在のルールでは送配電線の利用料(託送料金)の引き下げに充てることが義務づけられている。だが今回、東電に限って特別扱いで引き下げを求めない。つまり、本来下がるはずの託送料金が高止まりするという点で、利用者に負担が転嫁されることを意味している。

賠償費用のつけ回しに反対意見

さまざまな費用の中でも、賠償費用の負担のさせ方は異例中の異例だ。賠償費用の負担方法については、経産省が設置した「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(以下、貫徹小委)の財務会計ワーキンググループで主に審議された。

ここでは原発事故後の2011年7月に新しい法律が施行されて現在の賠償スキームができるまでに「本来、確保されておくべきだったとする金額が約3兆8000億円あった」と推定したうえで、経産省はそのうち2兆4000億円を託送料金に上乗せする形で、原発の電気を用いていない新電力の利用者を含めた全国民(沖縄県民を除く)に負担させる案を示した。

経産省の説明では、原発による発電が始まった約45年前にさかのぼって用意しておくべきだった事故に備えた費用を「過去分」と呼び、これについては原発を持たない新電力も含めて幅広く全国のユーザーに支払わせる。かつて電力自由化前に、従来の電力会社のユーザーとして、原発による“安い電気”の恩恵を受けていたことが理由だと経産省は説明している。

しかし、こうしたやり方についてはワーキンググループに参加した委員からも批判や疑問の声が数多く上がった。

消費者団体の代表として参加した大石美奈子委員は、託送料金に上乗せして負担を求めることに強い反対意見を表明。「費用総額がはっきり示されないまま、託送原価への転嫁ありきで議論を進めるべきではない」と主張した。

東京大学大学院教授の松村敏弘委員は、「今回が前例となって次から次へと費用が託送料金に上乗せされることになるようだと罪深い」との懸念を示した。ほかの委員からも「普通のビジネスではありえない」といった指摘があった。

前回の支援策が事実上破綻したことから、経産省が今回示したスキームも再破綻の可能性をはらんでいる。その象徴が除染費用の捻出方法だ。

他社も事業統合に及び腰

従来の再建計画では、東電の筆頭株主である原子力損害賠償・廃炉等支援機構が保有する東電株式の売却益を2兆5000億円と想定したうえで、それを除染費用に充てるとしている。しかし、東電の株価は低迷を続け、12月9日現在、時価総額は8300億円程度にとどまる。今のままでは売却益どころか売却損が発生する。にもかかわらず今回の支援策では、企業価値向上の具体的な裏付けがないまま、売却益を4兆円に増額している。

東京電力ホールディングスの廣瀬直己社長(記者撮影)

東電は今回、送配電や原子力分野でも他社との事業統合や海外展開にも踏み込むとしているが、難航する可能性が高い。東電が保有する柏崎刈羽原発の分社化に際して、最有力の提携候補と見られていた東北電力の原田宏哉社長は10月27日の記者会見で、東電との原発事業の統合の可能性についてきっぱりと否定している。

福島事故の後始末に引きずりこまれる恐れがあるうえ、万が一、東電との事業統合後に原発事故が起きた場合、共同責任を問われかねない。

経産省は東電への支援強化をテコに業界再編を加速させたい考えだが、狙い通りに事が運ぶ保証もない。数年後に再び再建計画の作り直しに追い込まれる懸念は、払拭されていない。

(岡田 広行:東洋経済 記者)

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