2017年7月15日土曜日

【1分解説】NHKがネット企業の強敵となる日

【1分解説】NHKがネット企業の強敵となる日

2017/7/15
NHKが2019年開始を目指すネット同時配信。NHK側が、ネット利用者に対して受信料を課す方針を示したことが波紋を呼んでいる。問題の本質はどこにあるのか。メディア・コンサルタントで元TBSメディア総研代表の氏家夏彦氏が解説する。
2つのパンドラの箱
7月12日、読売新聞オンラインに『ネット配信利用者にも受信料……NHKが開けた「パンドラの箱」?』という記事が掲載されました。
これは、読売新聞メディア局編集部次長の中村宏之さんが執筆した記事なのですが、非常によく書かれています。重要なポイントをしっかり押さえている上に、このテーマについて知らない人にも理解しやすく書かれている良記事です。
簡単に要約するとポイントは以下になります。
・ NHKのこれまでのインターネット事業は放送の“補完”業務であるので、受信料収入の2.5%、金額にして180億円までは使ってもいいことになっていた。
・ ところが今回NHKは、同時配信は将来的には“本来”業務となると考えていると言及した。
・ これに対して民放各社は一斉に反発し、総務省にとっても青天の霹靂だった。
・ NHKはこれによって2つのパンドラの箱を開けてしまった。1つは、ネットからも受信料と同じように料金を徴収できるとなると、ネット企業にとってもNHKは脅威となること。
・ もう1つのパンドラの箱は、受信料制度の根本的な問題点だ。放送を受信できる設備(テレビ)を設置した者は受信料を払う義務が生じるが、パソコンやスマホはどうなるのか。
NHKを見るためにパソコンやスマホを持つわけではない人からは徴収しないのであれば、今や放送を見る以外にも様々な用途に使われるようになったテレビにも同様の理屈が当てはまるのではないか。NHKの放送は見ないという人からも受信料を徴収することの説得力がなくなるのではないか。
利用率はわずか6%
実はNHKは昨年末、同時配信の実験をやっています。
しかし、同時配信を利用したのはわずか6%しかいませんでした。
しかも実験に参加したのは公募で応募した人たち、つまり最初から同時配信に関心があった人たちです。それなのにわずか6%の利用率ですから、ユーザーはそれほど同時配信を見たいとは思っていないのは明らかです。
渋谷にあるNHKの放送センター。2020年の東京五輪後に建て替えが始まる予定だ(iStock/mizoula)
実は私もこの実験に参加したのですが3週間の実験期間中、同時配信を見たのはわずか2回しかありませんでした。同時配信に対するニーズがわずかであることを実体験することができました。
もし仮に、ネットを使っている人が「放送との同時配信を見たいか?」と聞かれたら、実際に見る見ないは別にして、たいていの人が「見たい」と答えるでしょう。なんとなく便利そうだからです。
でもそれが有料ならどうでしょうか?
仮に、受信料を払っていない人からは、受信料と同額の月額1260円を徴収するとなったらどうでしょう。これは、HuluやNetflixなど、ほとんどの動画視聴サービスよりも高い金額です。
これでも見たいと思う人はどれだけいるでしょうか?
しかも受信料と同じように、強制的にお金を取るとしたら、ユーザーはどう反応するでしょう。
Huluと同じ規模に相当
今度はネット企業からの視点です。
今のNHKのインターネット事業は、あくまで放送の補完業務と位置付けられていて、全受信料収入の2.5%、年間180億円まで使えることになっているそうです。
この180億円というのはどれくらいの金額かというと、ネットの有料サービスで1人月額1000円の場合、150万人のユーザーから得られる年間売上高と同じ金額になります。
この150万人というユーザー数は、日本テレビが大々的にやっている動画配信サービスのHuluとほぼ同じ規模です。
日本ではまだ存在感が大きくない、Hulu、Netflixなどの動画配信サービス。NHKがネット同時配信を始めれば、強力なライバルとなる(iStock/mphillips007)
NHKは、放送の“補完”業務にすぎないのに、最大手のネットサービス並みのお金を今でも使えることになります(そのお金をどれだけ有効に使っているのかというのは、また別の議論になりますが)。
ところが今回、NHKは“補完”業務でなく“本来”業務でやると言い出しました。補完業務ですら180億円も使えるのに、本来業務ならどれだけ使えるのでしょうか。ネット企業からすれば、突然、強大なライバル企業が現れたことになります。
しかもネット企業は一生懸命、営業活動してユーザーからお金をいただいているのに対し、NHKは法律に基づいて強制的に徴収したお金で、大規模なネットサービスを展開できるようになります。民放やネット企業のように景気に影響されることもなく、安定的に巨額な受信料が手に入るのです。
これでは、民放だけでなくネット企業からも「民業圧迫」の批判は起きかねません。
今回のNHKの方針表明は、多くのユーザーと、多くのネット企業を敵に回すことになるのですが、この意味をNHKは分かっているのでしょうか?
(バナー写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

0 コメント:

コメントを投稿