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2021年04月17日 06:11 ITmedia Mobile
写真 Xperia 1 IIIには、70mmと105mmの可変式望遠カメラが搭載された |
Huaweiが2019年に投入し、日本ではNTTドコモから発売された「P30 Pro」を契機に、ハイエンドスマートフォンでの“望遠カメラ競争”が一気に進んだ。日本市場の主な端末に限ると、2020年にはサムスン電子がau向けに最大100倍ズームの「Galaxy S20 Ultra 5G」を投入。同年、OPPOもauを通じて、ハイブリッド10倍ズーム対応の「Find X2 Pro 5G」を投入している。Huawei自身も、SIMロックフリーでP30 Proの後継機にあたる「P40 Pro」を2020年に発売した。
一方で、スマートフォンのコンパクトなボディーに高倍率のレンズを収めるには、どうしても画質に限界がある。デジカメとは違い、レンズを動かすことができないため、厳密言えばズームではなく、カメラそのものを切り替える必要もあり、メインカメラとの“間”をどう埋めていくのかも課題だった。日本で発売が決まった「Galaxy S21 Ultra 5G」と「Xperia 1 III」は、こうした問題をそれぞれのアプローチで解決しようと試みた端末だ。その比較をしながら、スマートフォンに搭載される望遠カメラの今を読み解いていきたい。
●Huaweiが火をつけた望遠カメラ競争だが、高倍率カメラには課題も
「月も撮れる」をうたい文句にしたHuaweiのP30 Proは、その高倍率な望遠レンズが大きな話題を集めた。焦点距離125mm(約5倍)のレンズを搭載して、デジタルズームを掛け合わせると、10倍まで画質の劣化が少ない撮影ができるというのがその特徴だ。125mmの望遠を実現しようとすると、レンズの長さが必要になってくるが、スマートフォンとしての薄さはキープしなければならない。このトレードオフを解決するために採用されたのが、ペリスコープ(潜望鏡)型のレンズだった。
高倍率な望遠カメラのインパクトは大きく、同じ中国に拠点を構えるOPPOも、「OPPO Reno 10x Zoom」で対抗。P30 Proと同様、こちらも日本市場に投入された。2020年には、HuaweiはP30 Proの後継機にあたるP40 ProをSIMロックフリーモデルとして投入。OPPOも、フラグシップモデルのFind X2 Pro 5Gをauから発売した。この“高倍率望遠競争”にサムスン電子も参入。OPPOと同様、auからGalaxy S20 Ultra 5Gが発売された。
一方で、高倍率の望遠カメラには課題もあった。1つは、メインとなる広角カメラと焦点距離の差が大きすぎることだ。24mm前後の広角カメラから125mm程度に切り替えると、一気に距離が詰まってしまい、逆に被写体から離れないと適切な大きさの写真を撮るのが難しくなる。もう1つの問題は画質だ。ペリスコープレンズを使うこともあり、レンズが暗くなりがちで、明るい場所で撮ってもISOが上がってしまう上に、手ブレもしやすい。
センサーサイズや画素数も、メインの広角カメラより小さいものが多い。一眼カメラのようなズーム撮影を、コンパクトなスマートフォンで再現するというのがもともとのコンセプトだったが、本家であるデジカメの域には達していなかったのが現状だ。広角カメラと画角が違いすぎることもあり、普段使いできる望遠カメラには仕上がっていなかったのが現状だ。
実際、OPPOはFind X2 Pro 5Gの後継機にあたる「Find X3 Pro 5G」ではペリスコープ型カメラの搭載をやめ、ハイブリッドズームを5倍に抑える代わりに、顕微鏡カメラを搭載した。これに対し、4月にドコモから発売されるGalaxy S21 Ultra 5Gと、6月に3キャリアから発売されるXperia 1 IIIは、それぞれ異なるアプローチで望遠撮影のしやすさに改善を加えた。カメラの追加と、可変式望遠カメラがそれだ。
●2つの望遠カメラを搭載し、3倍ズームも可能になったGalaxy S21 Ultra 5G
Galaxy S21 Ultra 5Gは、背面に4つのカメラを搭載する。内2つが望遠カメラで、それぞれ標準カメラに対しての倍率が異なる。1つが3倍、もう1つが10倍だ。先代にあたるGalaxy S20 Ultra 5Gにも、4800万画素の10倍ハイブリッド光学ズームが可能な望遠カメラが搭載されていたが、バストアップ写真のように、被写体にグッと寄りたいシーンには使いづらかった。
レンズのF値もF3.5と暗く、手ブレもしやすい。スペック上はデジタルズームを組み合わせて最大100倍ズームすることができたが、正直なところ、取りあえず被写体が何であるかを判別できる程度に写っている写真しか撮れなかった。100倍というのは、競合他社を意識したマーケティング上の数字だったといえる。利用シーンでいえば、メインのセンサーで撮った写真を切り出すデジタルズームを使うことの方が多かったはずだ。
これに対し、Galaxy S21 Ultra 5Gは、ポートレート撮影や影が写り込まないよう、少し離れて撮るときに使いやすい3倍の望遠カメラが追加で搭載されている。3倍の望遠カメラは、レンズのF値が2.4と明るく、画素数も約1000万画素。1倍から10倍に一気に倍率を上げるのではなく、間に3倍の望遠カメラを設けることで、ズームの使い勝手を上げた格好だ。
10倍ズームも健在だが、こちらはどうしても近づけない被写体を撮るためのもの。F値は4.9とかなり暗く、最大倍率の100倍まで被写体に寄ると、撮れた写真は手ブレもあってガビガビになってしまう。三脚を使えばある程度キレイにはなるが、出番は限定的になりそうだ。その意味で、Galaxy S21 Ultra 5Gはカメラを1つ追加することで、うたい文句の派手さと実用性を両立させたといえる。
一方で、この仕組みだと、対応する焦点距離の数を増やそうと思ったら、そのたびにカメラが1つ追加されていくことになり、コストが上がるだけでなく、CMOSセンサーやカメラモジュールの実装も難しくなってくる。デザイン的にも、背面がカメラだらけになってしまい、仕上げが難しくなるのがデメリットといえそうだ。
●世界初の可変式望遠カメラで2つの焦点距離をカバーするXperia 1 III
対するソニーは、4月14日に発表したフラグシップモデルのXperia 1 IIIに、世界初をうたう可変式の望遠カメラを搭載した。ペリスコープの内部が動くことで、焦点距離を変更できるのが特徴だ。焦点距離は70mmと105mm。70mmは3倍弱、105mmは約4.4倍で、最大倍率はここまで挙げてきた端末に比べると抑えめだが、そのぶん画質を強化し、普段使いしやすい望遠カメラに仕上げた。
まず、画素数は広角カメラや超広角カメラと同じ1220万に統一。画角を変えると画素数まで変わってしまうといったことがなく、一眼カメラでレンズを交換するようなイメージで利用できる。単にレンズを望遠にしただけでなく、センサーサイズも1/2.9型と望遠カメラの中では大型のものを採用した。レンズのF値も70mmのときがF2.3、105mmのときがF2.8と明るい。
さらに、センサーは24mmや16mmのカメラと同じDual PD(デュアルフォトダイオード)で、オートフォーカスの合焦が速い。物体をAIで認識、被写体をロックオンして追いかけ続ける「リアルタイムトラッキング」にも対応しているため、望遠カメラながら、動いている被写体にも強い。広角カメラより性能は落ちるが、秒間30コマのAF(オートフォーカス)/AE(オートエクスポージャー)演算や、秒間10コマの高速連写にも対応する。画質だけでなく、使い勝手にもこだわった望遠カメラといえそうだ。
先代のXperia 1 IIと比べ、望遠カメラのレンズが大きくなってはいるものの、同じトリプルカメラのため、見た目の差は小さい。ボディーの厚さは8.2mmで、7.9mmだったXperia 1 IIよりはやや厚くなっているが、実機を見た限り、大きな差は感じられなかった。70mmと105mmの間は、70mmのデジタルズームでつながなければいけない課題は残っているものの、現時点では、スマートフォンの望遠カメラの中で最も使い勝手がいいように見えた。
片手で持って操作でき、ポケットにもしまえる必要があるため、スマートフォンのカメラには、どうしても制約がある。一方で、メインカメラの画質はセンサーサイズの大型化や、処理能力の向上によるAIの進展で、ある程度デジカメに迫る画質が実現できるようになってきた。ただ、サイズの制約を受けやすい望遠カメラは、まだ発展途上といえる。こうした状況のなか、サムスンは多眼化で、ソニーは可変式レンズで、望遠撮影時の使い勝手のよさを打ち出してきた格好だ。望遠カメラの競争軸が、徐々に変わってきたことがうかがえる。
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