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写真 生活保護打ち切り処分の取り消しを熊本県に命じた判決後、熊本地裁前で勝訴の旗を掲げる原告側弁護士ら=熊本市中央区で2022年10月3日午後2時5分、中村園子撮影 |
看護専門学校に通う孫の収入増加を理由に、同居する夫婦への生活保護を打ち切った処分は違法などとして、世帯主の男性(73)=熊本県長洲町=が県に処分取り消しなどを求めた訴訟の判決で、熊本地裁は3日、処分の取り消しを命じた。中辻雄一朗裁判長は「収入増という表層的な現象しか見ておらず、県の判断は裁量を逸脱・乱用している」と指摘した。
男性は妻、孫の30代女性の3人暮らしで、2014年7月から妻と生活保護の受給を始めた。生活保護法に基づき、専門学校生だった女性は、同居家族らと別世帯とし、アルバイトなどをしても夫婦世帯の収入とみなさない「世帯分離」の対象となった。しかし県は17年2月、専門学校3年の女性について「16年4月から病院で准看護師としてアルバイト収入を得ており、夫婦の家計を助けられる」として世帯分離を解除。生活保護も打ち切った。
原告側は「准看護師の資格は看護師になるための通過点。アルバイト収入も学費に充てることが目的で、生活に回せる余裕はない」などと主張。「生活保護法に基づく厚生労働省の通知では、看護学校などの専修学校で学ぶ場合、世帯分離の対象と明記している」と訴えていた。
判決で中辻裁判長は「専修学校などに進学した人の経済的な負担を軽くし、同居しながら通学して能力を得ることで、本人や保護世帯の自立を促すことが目的」と世帯分離の趣旨を指摘。17年2月の時点でも、女性は学校の授業料をアルバイト代や奨学金で賄っており、「生活保護を打ち切れば原告夫婦が経済的に困窮し、自立しようとした孫に支障が生じる可能性が高いことは容易に予測できた」とした。その上で県の処分について「自立に効果的な状況が継続しているかという視点に欠け、著しく合理性を欠いたといわざるを得ない」として違法と判断した。
判決について原告側弁護士は「世帯分離の要件を争った裁判は全国初ではないか。子どもの就学保障の重要性を明らかにした判決だ」と話し、男性は「二度と繰り返してほしくない」と訴えた。熊本県社会福祉課は「判決文を精査し、厚生労働省と協議した上で控訴するか決める」と話した。
生活保護に詳しい花園大の吉永純(あつし)教授(公的扶助論)は、13年に「子どもの貧困対策法」が成立し、生活保護世帯の子どもの進学支援の充実を図る流れの中での判決だとして「生活保護家庭で育ち、高校を卒業後も『もっと勉強したい』『資格を取りたい』と願う子どもは多い。自立を志す子どもの願いに沿う判決だ」と評価し、「行政の恣意(しい)的な判断に警鐘を鳴らすものだ」と話した。県の処分については「家族単位の収入増加にしか目を向けないまま、生活保護を打ち切った」と批判した。【中村園子】
生活保護制度の世帯分離
生活保護世帯の中で、大学や専修学校に進学する人などについて、同居家族らとは別の世帯として扱う仕組み。従来、国は生活保護を受給したままの義務教育修了後の就学は「ぜいたく」とみなして原則認めなかった。だが、高校進学率が高くなったことを受け、1970年に生活保護世帯の子の高校進学を「世帯内就学」として認めたうえで、大学や専修学校などに進学する場合については世帯分離をしたうえで就学を認めた。
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