https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/2401/11/news013.html
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ノートPCなどの電源アダプターは「大きくて重いもの」。そんな“常識”が変わるかもしれない。Texas Instruments(TI)が発表した新しいGaN FETは、電流センシング機能を統合したことでAC/DC電力変換システムの高効率化と小型化を両立させられる製品だ。標準的な67W電源アダプターであれば、Si FETを用いた従来品よりも50%小型化できる。電源アダプターやUSB電源の大幅な小型化に大いに貢献するはずだ。
さらなる小型化が求められるAC/DC電源アダプター
日常生活でスマートフォンやノートPCなどの電子機器を持ち歩く一般消費者にとって、必須だが“少し厄介な存在”が電源アダプターではないだろうか。AC/DC電力変換を担う電源アダプターは電子機器の駆動には欠かせないが、消費者が望んでいるほど小型ではない。モバイル機器の薄型化や小型化が進んでいるにもかかわらず、電源アダプターは大きいままだ。USB PD(Power Delivery)が登場してUSBケーブルで電力供給も可能になっている今、電源アダプターの小型化や軽量化がますます求められている。
電源アダプターでは高いAC/DC変換効率も重要だ。変換効率が低い、つまり電力損失が大きいということは、それだけ熱を発しやすいということでもある。「使っているうちに電源アダプターが熱くなってきた」という経験を多くの消費者が持っているだろう。
電源アダプターの小型化や高効率化の最も効果的な手段の一つが、次世代パワーデバイスとも呼ばれるGaN(窒化ガリウム) FETだ。GaNの半導体特性によって、GaN FETには低オン抵抗と高速スイッチングという特徴がある。Si(シリコン) FETでは不可能な高速スイッチングが可能なので小型の受動部品を使うことができ、同じ出力電力でも電源システムを小さくできる。つまり、より高密度な電力システムが実現する。
GaN FETは、2018年ごろから急速充電器に採用され始めた。従来のSi FETよりも大幅に小型化でき、消費者に利点を訴求しやすいことから採用が進み、現在はさまざまなメーカーがGaN FET搭載の急速充電器を販売している。
急速充電器や電源アダプターのさらなる小型化や性能向上を実現するため、GaN FET自体の開発も進んでいる。10年以上にわたってGaN FETをはじめとするGaN製品に積極的に投資しているのがTexas Instruments(TI)だ。
GaN製品のターゲット市場を民生機器にも拡大
TIは2010年ごろにGaNパワーデバイスの開発を開始した。現在は耐圧(VDS)600~650Vを中心に、GaN FETを約20種類展開している。TIのGaN FETの特徴は、SiゲートドライバとGaN FETを同一パッケージに統合している点だ。これにより、パッケージのボンドワイヤやリードで発生する寄生インダクタンスを大幅に取り除ける。
GaN製品を発売した当初は、電気自動車(EV)の充電回路やDC/DCコンバーターといった車載アプリケーション、産業機器など、ハイパワーのアプリケーション向けGaN FETをそろえていた。2022年ごろからは民生機器にもターゲットを拡大し、ローパワーアプリケーション用GaN製品の拡充に力を入れている。
TIのGaNパワーデバイスは、シリコンサブストレートから始まる、独自のGaN-on-Silicon製造プロセスを使用して自社工場で製造している。プロセス、パッケージ、回路設計に関するTI独自の専門知識を組み合わせることで、GaNの統合を推進し、製造の品質、コストおよび、キャパシティをコントロールできることもTIの強みだ。
電流センシング機能を統合し、電力損失とサイズの削減を両立
2023年12月、それらのラインアップに「LMG3622」「LMG3624」「LMG3626」が加わった。いずれも耐圧が650Vで、オン抵抗(RDS)はLMG3622が120mΩ、LMG3624が170mΩ、LMG3626が270mΩだ。
特徴の一つが、高精度の電流センシング機能を統合したことだ。一般的に、電源回路では出力電流をモニタリングして入力側にフィードバックすることで電流を制御する。さらに、ハイサイド側で過電流を検出して保護回路を実現する場合もある。こうした電流制御や過電流保護のための電流検出にはシャント抵抗を使う。ただし、シャント抵抗は抵抗器なので電流を流すと発熱し、電力損失につながる。シャント抵抗を使うことで部品点数も増える。
TIの新製品は電流センシング機能を内蔵しているので外付けシャント抵抗が不要で、シャント抵抗に起因する電力損失も減る。Si FETとシャント抵抗で構成した電流センシング回路よりも電力損失を最大で94%削減できる。
電力損失の削減により、システム全体のAC/DC変換効率が改善する。新製品を用いた場合、75W未満の電源アダプターで最大94%、75W以上では最大95%を実現する。Si FETを用いる一般的なアダプターでは効率が89~91%なので、効率をかなり向上させられることが分かる。既存のSi FETでここまでの効率を実現するのは難しい。スイッチング周波数が高いSi FETを使う方法もあるが、そうすると高周波特有の対応が必要になるのでAC/DC変換回路のサイズが大きくなり、電源アダプターを小型化できなくなってしまう。
電力損失が低いということは、発熱が少なくなるということでもある。高温になりやすい構造の機器の熱設計が容易になる他、電源アダプターの温度上昇を抑えられるので放熱に関する国際的な安全規格「IEC 62368-1」に準拠しやすくなるという利点もある。
67W電源アダプターならサイズが半分に
シャント抵抗を使う必要がないので、BOM(Bill of Material)コストを削減でき、AC/DC変換回路のフットプリントも削減できる。標準的な67W電源アダプターであれば、Si FETを搭載するときよりも最大50%小型化することが可能だ。これは消費者にとって大きなメリットになるはずだ。
LMG3622、LMG3624、LMG3626はアクティブクランプフライバック、疑似共振フライバック、非対称型ハーフブリッジフライバック、LLC、トーテムポールPFC(力率改善)といった、AC/DC電力変換に使われる一般的なトポロジー向けに最適化されている。低電圧誤動作防止(UVLO)機能や過電流/過熱保護機能も搭載しているので、高い信頼性が実現する。
3製品とも、外形寸法8×5.3mmの38ピンQFNパッケージを採用。LMG3622とLMG3626は量産に対応しており、LMG3624は量産開始前の限定的な数量で購入可能だ。1000個購入時の参考単価は3.18米ドルから。新製品を搭載した評価基板「LMG3622EVM-082」なども提供中(250米ドルから)だ。TIは、電力損失カリキュレーターや回路シミュレーション用のPLECSモデルなど、GaN専用の各種設計ツールとリソースも豊富にそろえている。
電流センシング機能を統合していないピン互換の「LMG3612」「LMG3616」もある。用途やコスト、設計の柔軟性を考慮して、GaN製品で幅広い選択肢を提供できることもTIの強みだ。
電源アダプターの小型化や高効率化に大きな利点があるGaN FETは今後もさまざまなアプリケーションに採用されるだろう。調査会社のResearch Nesterが2023年3月に発表した予測によれば、GaNを採用した電源アダプターの世界市場は2023~2035年にかけて年平均成長率(CAGR)6%で成長し、2035年末には30億米ドルに達するという。TIはそうした成長を見据え、Siベースの電源IC技術で蓄積したノウハウも活用してGaN製品を順調に拡充し続けている。
今回発表した新しいGaN FETは、多くの民生用アプリケーションで小型化や電力密度の向上などを実現する。GaNパワーデバイスの利点を大いに生かした機器やシステムを消費者に届けられるはずだ。
提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年2月10日
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