https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/01993/?i_cid=nbpnxt_ranking
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建物建設時の中間・完了検査をリモートで実施できるようになれば、施工者や工事監理者、確認検査員の移動時間を大幅に削減でき、2024年問題への対応や人手不足の解消につながる──。
清水建設は2024年2月6日、メタバース(仮想空間)で建物の中間・完了検査ができる「メタバース検査システム」を開発したと発表した。工事が完了した建物が確認申請図書通りに施工できているかを、現場に出向かず遠隔地から確認できる。施工中の現場に立ち入る必要がないため、安全性の確保や感染症の予防にもつながる。
清水建設が設計・施工した建物の1つで効果検証したところ、移動時間を大幅に削減できる見通しが立った。このときの完了検査では検査員6人と設計者1人の合計7人が、1人当たり往復で約2時間かけて現地を訪れていた。メタバース検査システムを使えば、7人分の往復の移動時間を削減できる。浮いた時間を他の業務に使えるわけだ。
清水建設が手応えを感じているメタバース検査システムは、大きく2つの要素で構成する。1つは、建物のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)データと建設現場を3Dスキャンして取得する建物の点群データを表示するメタバース環境。もう1つは、BIMデータ(確認申請図書通りのモデル)と3Dスキャンデータ(施工した建物の実測値)にずれがないかを確認するツール「xRチェッカー」だ。
システムは清水建設が検査機関である日本建築センターの指導の下、積木製作(東京・墨田)の協力を得て開発した。
施工者や工事監理者、検査員はVR(仮想現実)ゴーグルを頭にかぶり、メタバースに入る。両手にVRゴーグルのコントローラーを持ち、メタバース内に表示されるxRチェッカーを操作する。BIMと点群の2つのデータをメタバース内で視覚的に見比べ、差がある所だけxRチェッカーで色を変えて表示する。BIMモデルと実測値の違いを簡単に見分けられる。
メタバース検査システムを記者も体験
メタバース検査システムを運用するには、建物をBIMで設計し、検査機関にBIMモデルで建築確認を受けることが前提になる。確認済み証を得たBIMモデルが「正解(確認申請BIM)」となり、完了検査で差分を確認する際の基準になる。
完了検査前には、建物を3Dスキャンして点群データを取得しておく必要がある。3Dスキャン業務が新たに必要になるが、「この業務は外部委託すればいい」(清水建設設計本部デジタルデザインセンターの佐藤浩上席設計長)。
24年2月初旬には、記者もVRゴーグルをかぶってメタバース検査システムを体験することができた。このときメタバースに出現した建物は、清水建設が設計・施工した埼玉県三郷市に立つ地上7階建ての病院だった。
コントローラーを操作すれば、病院の内外を自由に歩き回れる。xRチェッカーを使ってBIMモデルに点群データを重ねたり、寸法が知りたい場所を指定して表示したりできる。メタバースなら視点を自由に変えられるので、目視では見ることができない角度から検査することも可能だ。施工中に天井裏のような隠蔽部を3Dスキャンしておけば、天井仕上げの内部まで検査できる。
メタバース内には施工中の現場写真や確認申請を受けた図面も表示できる。必要に応じて資料を参照すればよい。現状の検査では図面片手に、建物を目視や簡易計測機などで確認。施工記録や各種検査報告書の確認は、実際に紙の書類を見ている。メタバース検査システムを使えば、これまでの現地確認と書類検査をオンラインでまとめて行える。
建築確認に必要な平面と断面の情報をメタバース内で同時に確認できるメリットもある。各部屋の名称や床面積、防火区画などに必要な区画壁の壁種、自然排煙設備の排煙窓の設置高さなども確認可能だ。
日本建築センターと有用性を検証済み
清水建設は日本建築センターと共同で、19年からBIMデータを使った建築確認や完了検査の効率化を試行してきた。国土交通省は24年6月までに現地現場の映像を使って建物を遠隔検査するための指針となるマニュアルを整備する予定である。国交省が作成するマニュアル次第では、メタバース検査システムを実用化できる日はそう遠くないかもしれない。
清水建設がメタバース検査システムを使って完了検査を試行してみた建物は、記者が体験したのと同じ病院のプロジェクトだ。同社が設計し、日本建築センターが確認申請BIMによる確認申請の事前協議を実施。確認済み証を発行した案件である。
現状の現場での完了検査を終えた後、日本建築センターの検査員が改めて同じ建物をメタバース内で検査。システムの有用性や操作性、課題などを清水建設と共有した。
清水建設の佐藤上席設計長は、「中間・完了検査にシステムを実装するには、国交省のマニュアル整備などを待つ必要がある。ただし、東京消防庁からは消防同意の審査にはすぐにでも使えそうだと言われた。消防検査が先行するかもしれない」と内情を明かす。
清水建設は24年3月と同年7月に中間検査を予定している案件を、先述の病院に続くシステム試行の第2弾として準備している。国交省のマニュアルが公表され、実運用が可能になったとき、素早くリモート検査に移行できる態勢を整えておく。
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