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高耐圧な縦型FET構造の高効率パワーデバイスを作成するための半導体結晶として、その実用化と利用拡大に期待が集まる窒化ガリウム(GaN)基板上に成長した高品質なGaN結晶である「GaN on GaN」。富士通は、既存のSi基板やSiC基板上に成長させた従来のGaN結晶に比べてケタ違いに欠陥密度の低い特徴を生かすことで、縦型デバイスだけでなく、中耐圧の横型パワーデバイスや高周波デバイスにおいても、利用メリットが出てくる可能性があると考えている。
縦型の実現に不可欠なGaN on GaN、量産体制が整えば横型にも展開
現在、富士通は、環境省プロジェクト「革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業」の枠組みの中で、GaN on GaNの潜在能力を引き出した横型構造のGaN HEMTを開発。同時に、開発したGaN HEMTの携帯電話基地局用送信モジュールへの適用、および将来的な電源向け高性能GaN HEMTのサーバー用電源への適用を見据えて、GaN HEMTの優れた性能を引き出すための回路技術とシステム技術も開発している。
GaNデバイスには、HEMT構造の横型デバイスとFET構造の縦型デバイスの大きく2種類がある。このうち、前者は650V耐圧以下の応用に適用され、スマートフォン用急速充電器などの電力変換用パワーデバイス、もしくは携帯電話基地局などのパワーアンプ用の高周波デバイスとして、応用市場が急拡大している。一方、後者は1000V耐圧以上の応用への適用が想定されている、シリコンカーバイド(SiC)よりも高効率なデバイスとなることが期待され、電気自動車(EV)のインバーターなどへの応用が見込まれている。
ただし、縦型デバイスは、まだ商品化されていない。素子中の電流の通り道となる垂直方向全体をGaNで作る必要があり、その量産に不可欠な大口径で高品質なGaN基板を安価に供給する体制が構築されていないからだ。
縦型デバイス実現の必要条件となるGaN on GaNだが、応用分野は縦型デバイスだけに限定されるわけではない。大口径・高品質な基板の量産技術が確立され、利用を支えるエコシステムが確立されれば、横型デバイスの性能も底上げする可能性がある。中耐圧パワーデバイスや高周波デバイスを作成する基板として利用されていた、Si基板やSiC基板上に成長させた従来GaN薄膜よりも、電力効率、スイッチング性能、信頼性を向上させる際の阻害要因となる結晶欠陥がケタ違いに少ないからだ。
安価なGaN基板が潤沢かつ安定的に調達できれば、デバイスのさらなる性能向上に向けて、従来基板に代えて採用したいと考えるデバイス技術者は多い。
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GaN on GaN基板をGaN HEMTの作製に適用し、その効果を検証
既に富士通は、2020年時点で、2インチの半絶縁性GaN on GaNを用いて横型デバイスであるHEMT構造の高周波デバイスを形成して、デバイスレベルでの適用効果を検証(図1)。現時点で商用化されている高周波デバイス向けGaN HEMTよりも効率が高まり、世界最高効率に当たる82%を達成していた。
従来デバイスの量産に利用されているSiC基板上に形成したGaN結晶の欠陥密度は108/cm2レベルだが、その際の試作・検証に利用したGaN on GaNの欠陥密度は106/cm2以下と2ケタ小さかった。同社は、実現した高効率化は、こうした欠陥密度の低減によるものとみている。ただし、その時点では、どれぐらいの欠陥密度になるとどれぐらいの改善効果があるのか、定量的な知見が得られてはいなかった。
その後も同社は、素子構造と製造プロセスを最適化し、さらにより欠陥密度の低いGaN on GaN基板を適用する研究を継続させている。そして、既存の量産デバイスよりも電力損失を半減させた高効率デバイスの実現を目指している。
基地局用デバイスの動作条件を念頭に、素子構造とプロセスを最適化
現在、富士通は、携帯電話基地局で用いる送信モジュールの動作条件を想定してGaN HEMTの素子構造と製造プロセスを最適化している。
既に防衛や気象観測に用いられるレーダーのように短パルスを瞬間的に出力するような用途の高出力パワーアンプでは、GaNデバイスの利点が生かされている。しかし、携帯電話の基地局向け高出力パワーアンプでは、平均電力の低減効果は実現できるが、電力レベルの異なる信号を連続して増幅する必要があるような動作条件での効率を高めることが困難だった。
富士通は、想定した動作条件に適応可能な高性能で高効率なGaN HEMTを実現するため、送信する信号の歪(ひずみ)を生み出す要因である「ドリフト」と呼ぶ結晶欠陥に起因するオン電圧の変動位現象からの回復時間を検証した。ひずみの抑制が実現すれば、無線通信規格への準拠に向けたデジタルディストーションなどひずみを補正する回路の規模を小型化できる可能性がある。
さらに、デバイス動作時の温度上昇を抑制するためデバイスの裏面に炭素系高放熱材料を接合した。利用する材料の候補として、多結晶ダイヤモンド、SiC、グラファイトを想定し、実際にGaN HEMTに接合して動作検証した結果、すべての材料において、デバイス温度の上昇を抑制する効果が得られた。
GaN on GaN採用による効果を、システムレベルの性能向上につなげる
先述したように、富士通は、GaN on GaNを用いた高性能なGaN HEMTの適用を見据えた、携帯電話基地局用送信モジュールとサーバー用電源の高効率化技術も同時開発している。まだ、GaN on GaNを利用したGaN HEMTの開発が完了したわけではないが、その実現を見越して、将来デバイスの潜在能力を最大限まで引き出すための回路レベルやシステムレベルでの改善にも取り組んでいる。
携帯電話基地局用送信モジュールの開発では、GaN HEMTの高周波デバイス周りの回路を工夫することでサイズを従来比1/4に縮小し、同時に電力効率も向上させて電力消費の抑制や放熱機構の簡略化を目指した技術開発を推し進めている。現時点では、市販されているGaN on SiCを用いたGaN HEMTを利用し、回路レベルでの改善を進めている。2024年以降に基地局用送信モジュールに開発した省電力化技術を適用する予定である。
サーバー用電源の高効率化技術の開発では、出力容量2kWの電源ユニット中のパワー半導体の実装密度を高めるパッケージ技術と共に、サーバー内の電源ユニット稼働数の最適化をソフトウエア的に工夫するアダプティブ制御で、高い電力変換効率を維持する技術を開発している。ここでアダプティブ制御は、サーバー動作時の負荷電流変動に応じて、数百ミリ秒のオーダーで電源ユニットの稼働数を変えて、常に高効率な状態に制御するもの。現在は、市販されているGaN on Siを用いたGaN HEMTを使って技術開発を行っているが、今後、GaN on GaNを利用して作製したオン抵抗や入出力容量を低減したGaN HEMTが完成すれば、GaN on Siから置き換える考えである。
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