2024年2月9日金曜日

インフィニオンがSiC事業を拡大へ、新加工技術でコスト削減 根津 禎 日経クロステック 2024.02.08

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08845/


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根津 禎
 
日経クロステック
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インフィニオンはSiC事業の拡大を目指す。画像はマレーシア・クリムに建設する予定の新工場(出所:インフィニオンテクノロジーズ)
インフィニオンはSiC事業の拡大を目指す。画像はマレーシア・クリムに建設する予定の新工場(出所:インフィニオンテクノロジーズ)
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 パワー半導体最大手のドイツInfineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)が炭化ケイ素(SiC)の事業拡大へアクセルを踏んでいる。新工場を2024年後半から段階的に稼働させて、2030会計年度(2029年10月~2030年9月)にSiC事業の売上高を約70億ユーロ(約1兆1000億円)と、現在の10倍以上に増やすことを目指す。新たな加工技術を導入し、高価なSiCウエハーのコストを削減することで普及を促す。

SiCだけではなくGaNにも注力する(出所:日経クロステック)
SiCだけではなくGaNにも注力する(出所:日経クロステック)
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70億ユーロで200mmの新工場

 2024年1月開催の展示会「第1回パワーデバイス&モジュールEXPO」の併設セミナーに、インフィニオンテクノロジーズジャパン代表取締役社長の川崎郁也氏が登壇し、SiCや窒化ガリウム(GaN)に関する事業方針を説明した。

 SiCについては、市場拡大を見越して生産能力を増強する。同社の半導体生産拠点であるマレーシア・クリムに第3工場を新設する。新設は2段階で進め、2024年から順次稼働させる。SiCでは最大となる口径200mm(8インチ)のラインである。投資額は、計約70億ユーロを計画する。これまではオーストリア・フィラッハの工場でSiCを生産していたが、今後はクリムが主力拠点になる。

 SiC事業の経営目標は、前述の通り売上高が2030会計年度に約70億ユーロ、市場シェアは30%である。2023会計年度の売上高は約5億ユーロ(約800億円)だった。

今後はクリムの新工場がSiCの主要生産拠点になる。会計年度は前年10月から9月まで。2023会計年度は実績、他は目標(出所:インフィニオンテクノロジーズの資料を基に日経クロステックが作成)
今後はクリムの新工場がSiCの主要生産拠点になる。会計年度は前年10月から9月まで。2023会計年度は実績、他は目標(出所:インフィニオンテクノロジーズの資料を基に日経クロステックが作成)
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 自動車や再生可能エネルギーなどの旺盛な需要を背景に、SiC市場は急成長が期待されている。2022年から2028年にかけて、SiC市場の年平均成長率(CAGR)は約30%になるとインフィニオンは見ている。すでにSiCで約50億ユーロ(約8000億円)の新規案件を獲得し、このうち約10億ユーロ(約1600億円)の前払い金を受け取った。

 自動車分野の顧客は、中国の上海汽車集団や奇瑞汽車、米Ford Motor(フォード・モーター)など6社。そのうち3社が中国企業である。再生可能エネルギー分野では、イスラエルSolarEdge Technologies(ソーラーエッジ・テクノロジーズ)のほか、中国の大手3社から注文があるという。

SiCウエハーのコストを35%減

 インフィニオンはSiCパワー素子の増産に向けて、SiCウエハーの安定調達とコスト削減を図る。SiCウエハー、及び「ブール」と呼ばれるウエハーを切り出す前のSiC単結晶を、「世界各地の様々なサプライヤーと提携して確実に調達する」(川崎氏)方針だ。

 中国では、山東天岳先進科技(SICC)および北京天科合達半導体(タンケブルー)とそれぞれ調達契約を結んでいる。米国ではWolfspeed(ウルフスピード)やCoherent(コヒレント)、日本ではレゾナックと同様の契約を結んでいる。

 SiCのウエハーやブールまで手掛けるパワー半導体メーカーもあるが、インフィニオンは外部から調達する。「シリコン(Si)と同じくSiCも材料自体はコモディティー化する。素子やパッケージ、システム対応などで差異化する」(川崎氏)。

 SiCウエハーのコスト削減に向けて、新しい加工技術を導入する。SiCのブールからウエハーを切り出すときに、従来のワイヤによる切断では約50%が無駄になっており、SiCウエハーの高コストにつながっていた。

 そこでインフィニオンは、レーザーを利用した「コールドスプリット」技術の導入で、ウエハー切り出し時の無駄を20%に抑える。この結果、SiCウエハー当たりのコストを、従来比で約35%削減できるという。クリムの新工場に導入する予定だ。

GaNは24年に200mm量産

 クリムの新工場では、GaNパワー素子も量産する。インフィニオンは近年、GaNにも力を注いでいる。安価で口径の大きいSiウエハーでGaNパワー素子を製造している。口径150mm(6インチ)ウエハーで量産しており、2024年には200mmウエハーで量産を始めるという。口径が大きいほど生産性が高まり、コスト削減につながる。

 2023年10月には、カナダGaN Systems(GaNシステムズ)の買収を完了した。買収でGaNシステムズの車載品質の製品をラインアップに加える。

 買収によって生産拠点を分散して、供給網を強化する。インフィニオンは自社工場で生産しているが、GaNシステムズは台湾積体電路製造(TSMC)に委託している。

 SiCとGaNは、用途に応じて使い分ける戦略を採る。SiCは、電気自動車(EV)のインバーターや太陽光発電システム、電力インフラといった、高出力が求められる分野を狙う。GaNは、スマートフォンやノートPCの電源アダプター、自動車内の充電器(車載充電器)といった低・中出力で速いスイッチングが求められる分野に適用する。

 どの程度の電圧で利用できるかの指標となる「耐圧」で区分すると、インフィニオンはSiでは耐圧25~6500Vと広い範囲をカバーしている。それに対し、GaNは80~600V、SiCは650~3300Vの範囲ですみ分ける。

キーワード

SiC 炭素(C)とシリコン(Si)の化合物で、シリコンカーバイドや炭化ケイ素とも呼ばれる。Siに比べてパワー半導体として材料特性が優れる。インバーターのような電力変換器にSiCパワー素子を適用すると、Siに比べて電力損失を大幅に削減できる。Siパワー素子では動作が難しいセ氏200度以上の高温でも動作する。電力損失が小さい、高温動作が可能といった特徴から電力変換器を小型化しやすい。電気自動車や再生可能エネルギー、鉄道、産業機器といった高出力・高耐圧が求められる用途に向く。




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