https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08845/
70億ユーロで200mmの新工場
2024年1月開催の展示会「第1回パワーデバイス&モジュールEXPO」の併設セミナーに、インフィニオンテクノロジーズジャパン代表取締役社長の川崎郁也氏が登壇し、SiCや窒化ガリウム(GaN)に関する事業方針を説明した。
SiCについては、市場拡大を見越して生産能力を増強する。同社の半導体生産拠点であるマレーシア・クリムに第3工場を新設する。新設は2段階で進め、2024年から順次稼働させる。SiCでは最大となる口径200mm(8インチ)のラインである。投資額は、計約70億ユーロを計画する。これまではオーストリア・フィラッハの工場でSiCを生産していたが、今後はクリムが主力拠点になる。
SiC事業の経営目標は、前述の通り売上高が2030会計年度に約70億ユーロ、市場シェアは30%である。2023会計年度の売上高は約5億ユーロ(約800億円)だった。
自動車や再生可能エネルギーなどの旺盛な需要を背景に、SiC市場は急成長が期待されている。2022年から2028年にかけて、SiC市場の年平均成長率(CAGR)は約30%になるとインフィニオンは見ている。すでにSiCで約50億ユーロ(約8000億円)の新規案件を獲得し、このうち約10億ユーロ(約1600億円)の前払い金を受け取った。
自動車分野の顧客は、中国の上海汽車集団や奇瑞汽車、米Ford Motor(フォード・モーター)など6社。そのうち3社が中国企業である。再生可能エネルギー分野では、イスラエルSolarEdge Technologies(ソーラーエッジ・テクノロジーズ)のほか、中国の大手3社から注文があるという。
SiCウエハーのコストを35%減
インフィニオンはSiCパワー素子の増産に向けて、SiCウエハーの安定調達とコスト削減を図る。SiCウエハー、及び「ブール」と呼ばれるウエハーを切り出す前のSiC単結晶を、「世界各地の様々なサプライヤーと提携して確実に調達する」(川崎氏)方針だ。
中国では、山東天岳先進科技(SICC)および北京天科合達半導体(タンケブルー)とそれぞれ調達契約を結んでいる。米国ではWolfspeed(ウルフスピード)やCoherent(コヒレント)、日本ではレゾナックと同様の契約を結んでいる。
SiCのウエハーやブールまで手掛けるパワー半導体メーカーもあるが、インフィニオンは外部から調達する。「シリコン(Si)と同じくSiCも材料自体はコモディティー化する。素子やパッケージ、システム対応などで差異化する」(川崎氏)。
SiCウエハーのコスト削減に向けて、新しい加工技術を導入する。SiCのブールからウエハーを切り出すときに、従来のワイヤによる切断では約50%が無駄になっており、SiCウエハーの高コストにつながっていた。
そこでインフィニオンは、レーザーを利用した「コールドスプリット」技術の導入で、ウエハー切り出し時の無駄を20%に抑える。この結果、SiCウエハー当たりのコストを、従来比で約35%削減できるという。クリムの新工場に導入する予定だ。
GaNは24年に200mm量産
クリムの新工場では、GaNパワー素子も量産する。インフィニオンは近年、GaNにも力を注いでいる。安価で口径の大きいSiウエハーでGaNパワー素子を製造している。口径150mm(6インチ)ウエハーで量産しており、2024年には200mmウエハーで量産を始めるという。口径が大きいほど生産性が高まり、コスト削減につながる。
2023年10月には、カナダGaN Systems(GaNシステムズ)の買収を完了した。買収でGaNシステムズの車載品質の製品をラインアップに加える。
買収によって生産拠点を分散して、供給網を強化する。インフィニオンは自社工場で生産しているが、GaNシステムズは台湾積体電路製造(TSMC)に委託している。
SiCとGaNは、用途に応じて使い分ける戦略を採る。SiCは、電気自動車(EV)のインバーターや太陽光発電システム、電力インフラといった、高出力が求められる分野を狙う。GaNは、スマートフォンやノートPCの電源アダプター、自動車内の充電器(車載充電器)といった低・中出力で速いスイッチングが求められる分野に適用する。
どの程度の電圧で利用できるかの指標となる「耐圧」で区分すると、インフィニオンはSiでは耐圧25~6500Vと広い範囲をカバーしている。それに対し、GaNは80~600V、SiCは650~3300Vの範囲ですみ分ける。
0 コメント:
コメントを投稿