「人間50年〜」と謡ったのは織田信長ですが、私たちは今や人生100年時代に突入しようとしています。
これは動物界でもトップクラスの長さになりますが、それでも私たちがまったく敵わない動物がいます。
「ニシオンデンザメ」です。
彼らの寿命は平均でも250年、最長だと512歳の個体が見つかっています。
512歳だと生まれは1500年の初めになりますから、1534年生まれの信長より年上なわけです。
「どうしてニシオンデンザメはそんなに長生きできるのか?」これは生物学者にとっての大きな謎でした。
そんな中、英マンチェスター大学(UoM)がその長寿の秘密の一端をついに解明したと報告。
それによると、ニシオンデンザメは代謝が年齢でほぼ変化しておらず真に不老の状態にあったようです。
この研究は2024年7月2日から5日にかけてプラハで開催された生物学会『Society of Experimental Biology Conference』で報告されています。
目次
ニシオンデンザメ(学名: Somniosus microcephalus)は北大西洋の全域に生息するサメの一種です。
英語名の「グリーンランドシャーク」が示すように、北大西洋と北極海の間にあるグリーンランド近海にも分布しています。
最大全長は約7.3メートルに達し、経年の劣化を感じる岩のような体色と濁った瞳は、まるでゾンビを見ているようです。
いかにも見た目から「長生きしてそうだなぁ〜」という感じが伝わります。
実際は全生物中でも極端な長生きで、平均寿命は少なくとも250歳であり、これまでに確認された最長寿のニシオンデンザメは、2016年に見つかった体長5.4メートルの個体で推定512歳に達していたという。
512歳というと生まれは1500年代の初めですから、日本はまだ室町時代(!)です。
日本で最も有名な武将の一人である織田信長が1534年生まれですから、彼より前に生まれたサメが今なお現役で生きていることになります。
これは現時点で、世界一長生きできる脊椎動物の最高記録となっています。
では、ニシオンデンザメはなぜそれほどまでに長生きできるのでしょうか?
研究者たちはまだ、その確かな答えを見つけられてはいません。
従来の仮説では、ニシオンデンザメが暮らす「超低温環境」と「あまり体を動かさないライフスタイル」が関係しているのではないかと考えられてきました。
しかし新たに発表された研究によると、ニシオンデンザメの長寿は「加齢によって変化しない代謝活動」に秘密があったようです。
【ガチ不老】信長より前から生きてるニシオンデンザメ(512歳)は老化していなかった (2/2)
大石航樹Koki Oishi
公開日 2024/7/20(土)
ニシオンデンザメの長寿の秘密を発見!
代謝(metabolism)とは、あらゆる生物が生きていく上で絶対に欠かせない体の働きです。
具体的には生命活動に必要なエネルギーを作ったり、細胞の成長や修復などを担う一連の化学反応を指します。
そしてほとんどの生物において、代謝速度は年齢とともに低下していくものです。
これにより、エネルギー生産の低下、細胞の修復の遅延、および細胞を傷つける恐れのある有害物質を除去する能力の低下が起こります。
つまり、代謝速度の低下は「老化」の一側面でもあるわけです。
しかし、ニシオンデンザメのように500年も生きられるなら、加齢にともなう代謝速度の変化が起きていない可能性があります。
そこで英マンチェスター大学の研究チームは、グリーンランド沖にあるディスコ島付近で捕獲したニシオンデンザメ23匹から筋肉の組織サンプルを採取し、年齢ごとの代謝レベルを調べてみました。
対象となったサメの年齢は60〜200歳の範囲であることがわかっています。
そしてチームは、筋肉の代謝活動に関わっている5種類の酵素を特定し、年齢や水温によってどんな変化が見られるかを測定しました。
その結果、驚くべきことにニシオンデンザメの代謝レベルは加齢によってほとんど変化していないことが明らかになったのです。
60歳でも200歳でも代謝速度に変わりはなく、同じレベルで活動を続けていたのです。
つまりニシオンデンザメは年を取っても代謝速度が落ちることなく、私たちが経験するような老化反応を起こしていないことが示されました。
研究主任のユアン・カンプリソン(Ewan Camplisson)氏は「何歳になっても代謝が安定していることは、他の動物のように老化しないことを意味しており、それが彼らの長寿の理由の一つと考えられる」と話しています。
水温が上がると代謝が活発に
その一方で、ニシオンデンザメの代謝に関わる酵素は、水温が高くなることで大きく活性化することも示されました。
カンプリソン氏はこれを受けて「暖かい環境で代謝活動が活発になるということは、ニシオンデンザメが暖かい環境に追いやられた場合、代謝が大幅に増加し、ライフスタイルが変化する可能性が高い」と指摘します。
要するに、ニシオンデンザメは温暖化による海水温上昇の影響をもろに受けてしまう恐れがあるのです。
これまでの調査で、地球の海水温は2100年までに平均2〜4度も上昇することが予想されています。
それに加えて、ニシオンデンザメが生息している北極海域は、世界の海の3倍のスピードで水温上昇を起こしているのです。
不老長寿のニシオンデンザメも温暖化によって早死にするようになる危険性が懸念されます。
そうした最悪のシナリオを阻止するためにも、カンプリソン氏はニシオンデンザメの長寿の仕組みをより詳しく明らかにし、保護活動に役立てたいと考えています。
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