(1/2 ページ)
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、高いエネルギー変換効率(PCE)を保ちながら、伸縮性を向上させた「有機太陽電池」を開発した。環境エネルギー電源として、ウェアラブルデバイスやe-テキスタイルなどの用途に向ける。
ウェアラブルデバイスなどに適した環境エネルギー電源
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発ソフトシステム研究チームの福田憲二郎専任研究員や染谷隆夫チームリーダーらによる国際共同研究グループは2024年6月、高いエネルギー変換効率(PCE)を保ちながら、伸縮性を向上させた「有機太陽電池」を開発したと発表した。環境エネルギー電源として、ウェアラブルデバイスやe-テキスタイルなどの用途に向ける。
有機太陽電池は、基板上に「透明電極」と「上部電極」があり、その間に「発電層」や「正孔輸送層」「電子輸送層」を積層している。このなかで、透明電極だけは透明性、導電性、伸縮性の全てを満たす材料がこれまでなかったという。
研究グループは今回、厚みが10μmのポリウレタン基板上に透明電極、正孔輸送層、発電層、上部電極を積層した伸縮性有機太陽電池を試作した。透明電極は、「ION E(4-(3-エチル-1-イミダゾリオ)-1-ブタンスルホン酸)」を添加した導電性高分子材料「PEDOT:PSS」を、塗布成膜手法によってポリウレタン基板上に形成した。
ION Eの添加量が異なる透明電極について、その特性を調べた。5mg/mLのION Eを添加した透明電極は、80%の引張ひずみで抵抗は初期値の2倍未満となった。ION Eを含まない透明電極は、40%の引張ひずみで抵抗が初期値の122倍となった。これにより、ION Eを添加した透明電極は、引張ひずみが増加しても抵抗の増加を抑えられることが分かった。
また、透明電極の亀裂発生ひずみ(COS)値は、ION E濃度の増加に伴って増えることを確認した。具体的には、ION Eの添加量が2mg/mLで50%、5mg/mLで120%、10mg/mLで150%となった。
ポリウレタン基板と透明電極の界面における特性も評価した。ION E添加なしとION Eを5mg/mL添加した透明電極について、2次元接着力を測定した。ION Eを含む導電性PEDOT:PSSの接着力は5.66nNであった。これに対し、ION Eを含まない導電性PEDOT:PSSの接着力は1.15nNとかなり低かった。
「力-変位曲線」から界面接着力を調べた。これにより、ION Eを含むサンプル品に適用された力が、ION Eを含まないサンプル品に適用された力の2倍以上であることが分かった。
導電性PEDOT:PSSからなる透明電極とポリウレタン基板の界面における特性評価[クリックで拡大] 出所:理研
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、高いエネルギー変換効率(PCE)を保ちながら、伸縮性を向上させた「有機太陽電池」を開発した。環境エネルギー電源として、ウェアラブルデバイスやe-テキスタイルなどの用途に向ける。
発電層の伸縮性を向上させた工夫
今回は、発電層の伸縮性を向上させる工夫も行った。二つの高効率ドナー材料である「PM6」と「D18」を混ぜて、ランダム三元共重合ポリマードナーの「Ter-D18」を合成し、低分子アクセプター材料の「Y6」と混合して「Ter-D18:Y6」を作製した。
Ter-D18:Y6からなる発電層や透明電極、ポリウレタン基板などで構成される複合フィルムは、PM6:Y6からなる発電層を採用した他の複合フィルムに比べ、発電層の機械的特性が改善されていることを確認した。これらの実験結果から、ION Eを含む伸縮性の高い透明電極は、発電層内の引張ひずみを効果的に非局在化し、再分散することで亀裂の発生と伝播を遅らせるため、伸縮性有機太陽電池全体の機械的完全性が保証されることを実証した。
研究グループは、開発した複合フィルムに液体金属共晶ガリウム-インジウム(EGaIn)の上部電極を設け、電子輸送層フリーの有機太陽電池を作製した。この太陽電池は、伸長前に短絡電流密度(JSC)が25.18mA/cm2、開放電圧(VOC)が0.84V、曲線因子(FF)が0.67、PCEが14.18%という高い初期性能であった。次に、有機太陽電池を伸長ステージに取り付けて伸縮性を調べた。この結果、52%の引張ひずみで初期PCEの80%を維持できたという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
0 コメント:
コメントを投稿