今回開発した技術を用いた汎用多層基板の写真(4層貫通基板)

 エレファンテックは17日、インクジェット印刷技術により銅の使用量を大幅に削減する基板「SustainaCircuits」の多層基板対応化を実現したと発表した。基板市場の8割をカバーでき、銅の使用量を70%削減できるという。2025年前半には試作提供を開始する。

 同社のSustainaCircuitsは、基板上に特殊なプライマーを印刷し、銅めっきを施すだけで基板を製造可能にする技術。下地形成、電解銅めっき、ドライフィルムラミネート、露光、現像、エッチング、剥離が必要な既存の基板製法と比較して、製造プロセスを大幅に削減しつつ、銅の使用量を70~80%削減できるのが特徴。

 ところが、従来のSustainaCircuitsは、平滑な表面に印刷して高い密着性を得る必要があるため、片面フレキシブル基板(フィルム基板)のみに対応し、面積ベースで言うと市場の2%しか占めていなかった。同技術は密着性実現という観点では不利であり、これまで十分な密着性が実現できていなかったため、一般的な“基板”には適用できなかった。

既存の基板製法とSustainaCircuitsの基板製法の違い。ただしSustaina Circuitsではこれまで2層基板しか対応できなかった
4層基板の製法
断面構造
4層基板の断面
汎用基板の対応

 今回同社は、汎用多層基板に用いられるFR-4(ガラスエポキシ基材)を含む多くの硬質基材(リジッド基材)と密着するプライマーと同ナノ粒子インクを開発。特に、従来困難であった高温耐性も高く、150℃/240時間の試験後に1N/mm以上の密着性を実現。リジット基板として活用可能な水準に到達した。

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 また、ビア内にインクを塗布する技術およびプライマーの改良により、多層板/ビアを形成できるようになった。さらに、プライマーとインクの組み合わせ改良と印刷機の精度改良により、L/S=50/50μmでの配線形成が可能となり、従来のL/S=100/100μmから大幅に向上した。

8層基板の断面
L/S=50/50μmでの描画比較

 微細化においては、プライマー表面でインクが濡れ広がらない必要があるが、インクが濡れ広がらず弾くようなプライマーでは、描画や密着が難しいという課題があったという。今回新開発のプライマーでは描画性と密着性を担保しつつ、濡れ広がりを最大限抑制することに成功したとしている。

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 加えて、100μm級の銅膜厚の基板も製造可能となった。これまでプリンタブル・エレクトロニクスの世界では、10μm程度の銅膜厚での対応に留まっていたため、流せる電流量に制限があることが普及における大きな課題であったというが、銅膜厚の増加により信号だけでなくパワーエレクトロニクスにも利用できるとした。

100μm超の厚みを持つ配線

 銅価格が上昇する中、本製法が用いる必要な部分にだけめっきで銅を形成する工程の経済合理性は、銅の厚みが増えるほど高まるという。パターン形状にも依存するが、典型的には70%程度の銅使用量の削減を実現できるといい、グローバルで1兆円規模の銅由来コスト削減ポテンシャルがあると試算している。

銅の削減

 同社によれば、従来の汎用多層基板製造工場に対して印刷装置を導入すれば、印刷工程以外は既存の製造設備を用いて量産できるという。供給体制については自社製造にこだわらず、パートナーへの装置/材料提供を含めた形で構築していくとしている。