https://forbesjapan.com/articles/detail/75847
https://forbesjapan.com/articles/detail/75847
記事を保存
この2年間、IBM、グーグル、マイクロソフト、インテルなど各社が主催する教育セミナーや個別説明会を通じて、この技術に関する理解を深めてきた。その過程で、量子コンピューティングがヘルスケアや金融、科学研究などあらゆる分野を一変させる可能性を秘めていること、そしてそれが今後のコンピューティング分野でどのような役割を果たし得るかが、より明確になった。ただし、これまで量子コンピューティングが主流になれなかったのは、大規模化によって生じるエラーや実用性の確保といった深刻な課題が立ちはだかっていたためだ。
米国時間12月9日に、グーグルが最新の量子プロセッサ「Willow(ウィロー)」を発表したことは、この分野における大きな飛躍を示している。そのスペックや機能から判断するに、Willowは量子コンピューティングを単なる技術的好奇心の対象から、実用的なツールへと押し上げる可能性を持つブレークスルーだ。
Willowの計算能力は驚異的だ。ある複雑な計算問題において、Willowは5分未満で解を出せる。その同じ問題を、現行最速の従来型スーパーコンピュータで処理すると、約10セプティリオン年(セプティリオンは1の後に0が24個続く数)かかるとされる。この圧倒的な性能は、量子技術が秘める潜在力を雄弁に物語っている。だがWillowが真に注目すべき点は、この分野最大の課題であるエラー率への本格的な取り組みにある。
過去30年近く、量子コンピューティングを阻んできた根本的な障壁はその信頼性だった。量子ビット(キュービット)を増やせば増やすほど、エラーが増える傾向が続いてきたのだ。ところがWillowは、キュービットを増やしてもエラー率を指数関数的に減らせる設計を示している。単にキュービット数を増やすのではなく、より安定したキュービットを提供することで、量子コンピュータが実世界の問題に本格的に対応するために欠かせない「信頼性」への道筋を示したわけである。
2019年、グーグルは「量子超越性(Quantum Supremacy)」を達成したと主張し、世間からは懐疑的な見方もあった。「量子超越性」とは、古典的コンピュータでは事実上処理不可能、あるいは実用的な時間内での計算が不可能な課題を、量子コンピュータが実行できる段階を指す。Willowは、こうした量子超越性を商業的有用性の領域へと近づける重要な一歩といえる。
Willowの技術は極めて高度である。チップ上のキュービット数は105個で、従来の「Sycamore(シカモア)」チップのおよそ2倍に達する。しかし、単なる量的拡大ではなく、Willowではキュービットの質が飛躍的に改善されている。具体的には、キュービットの情報保持特性(T1時間と呼ばれる)が約5倍に向上し、より長い時間、正確な状態を維持可能になった。これは量子計算の安定性と精度向上に不可欠な要素である。
グーグルがWillowで重視する拡張性とフォールトトレランス(耐障害性)は、量子コンピューティング全体のビジョンとも合致している。Willowは、より大規模でエラー耐性の高い量子コンピュータ構築への有望なプロトタイプであり、将来的には、古典的コンピュータでは手に負えない問題を真正面から解決できる、はるかに強力な量子エコシステムを生み出す土台になる可能性がある。
とはいえ、現時点ではこの技術はまだ発展途上であり、広範な実用化には数年を要するだろう。筆者が参加してきた教育セッションや会合でも、業界リーダーたちは「2020年代の後半以降に量子コンピューティングは大きなインパクトを及ぼす」と予測していた。しかしWillowがその潜在能力を証明できれば、そうしたタイムラインは大幅に早まるかもしれない。
Willowが短期的な期待に応えれば、量子コンピューティングの衝撃は、これまで多くの人々が想定していたよりもはるかに早く現実のものとなる可能性がある。それは、量子コンピューティングが単なる理論的可能性に留まらず、商業的に有用な計算手段として日の目を見る未来へ、一歩近づいたことを意味する。
(forbes.com 原文)
0 コメント:
コメントを投稿