https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03120/032600007/
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NTTグループが電気回路と光回路を統合する光電融合で、新たな技術「メンブレン(薄膜)フォトニクス」の導入を2028年度(3月期)から始める。レーザーや光変調器に応用し、従来の5分の1程度の小型化や、低消費電力化を実現する。同技術を使った大手ファウンドリー(半導体製造受託企業)との協業も視野に入れる。
光源や変調器を薄膜に
メンブレンフォトニクスはシリコン(Si)基板上に形成した0.2~0.4μm程度の薄い膜にレーザーや光変調器を形成する技術だ。NTTグループ内だけでなくグローバル企業のデータセンターへの展開を狙う。NTTグループのNTTイノベーティブデバイスと、協業する古河電気工業とNTTグループ企業の合弁子会社である古河ファイテルオプティカルデバイスの主に2拠点で製造する。量産では外部のメーカーへの委託も選択肢とする。
大手半導体メーカーを中心に、光電融合技術の製品化は急速に進む。生成AI(人工知能)ブームによってデータセンターの需要が高まる中、同技術によって消費電力の低減や高速通信を実現できる可能性があるからだ。日本では光電融合のエンドユーザーが限られる中、けん引役と言えるのがNTTグループである。光通信技術を用いる次世代ネットワーク構想「IOWN(アイオン)」の中核技術として、2032年以降に既存の電気配線と比べて消費電力を100分の1にする計画を立てる。
NTTグループがメンブレンフォトニクスの適用先として見据えるのが、光I/Oである。現在、半導体パッケージ間の伝送を光化するCo-Packaged Optics(CPO)の実用化が進みつつあるが、光I/Oではパッケージ内のIC(集積回路)チップ間の伝送までを光化する。NTTグループは29年3月末までに光I/O製品を開発する計画である。
NTTグループが手がけるような光I/Oの光学エンジンは「指先に乗るサイズまで一気に小型化する」とNTTのデバイスイノベーションセンタ長を務める才田隆志氏は話す。
メンブレンフォトニクスが光I/Oに適しているのは、変調器とレーザー、そして導波路を一体的に形成できるために小さくできるからだ。従来は、これらを別々に用意し組み合わせる場合が多かった。メンブレンフォトニクスを使ったレーザーや光変調器の長さは約100μmで、従来の5分の1の小型化を実現する。なお、メンブレンフォトニクス自体は、東京科学大学が基礎となる技術を開発したもので、NTTはこれを光I/Oの実現に向ける。
異種材料集積が難しい
メンブレンフォトニクスを使った光I/Oの基礎技術の開発は既に完了しているが、今後は製造の難しさと熱対策が課題になる。
製造では、欠陥が出やすい異種材料の積層が必要なため、信頼性の検討が欠かせない。NTTグループが主導する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「光チップレット実装技術の研究開発」プロジェクトでは、古河電工がメンブレンフォトニクスの共同研究を進める1社だ。古河電工には、NTTの開発するメンブレンフォトニクスに対し、信頼性を高める構造を提案する役割が求められている。「異種材料で放熱性や信頼性を高めるのが難しい」と古河電工シニア・フェローで次世代フォトニクス事業創造プロジェクトチーム副チーム長を務める大橋弘美氏は語る。
メンブレンフォトニクスの異種材料集積では、インジウムリン(InP)とSiという異なる材料の接合が必要になる。具体的には、ウエハー同士を貼り合わせるとともに、InPの結晶成長で埋める工程がある。「InPの結晶成長が十分でないと欠陥が出やすい。Siデバイスの基本的な製造方法とは異なる」と大橋氏は説明する。
そこで古河電工は、以前から手がけるInPを使った半導体レーザーの技術などを生かし、信頼性を高めることを狙う。結晶成長時のゆがみや欠陥に対して「知見がある」(大橋氏)とし、こうした課題解消による性能や将来的な歩留まり(良品率)の向上につなげたい考えだ。
熱対策の検討も不可欠
光I/OではCPOでも課題となっている熱対策が、さらに困難を極めそうだ。CPOでは、レーザーの熱による熱応力やゆがみ、不具合の発生を防ぐためにパッケージ内にはレーザーを置かず、外部光源(ELS:External Light Source)を使う方式が主流になっている。一方、光I/OでELSを使うと消費電力低減の利点が得られにくい。「(光I/Oのような光電融合技術で)レーザーをELSにした場合、内蔵と比較して消費電力が2倍程度になる。信頼性や生産性の課題はあるが、ELSを使えば従来の電気配線と置き換える利点が少なくなってしまう」。こう述べるのは、NTTでメンブレンフォトニクスを開発してきた先端集積デバイス研究所フェローの松尾慎治氏だ。
メンブレンレーザーの熱対策では、レーザーの下部に配置する二酸化ケイ素(SiO2)層が特に問題になる。SiO2は熱伝導率が低いために放熱しにくいからだ。この際の放熱は異種材料集積と関連する要素が大きく、SiO2上部に置くInPの結晶再成長の精度が関わる。「日本メーカーは(InPのような)化合物半導体の再成長や切り出しが得意だ」(NTTの才田氏)とし、古河電工のような企業との協業などにより放熱性を高めて課題解消に向ける。
前出のNEDOの光チップレット実装技術の研究開発プロジェクトでも、熱対策の問題に取り組む。同プロジェクトに参画するNTTデバイスクロステクノロジは、光I/Oのチップ全体を含めた熱設計を担当し、全体最適化により熱を効率的に逃がせる構造の開発を模索している。
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