2025年4月7日月曜日

病院食を比較すると文化の違いも見えてきた! 世界で入院するともっとも美味しい病院食がでてくるのはどの国? 2025.4.7

https://courrier.jp/news/archives/387846/?utm_source=daily+item+free+announce&utm_medium=email&utm_content=post-387846&utm_campaign=2025-04-07-15236&courrier_mail_session_id=15236

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ドイツのドレスデンにある病院で支給されたランチ Photo by Sebastian Kahnert/picture alliance via Getty Images

ドイツのドレスデンにある病院で支給されたランチ Photo by Sebastian Kahnert/picture alliance via Getty Images

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ガーディアン(英国)

ガーディアン(英国)

Text by Caroline Kimeu, Kitty Drake, Stephen Burgen, Justin McCurry, Miranda Bryant, Natasha May, Tiago Rogero, Clarissa Wei and Alessandra Maggiorani

スウェーデンや英国、日本などの北半球でも、ケニアやブラジルなどの南半球でも、入院患者は何よりも栄養価の高い食事を必要としている。では、患者にもっとも喜ばれる病院食を提供しているのはどの国だろうか。英紙の各国の特派員が、それぞれの国の事情を伝えている。

台湾


2023年に台湾の病院で息子を出産後、私は人生最高の一食とも言える食事を堪能した。五香粉を使った豆腐の蒸し煮、シイタケ、蒸したカリフラワーと角切りニンジン、ショウガを使ったホウレン草のソテーだ。水分をたっぷり補給できるよう、お粥、黒豆とゴマのスープ、大根が入った野菜のだし汁もついていた。

台湾のアドベンチストホスピタルの病院食 Photo by Adventist Hospital


緊急帝王切開の直後で、まだ麻酔から覚めきれずにぼんやりしていた。でも、ひどくお腹が空いていて、目の前に並んだ食事をむさぼるように平らげた。何日もまともな食べ物を口にしていなかったのだから。

いま思えば、味わいに欠けて味も薄かったが、台湾の病院食はそれが普通だ。香辛料や砂糖、塩は腸に刺激を与えるため、控えめがよしとされている。しかし、出された食事は、大手術を終えたばかりの私がまさに必要としていたものだった。

肉類がいっさい含まれていないことにすら気がつかなかった。入院していたのは、台北にあるキリスト教系の私立台湾アドベンチストホスピタル。ここでは、脂質、塩分、糖分が少なめのベジタリアン食が供される。

台湾ではどの病院でも、食感、色、材料、風味が多彩な食事が提供される。アドベンチストホスピタルの主任栄養士リン・スーチーは、「栄養バランスの取れた食事を心がけています」と話す。

色鮮やかな病院食

色鮮やかな病院食 Photo by Adventist Hospital


食事の内容は患者の病状によって異なる。中国式食養生の原則に従い、私の場合は回復を妨げる果物や生野菜などの冷たい食材を避け、代わりにスクランブルエッグなどの柔らかくて温かい食事だった。

「欧米ではパンや乳製品が多いのかもしれませんが、アジアではお米と温かい食事が好まれます」とリンは説明する。「調理法も異なり、アジアでは蒸したり茹でたり炒めたりします」

3日間の入院中、私は毎食残さずきれいに平らげた。特段においしかったのはもちろんのこと、10ヵ月という妊娠期を経て、私の身体が栄養を欲していたからだ。このときは、食事は自分のためだけのものだった。


ケニア


ケニアの病院食は、国内の一般的な家庭料理とほとんど同じだ。パンかポリッジ(オートミールを牛乳で煮込んだもの)に紅茶という定番の朝食から、ウガリ(白いトウモロコシの粉を水と混ぜて練り上げた主食)と炒めた葉物野菜にビーフシチューまで、どれも多くの人にとっておなじみの心温まる献立だ。

とはいえ、公立病院は経費削減を迫られており、おいしい病院食を患者に提供することの優先順位は低い。朝食はダマのあるポリッジと薄い紅茶だが、患者にとっては何よりも楽しみな食事だ。昼食、夕食と、順を追ってだんだんつまらない内容になっていくからである。

昼食と夕食は、ケニアの公立全寮制学校での日々が蘇ってくるようなメニューだ。大量に調理しやすく安価なお米やキャベツ、豆などが、場合によっては金属製仕切り皿に載せられて出てくる。

ケニアで給食の豆を食べる小学生

ケニアで給食の豆を食べる小学生 Photo by Wendy Stone/Corbis via Getty Images


小児科病棟や、民間団体が運営する私立病院などでは、きれいに盛り付けられてもっとおいしそうな食事が出されるし、たいていはメロンなどの果物が添えられている。それに比べ、公立病院の食事は単調で、食欲をそそるとは言い難い。

野菜はくたくたで、ウガリは粒が混ざっていて舌触りが悪く、肉はほとんど入っていない。食事に不満な患者は、食堂に行ってセットの軽食やティータイムの定番マンダジ(揚げパン)を食べる人もいる。

ケニアの主食ウガリ Photo by: Godong/Universal Images Group via Getty Images


病院の栄養士に言わせれば、意図的に淡白なメニューにしている。脂質が低く、砂糖と油を控えた献立のほうが、患者の幅広いニーズに応じられるからだ。病院従業員は患者向けの食事には手を出さず、近くの飲食店に食べに行く人が多い。

家族が差し入れる手作りのものしか食べない患者もいる。「夫が私の大好物チャパティ(小麦粉を水やサラダ油でこね、薄く伸ばして焼いたもの)を持ってきてくれるんです」と話すのは、産科に入院中のウィンフレッド・ムビテ(28)だ。

家族が差し入れてくれる食事は、産後の身体をいたわり、生まれたばかりの赤ちゃんの世話するためのエネルギー源だという。「食事の時間が一番の楽しみです」


英国


「病院食とはどんなものか」と尋ねれば、英国人はきっと、電子レンジ対応プラスチック容器に入った茶色い食事を思い浮かべるはずだ。英国にある複数の病院で2019年、腐ったサンドイッチを食べた患者7人が死亡し、英国の病院食が劣悪だという悪評は決定的なものとなった。

食中毒が発生するのは稀だとはいえ、SNSでは年に数回、いかにもまずそうな病院食の写真が話題になる。2024年2月には、グラスゴーの病院で男性患者に出された七面鳥のスライスと小さなジャガイモ4切れだけの昼食の写真が投稿され、あまりにもひどいと騒ぎになり、国民保健サービス(NHS)の地元機関は謝罪に追い込まれた。

英国病院内で振るまわれた食事

英国病院内で振るまわれた食事 Photo by Jeremy Selwyn – WPA Pool/Getty Images


筆者は2024年8月、ロンドン南部の聖トーマス病院を訪れた。より食欲をそそる手作りの食事を患者に提供するべく取り組んでいる病院だ。

英国にある病院の大半は、調理済みの冷凍食を大量購入し、温めて提供している。しかし、聖トーマス病院では病院内で専門調理師が食事を用意しており、その数は1日2933食だ。

NHSイングランドの現場管理責任者フィリップ・シェリーの案内で同病院の厨房を訪れたところ、何もかもが大がかりだった。浴槽のような巨大な鍋では、スパゲッティ用のミートソースがぐつぐつと煮えていた。長さ60センチくらいの泡だて器で、大きな容器に入ったホワイトソースをかき混ぜる調理師も見かけた。

毎週金曜はフィッシュ・アンド・チップスの日だ。味見させてもらったところ、ホッとする味だったが、栄養豊富とは言い難い。施設内で手作りされているとはいっても、3日前に調理して、プラスチック容器に入れて密封し、冷凍されている。(医療費が無料の)NHS利用患者の食事はすべてまとめて事前に調理し、食事関連の日常業務の効率化を図っているそうだ。

これに対し、有料の入院患者には施設内で手作りされた食事が提供されている。厨房を案内してもらっているとき、調理師が有料患者のためにスモークサーモンとメロンが載った皿を並べている姿を見かけた。扱いは実に対照的だ。

英国の病院では、NHSを利用する無料の入院患者に新鮮な食材をその場で調理した食事が提供されることはほとんどない。英国で唯一、各病棟に調理師がいるのがリバプールにあるアルダーヘイ小児病院だ。

イングランド郊外の病院で支給されたランチ

イングランド郊外の病院で支給されたランチ Photo by Hannah McKay – Pool/Getty Images


入院中の子供たちは、パンケーキや、フェタチーズとトマトのパスタなどを注文し、出来立てをすぐに食べられる。英国の全病院にアルダーヘイ小児病院と同じシステムを導入することをシェリーは目指しているが、実現には10年ほどかかるという。

英国の病院食を巡る現状については、食事に重きを置かない文化であることに一因がある。「英国で人々がいつも口にしている食事は、スペインやフランスと比べると質がぐっと下がります」

ただ、質のいい新鮮な食材を使って手作りするのはコストがかかって贅沢かと思いきや、皮肉にも、病院食を改善すればNHSにかかるコストが削減できる可能性がある。病院内で調理したほうが、ケータリング会社から調理済みミールを購入するより安く済むのだ(ケータリング会社から購入する場合はNHS負担額が2ポンド10セント)。

まずすぎて食事が廃棄されれば、納税者のお金を無駄にすることにもなる。2023年に食べ残しで廃棄されたNHS患者向け食事は3600トンにのぼった。病院食がおいしくなれば、捨てられる量も減るはずだ。


スペイン


ジェルマン・トリアス・イ・プジョル病院は、バルセロナ北部の衛星都市バダロナにある巨大な複合医療施設だ。ここでは、施設内で1日1500もの病院食が用意されている。調理業務を担っているのは契約先のケータリング会社で、指揮するのは運営責任者ヨランダ・フェルナンデスと栄養士エリザベス・ロレンスだ。

提供されるメニューは1日40種類で、患者の病状と宗教に応じた内容となっている(バルセロナはスペイン屈指の多文化都市)。もちろん、アレルギーや食物不耐症にも対応している。

「当病院には2つの役割があります」とフェルナンデスは話す。「回復支援と食生活改善の指導です。とはいえ、平均入院日数はわずか7日間なので、できることは限られています」

同病院の食事は地中海式ダイエットがベースで、地元の祭事には特別な料理も提供される。朝食は通常、全粒小麦のパン、ヨーグルト、ハム、チーズ、果物で、オムレツやシリアル、ブリオッシュがつく。

ジェルマン・トリアス・イ・プジョル病院がミシュランシェフとコラボした食事 Photo by Germans Trias i Pujol hospital


昼食と夕食はスリーコースだ。昼食は、スープ、サラダ、パスタからひとつ、米料理をひとつ、メインとして野菜のグーラッシュ、ローストチキン、マグロのエスカベシュ(マグロのから揚げの酢漬け)かミートボールから選べる。スペインの食の風習に従って、木曜日はパエリアか米料理、金曜日は魚料理だ。

夕食は、前菜がインゲン豆とポテトサラダ、松の実とレーズン入りホウレン草ソテー、ジャガイモのオムレツ、マッシュルームスープのどれかをひとつ。メインコースは、お米のアーモンドクリーム煮が添えられたサーモン、メルルーサ(タラの一種)とピストゥ(ラタトゥイユ風の夏野菜煮込み)、玉ねぎとインゲン豆が添えられたソーセージ、ハンバーガー、チーズとレーズンで味付けしたチキンなどから選ぶ。デザートはたいてい、果物かヨーグルトだ。

いかにもおいしそうだが、スペイン人は食べ物にとにかくうるさい。500食を大量調理したメニューで満足させるのは簡単ではないのだ。


日本


神戸赤十字病院では、立派なレストランのメニューと比べても遜色ない夕食が提供される。目玉は、鶏肉やキノコ、揚げた細切り人参、木の芽、グリーンピースが入った炊き込みご飯だ。おかずは、大根おろし付きの焼き魚、がんもとオクラ、ニンジンの煮物、ホウレン草としめじの和え物で、冷たい麦茶と、バター不使用の小豆入り抹茶パウンドケーキが一切れついている。

栄養課長のコマダ・ユウコによると、メニューは週替わりで、伝統的な和食を中心にしているという。「外国の風変わりな」料理に慣れていないであろう高齢の患者に配慮しているのだ。

日本の病院食は高評価 Photo by 神戸赤十字病院


「患者は当然ながら、不安な思いを抱えています。手術や大事な検査を控えている人ならなおさらでしょう。ですから、患者のみなさんがご自宅で召し上がっているような食事をお出しするようにしています」。コマダは、同病院で働く医師や看護師らの意見を聞きながら、事前に1ヵ月分の献立を立てている。

神戸赤十字病院に限らず、日本の病院で出される食事は一般的に質がいいと評判だ。その背景には、すべての人が医療を受けられる国民皆保険制度の存在と、新鮮な食材で手作りしたシンプルな料理に重きを置く文化がある。

日本在住の外国人は近年、母国と比べて日本の病院食のレベルが高いことに注目するようになった。ある外国人女性が、産科に入院したときに提供された食事の写真を投稿すると、大きな話題になった。美しく盛り付けられたオムライスやマカロニサラダ、チキンスープ、イカリング、果物、緑茶が並び、どれもおいしそうだ。

洋食も充実している Photo by 神戸赤十字病院


コマダによると、すべての患者が食事に満足しているわけではない。量が少ないとか、ラーメンやフライドチキンなどのファストフードが食べたいとか、不満を口にする患者もいるという。「しかし、大半の患者は不平を言わず平らげてくれます」


スウェーデン


ストックホルム有数の規模を誇るストックホルム南総合病院は、6年前に大々的な文化改革を敢行。長い付き合いのある業者との契約を終了して、病院内に厨房を設けて新しいシステムを整えた。患者の食事はいまでは、病院内で調理して急冷し、必要に応じていつでも温め直して患者に提供できるようになっている。最大で10日間、風味や食感を失わず冷蔵保存が可能だ。

ご飯と揚げ野菜付きのチリビーンズ、チキンティッカマサラ(英国発祥のカレー)、クリームソースとマッシュポテト、蒸し野菜付きのミートボールなど、どれもできるだけおいしそうに見えるよう工夫をこらしている。ブロッコリーとグリーンピースのスープ、オムレツ、サラダ、果物、ブルーベリーチーズケーキといった軽食もある。

患者に提供されずに残ってしまった食事は、スタッフに割引価格で販売されている。この新体制が始まって以降、患者の満足度は急上昇し、フードロスは70%減った。

「心がけているのはシンプルな料理です」。案内してくれた食事サービス責任者で、調理師兼栄養士のリンダ・ハグダルはそう話す。

スウェーデンの病院内で食べられる食事 Photo by Uppsala University


パンケーキからパン、ミートボールまで、可能な限り手作りしているが、手間がかかりすぎないよう気を付けているそうだ。「食欲をそそるような料理であっても、手間がかかってはいけません。医療従事者に余計な負担をかけてしまいますから」

患者からは、食事の時間が1日のなかで何よりも楽しみだと言われるという(同病院で出産した筆者に言わせれば、まさしくそのとおりだ)。「患者は入院中、たくさんの不安を抱えています。ですから、食事が唯一、日常を感じられるひとときなのかもしれません」

スウェーデン国内では、病院食ならびに回復に欠かせない食事の重要性に関心が集まっている。スウェーデン食品庁が2022年に発表したガイドラインには、おいしそうに盛り付けられた食事はウェルビーイングの向上を促進するもので、「治療の重点事項」に含まれるべきだと書かれている。

ハグダルは、デジタル注文システムを導入して、患者が自分で食べたいものを選べるようにしたいと考えている。「エネルギーがなければ、順調に回復できません。起き上がることも、動き回ることも、回復もできなくなる。食事は治療の一環なのです」


オーストラリア


ハリー・アイルス=マン(29)は、2度の肝移植と各種の合併症により、シドニーにある主要な公立病院のひとつに50週以上も入院した。そうしているうちに、「水たまりに浮かんでいるような食事」に慣れてしまったという。

アイルス=マンが言うように、オーストラリアの病院食は一般的に評判が悪い。多くの州では、病院食の大量調理を民間企業に委託しており、冷凍されたものが病院に届けられる。病院内の厨房はいまや、調理師がおらず設備も整っていないため、冷凍食を温めるだけの場となってしまった。

再加熱すれば、一度凍った水分が融け出して食材が水浸しになるのはもちろん、食感や味も変わってしまう。肉や野菜はゴムのように硬くて噛み切れず、風味も飛んでいる。

しかし、病院食は患者のニーズに応じて提供されるべきだし、栄養と安全性の基準を満たす必要もある。アイルス=マンは自らの入院体験を踏まえ、健康に関する消費者保護活動を始めた。「患者は食べなければ栄養を摂取できませんが、そこに問題があるのです。病院で出される食事はまったく食欲をそそらないので、誰も食べたがりません」

オーストラリアで定番の病院食と言えば、グレービーがかかったチキンとマッシュポテト、蒸したニンジンだ。とはいえ、その味や盛り付けは場所によって大きな差がある。

公立病院では、再加熱されたせいでゴムみたいに硬い食材が、使い捨てプラスチック容器に載せられ、プラスチックのフタがかぶせられて出てくる。ナイフやフォークもプラスチック製、デザートの果物も別のプラスチック容器入りだ。一方、私立病院や一部の公立病院では、手作りの料理が陶器の皿に盛り付けられ、金属製のナイフやフォークとともに出てくる。

公立病院の食事の質向上を求める声が強まっているのは、栄養不良のせいで患者の転帰が悪化していることと関係があると話すのは、ロイヤル・ブリズベン&ウィメンズ州立病院の栄養士で、クイーンズランド大学の研究者でもあるエイドリアン・ヤングだ。

ロイヤル・ブリズベン&ウィメンズ州立病院の病院食 Photo by Royal Brisbane and Women’s hospital


クイーンズランド州では、病院食の調理を外部委託しておらず、ロイヤル・ブリズベン&ウィメンズ州立病院をはじめとする公立病院では、病院内の厨房で専属栄養士が監修した献立を調理できるようになっている。同病院は今後、「食事のオンデマンドサービス」を導入し、ホテルのルームサービスのように、患者が食べたいものを注文できるようにする予定だ。こうしたサービスをすでに始めている私立病院もオーストラリア国内にはある。

「長期入院し、うんざりするほどたくさんの病院食を食べ、人に言えないほどたくさんの食べ物を捨ててきた」と話すアイルス=マンは、そうした変化を喜んでいる。


イタリア


ローマにあるサン・カミッロ・フォルラニーニ公立病院のある日の昼食は、ズッキーニとスペック(生ハムの一種)入りのリゾット、牛肉、インゲン豆、桃、プラム、チョコレートプリン、黒パンだった。イタリアの典型的な病院食だ。夕食は軽めで、リゾットの代わりにスープが出る。

患者が何よりも楽しみにしているのは、一皿目のパスタか米料理だ。とはいえ、苦情は日常茶飯事である。病院食は、イタリア人が慣れ親しんでいる家庭料理とは違うし、すべての患者に行き渡るよう、大量調理されたメニューが夕方の6時から7時半と早めの時間帯に提供される。イタリアでは一般的に夜8時くらいに夕食を食べるので、時間が早すぎてなかなか食べられない患者もいる。

イタリアの病院食 Photo by Getty Images


クリスマスとイースター(復活祭)はごちそうで、ラザニアやパネットーネ(ドライフルーツが入ったクリスマスの菓子パン)、スプマンテ(スパークリングワイン)小瓶1本という、お祝いメニューがふるまわれる。

イタリアでは、食事はおもてなしの心で賑やかに楽しむというイメージがある。しかし病院では、患者が一人きりでトレイに並んだ食事を食べることになるため、和気あいあいとした雰囲気を再現するのは難しい。

そのため、患者がみんなで食べられるよう、ダイニングルーム導入という話も持ち上がっている。イタリア人はいつでもどこでも食べ物の話をしている。しかし、病院での食事中に食べ物のすばらしさを口にする患者はめったにいない。


ブラジル


ブラジルには27の州があり、それぞれ文化が大きく異なるが、病院食については共通点が2つある。1つめは、病院食はおいしそうではないと考えられていること。2つめは、アマゾン川を挟んだ北部であれ、遠く南下した地域であれ、ブラジル料理に欠かせないアホイス・コン・フェイジョン(お米と塩味の豆)が出てこない病院を見つけるのは至難の業であることだ。

リオデジャネイロ最大の公立救急救命センター、ソウザ・アギアル病院では、約350人の患者に毎日、朝食、昼食、午後のおやつ、昼食、夜食の5食が提供される。ブラジルでは昼食をしっかり食べる習慣があり、たいていは定番のブラジル料理が出される。筆者が訪れた日の昼食は、牛肉、カボチャ、チャヨテ(ハヤトウリ)に、もちろんアホイス・コン・フェイジョンが、プラスチック製の仕切り皿に盛りつけられていた。

ブラジルでよく食べられているアホイス・コン・フェイジョン Photo by Getty Images


同病院の厨房マネジャー、イーシス・カストロ・ダ・コスタによれば、これが典型的な食事だという。「お米と豆に、牛肉や魚、鶏肉などのタンパク質。鶏肉が多いですね。さらにサラダがつきます」。デザートは、プラムソース入りフランかスイカのどちらかだ。

お米と豆を別にすれば、病院食の質はまちまちだ。ブラジルにも、国民全員が加入できる統一保健医療システム(SUS)という公的医療保険制度があり、人口の70%が利用する。残りの30%は民間保険プランを通じて私立の医療機関を利用している。

どちらの制度であれ、状況はさまざまで、きちんとした食事が出る公立病院もあれば、劣悪なところもある。私立の医療機関では、有名シェフ監修のメニューが提供されるケースもある。

しかし、病院食は味気ないという悪評は消えない。味が薄く、ブラジル伝統料理のひとつである揚げ物や脂っこいものはめったに出ないからだ。

とはいえ、栄養士でもあるパトリシア・シュペリジョン教授は別の要因を指摘する。「結局は経費の問題です。ブラジルの医療は公立であれ、私立であれ、財源が足りていません。そして、予算不足や利益最大化のためにコスト削減を迫られるのは厨房なのです」とシュペリジョン教授は言う。

「こうした状況下で栄養士の仕事をこなすのは容易ではありません。ですから、私は学生に対し、病院食は何よりも患者の尊厳を尊重し、心を込めて調理するべきだと指導しています」と言い、こう続けた。「病院食だから味気なくてもいい、などということはありません」

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