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銅線と分離したワイヤハーネスの被覆材。細かく切断せずに回収できる
世の中には、リサイクルできていない製品がまだ多い。電気信号を伝えるワイヤハーネス(WH)ケーブルもその一つだ。内部の銅線はリサイクルができているが、塩化ビニール製の被覆材がネックとなっている。東北大学大学院工学研究科の熊谷将吾准教授は有機溶媒によって被覆材を膨らませ、きれいに分ける方法を見いだした。将来、WHケーブルの100%リサイクルが実現する可能性がある。(編集委員・松木喬)
熊谷准教授が研究のターゲットとするのが、自動車用WHケーブルだ。車体に大量に使われている。しかも細いWHケーブルが多く、中には直径1ミリメートル未満の極細もある。
送電に使われる太いケーブルは、被覆材を切り裂いて内部の銅線を取り出せる。一方、細いWHケーブルは粉砕すると被覆材の端材に銅の粉末が混ざってしまう。

異物はリサイクルにとって大敵。廃プラスチックは粉々にして再生樹脂(フレークやペレット)にすると、商品材料として再利用できる。しかし再生樹脂に異物が混ざると商品がもろくなるなど、品質が低下する。被覆材を塩ビ製品材料に再利用するには、銅の粉末の混入を防ぐ必要がある。
そこで熊谷准教授は「WHケーブルを細かくせず、銅線と被覆材を剥離する方法」を検討し、開発したのが2段階で分離する技術だ。まず、使用済みのWHケーブルごと有機溶媒に浸し、被覆材を膨潤させて容積を増やす。銅線と被覆材に隙間を生じさせて分離しやすくするためだ。開発では「被覆材が溶けずにほどほどに膨らむ」条件を探求し、「溶けないギリギリが比重ベースで3倍の膨潤」と導き出した。溶媒には酢酸ブチルとアセトンを選び、溶媒に浸す時間も最適化した。
次に、膨らんだWHケーブルをボールミルに入れる。ボールミルは回転容器内で硬質ボールを衝突させて材料を粉砕する装置。膨潤したWHケーブルを入れた装置を回すと、ボールの振動によって被覆材から銅線がすべり出る。ボールや回転速度も最適にした。銅線と分かれて内側が空洞となった被覆材を回収できるので粉末の混入を防げる。
今後、環境再生保全機構(川崎市幸区)の支援を受け、ボールミル装置の適切なサイズを探るパイロット機を設計する。
社会実装に向けては「剥離を誰がやるのかが一番のポイント」であり、リサイクル事業者や電線メーカー、コンパウンダーのほか、有機溶媒の再生事業者も考えられる。被覆材には塩ビを柔らかくする可塑剤が入っており、有機溶媒に浸すと可塑剤が抜け出す。有機溶媒を再生する蒸留時に可塑剤を回収できる。熊谷准教授は「ボールミルで分離した被覆材と回収した可塑剤を使い、WHケーブルを再生することが最終ゴール」と語る。
欧州連合(EU)では、新車に搭載するプラスチックの20%を再生材にする「ELV規制案」が提案されている。しかも再生材の15%は廃車由来を求めている。WHケーブルからWHケーブルへの資源循環は、規制対応の強力な武器となりそうだ。
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