2025年4月8日火曜日

室温に近い温度でスルフィドからスルホンを選択的に合成-高性能な六方晶ペロブスカイト酸化物ナノ粒子触媒を開発- 2025年4月 7日 14:00 | プレスリリース・研究成果

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/04/press20250407-02-Oxygen.html

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/04/press20250407-02-Oxygen.html


【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 熊谷悠
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 酸素分子のみを酸化剤として使用し、

  • 室温に近い温和な条件でスルフィド酸化を

  • 実現。

  • スルフィドからスルホンへの酸化が

  • 99%以上の選択性で進行。

  • 多元素の組み合わせによる協奏効果を

  • 活用し、触媒の貴金属量を大幅に削減。


【概要】

 東京科学大学(Science Tokyo)*総合研究院 フロンティア材料研究所の鎌田慶吾教授と和知慶樹特任助教、東北大学 金属材料研究所の熊谷悠教授らの研究チームは、マンガン(Mn)、ストロンチウム(Sr)、ルテニウム(Ru)を組み合わせたペロブスカイト酸化物(用語1)が、酸素分子(O2)のみを酸素源として、硫黄化合物であるスルフィド(用語2)を有用なスルホン(用語3)へと効率的に変換できることを発見しました。

 酸素分子を酸化剤とするスルフィド酸化は高難度反応の一つであり、新しい固体触媒の設計と開発が切望されていました。特に、スルフィドからスルホンへの酸化では、酸素分子を触媒表面で活性化し、スルフィドの硫黄原子へ二つの酸素原子を効率的に移動させる必要があります。従来の触媒では、スルホンを選択的に合成するためには80℃から150℃程度の高温や多量の貴金属を必要とすることが課題でした。

 本研究では、面共有酸素構造(用語4)を持つ六方晶ペロブスカイトSrMnO3に着目し、Ruを少量添加(ドープ)したナノ粒子触媒(SrMn1xRuxO3)を設計しました。その結果、本触媒は室温に近い30℃でスルフィドを選択的にスルホンへと酸化することを見出しました。Ruをわずか1%ドープしただけでも触媒性能が飛躍的に向上するため、貴金属の使用量を大幅に削減することに成功しました。また、実験化学と第一原理計算(用語5)を駆使したアプローチによって、RuドープがMnを架橋する面共有酸素の反応性を増大させ、高効率なスルフィド酸化を実現する反応メカニズムを明らかにしました。本研究は、結晶構造の制御と多元素化の組み合わせにより、高性能な酸化物触媒を設計するための重要な指針を示します。

 本研究成果は、4月3日付で米国Wiley社「Advanced Functional Materials」に掲載されました。

SrMn1−xRuxO3ナノ粒子触媒によるスルフィドの酸化反応

【用語解説】

用語1.ペロブスカイト酸化物:一般的にABO3という組成式を持つ遷移金属酸化物などの結晶。元素の構成により、物理・化学的性質を制御できるため、圧電体、強誘電体、磁性体、超伝導体、触媒などの分野で広く研究されている。理想的には頂点共有酸素構造のBO6の間に12配位のAがある立方晶構造であるが、Aがイオン半径の大きいアルカリ土類金属イオンの場合は面共有酸素構造を持つ六方晶構造になることがある。

用語2. スルフィド:スルフィドは−2価の硫黄原子が2個の有機官能基を結合した有機化合物である。スルフィド酸化は石油や天然ガス中から硫黄成分を除去する脱硫反応としても注目されている。

用語3. スルホン:スルフィドが酸化され、硫黄原子に酸素原子が2個結合したもの。医薬品、溶媒、機能性ポリマーなどとして使われる。

用語4. 面共有酸素構造、頂点共有酸素構造:酸素原子6個に囲まれた金属Mは、頂点と中心にそれぞれ酸素と金属を位置させた正八面体MO6で表すことができる。MO6八面体同士が頂点で結合したもの(金属同士が酸素原子1個で架橋)を頂点共有酸素構造、面で結合したもの(金属同士が酸素原子3個で架橋)を面共有酸素構造という。

用語5. 第一原理計算:実験で得られた結果を参照しないで構成元素と構造のみをパラメーターとし、系の電子状態やエネルギーなどを求める計算手法。

【論文情報】

タイトル:Advanced Functional Materials
著者: Oxygen Defect Engineering of Hexagonal Perovskite Oxides to Boost Catalytic Performance for Aerobic Oxidation of Sulfides to Sulfones
*責任著者:Keiju Wachi*, Masashi Makizawa, Takeshi Aihara, Shin Kiyohara, Yu Kumagai, Keigo Kamata*
掲載誌:The Journal of Physical Chemistry C
DOI:10.1002/adfm.202425452

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
教授 熊谷 悠
TEL: 022-215-2106
E-mail: yukumagai*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
E-mail: press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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