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図1 日本から続々と誕生しているPLA製品
図1 日本から続々と誕生しているPLA製品
金型や成形の技術力の高さがそれを後押ししている。(写真:日経クロステック)
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 世界で普及が進むバイオプラスチック(以下、バイオプラ)。中でも、金型や射出成形機、周辺装置の技術において日本が優位に立つのが、トウモロコシやサトウキビ由来のポリ乳酸(PLA)の分野だ。今、この分野の技術進化が著しく、海外では造れない形状や外観デザインの製品(成形品)が日本企業から次々と生まれている(図1)。

図2 日進精機のPLA製のコップ「PLAグラス」
図2 日進精機のPLA製のコップ「PLAグラス」
0.65mmの薄さと奇抜な外観デザインが特徴。左が「Bio7(Hepta)」で、右が「4Tiers」。このうちBio7(Hepta)は体積が350mLとPLA製容器で最大。(写真:日経クロステック)
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 図2は、アルコールやジュースなどの“飲み口”を良くしたPLA製のコップ。ガラスのように透明性が高い外観から「PLAグラス」と業界では呼ばれている。開発したのは日進精機(東京・大田)。精密な部品や順送金型を手掛けることで知られる同社が、海外、中でも「米国において急速に高まるバイオプラの波」(同社)を捉えて、このPLA分野に参入した。

 開発した製品は2つ。1つは、「Bio7(Hepta)」と名付けたもの。底面を7角形にし、上に行くに従って断面が円になるように断面形状を徐々に変化させた外観デザインとした(図3の左)。

図3 Bio7(Hepta)の底面(左)
図3 Bio7(Hepta)の底面(左)
7角形となっている。底面の中央のゲートからの流動長が135mmもある。(写真:日経クロステック)
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 厚さは0.65mm。超臨界二酸化炭素(CO2)をPLAに溶解させ、溶融時の流動性を高めて射出成形する技術を採用。併せて、成形品とランナーを機械的に切断するバルブゲート方式のホットランナーを使った。これらに同社の金型のノウハウを組み合わせた。具体的には金型の構造や加工プロセスを工夫し、精密な磨きの技術を投入して金型を製作した。

 PLAの射出成形用金型について、同社は「プレス用金型と比べると、熱伝導率の高い入れ子を使うなど温度管理が難しい」と語る。加えて、耐腐食性を高めるために、「通常の射出成形では使わない鋼材を金型に使っている」(同社)という。

 こうした工夫により、日進精機は135mmと長い流動長を確保。PLAグラスの体積を350mLとした。これは現在、PLA製容器として最大の体積であるという。大きさは、口径91×高さ105mmとなっている。

 PLAは溶融時の粘度が高く流動性に劣るため、特に薄肉成形品の場合はキャビティーへの充てん不良が目立つ。従って、流動長の確保が難しいという課題がある。実際、十分な成形技術や金型技術を持たない海外では、PLAグラスのような薄肉でありながら強度や剛性の高い容器は、現在までのところ登場していない。「剛性の低い成形品、もしくは厚さが1mmを超える肉厚の成形品ばかりだ」(同社)。

 もう1つのPLAグラスは「4Tiers」と呼ぶもので、これは外観デザインを4段形状としたのが特徴(図2の右図3の右)。ここまで段数が増えると、射出成形時の充てん圧力の調整が難しく、適正値からわずかに大きいと成形品が潰れたり、金型に貼り付いて外れにくくなったりするという。

 これらのPLAグラスを日進精機は2024年7月1日に発売した。

世界最薄の0.53mm

図4 三義漆器店のPLA製デザートカップ
図4 三義漆器店のPLA製デザートカップ
厚さが0.53mmで世界最薄。透明度も高い。(写真:日経クロステック)
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 図4、5は、三義漆器店(福島県会津若松市)が開発したPLA製デザートカップ。最大の特徴は、厚さが0.53mmと世界で最も薄いPLA製容器であることだ。大きさは、開口部が約65mm角で高さが約60mm。既に開発済みのPLA製コールドカップの断面が円筒形であるのに対し、新しいデザートカップは断面が正方形となる外観デザインとした。

 超臨界CO2を使う射出成形技術の使用に加えて、植物細胞壁の主要成分の1つであるヘミセルロースをPLAに添加する工夫を施した。こうした技術の組み合わせにより、肉厚がここまで薄くても成形不良を起こさない加工を可能にした。2024年8月1日からB to B(企業向け)を中心に販売を開始する計画だ。

図5 PLA製デザートカップの形状
図5 PLA製デザートカップの形状
断面を正方形にし、上に行くほど広がる外観デザインとした。(写真:日経クロステック)
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欧州高級ブランドを超える環境性

 図6、7は、豊栄工業(愛知県新城市)が開発した化粧品容器(クリームジャー)だ。容器と蓋に自然由来の材料を100%使いながらも、高い耐熱性を備えている。

図6 豊栄工業のPLA製化粧品容器(クリームジャー)
図6 豊栄工業のPLA製化粧品容器(クリームジャー)
120℃の耐熱性を備えており、ABSと同等以上の耐熱性及び耐衝撃性を持つ。(写真:日経クロステック)
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 材料には、PLAに粒径が20~30nm程度の粘土(層状ケイ酸塩)を10質量%程度混ぜたものを使った。微細な層状ケイ酸塩の各粒の周りにPLAの結晶が成長していき、最終的には2~3割ほどのPLAが結晶を作ることで耐熱性が得られる仕組みだ。新しい化粧品容器は120度(℃)までの熱に耐え、生産ラインにおいて加熱した化粧品の材料を投入できる。同社は「アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)と同等以上の耐熱性及び耐衝撃性が得られる」と語る。

図7 PLA製化粧品容器と蓋
図7 PLA製化粧品容器と蓋
容器も蓋もバイオプラ化し、より高い環境性をアピールする。(写真:日経クロステック)
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 欧州では高級ファッションブランド(以下、高級ブランド)を中心に、化石資源由来プラスチックをバイオプラに置き換える動きが進んでいる。だが、化粧品の容器と蓋の両方をバイオプラに切り替えた例は、現時点では見られない。ある高級ブランドは、ガラス容器の蓋にPLAを採用したものの、自然由来材料100%にはできなかった。代わりに採用したのは、PLAが60質量%、化石資源由来のポリプロピレン(PP)が40質量%のポリマーアロイだ。その蓋を成形した海外企業が、PPを使わないと機械的強度や耐熱性、耐衝撃性などが得られなかった、あるいは成形そのものができなかったと見られる。

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