2017年01月 22日
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中村 陽子 :東洋経済 記者 /author-list
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永守重信社長の下で「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」を体現する文化が浸透している(撮影:今井康一)
2050年、日本の総人口は24%減り、 15~64歳の生産年齢人口に至っては 40%も減少してしまう。国内需要が急収縮し、世界市場は中韓台勢が台頭するレッドオーシャン。そんな苛烈な時代こそ、「スピードと徹底」の日本電産流カルチャーが武器になると力説する。『日本電産流「 V字回復経営」の教科書 』を書いたDANTOTZ consulting代表の川勝宣昭氏に詳しく聞いた。
意識改革、企業カルチャーを変えろ
──日本電産といえば、買収した五十数社すべてをほぼ1 年以内に黒字化させてきた会社ですね。
再建に向かう際、永守重信社長から真っ先に言われるのが、意識改革、企業カルチャーを変えろ、です。再建メソッドに対する受容マインドをまず上げておく必要がありますから。そしてA3の紙を 1枚ポンと渡される。日本電産芝浦の再建のときは「1年以内の売上高倍増」、そしてたった 1行「営業マン1人当たり訪問件数月 100件」と書いてあった。月20件だったのを 100件に上げれば、引き合いは増え受注件数は増え、売上高は上がる。従業員全員をやる気にさせる、そこを徹底するカルチャーにするのです。
日本電産のスピード感覚はハンパなものじゃない。会社全体にスピード感が行き渡り浸透している。見積もり作成に1週間もかけるな、より早く、ライバルよりも断然早く。他社なら 1カ月かかる試作品も1週間で仕上げろと。ライバルはついていけなくなり次々脱落していった。最終的には精密小型モーター世界シェア 80%を達成するわけですが、競合が消えても手を抜くことがない。会社のDNAとしてしみ付いているわけです、スピード感覚が。
そして会社の機関車は営業、開発・工場は支援部署。市場にいちばん近い部門が会社を引っ張れと。
──本書でもその営業強化策に紙幅を割いていますが、中でもフォローの重要性を強調されていますね。
川勝宣昭(かわかつ のりあき)/1942 年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、日産自動車入社。中近東アフリカ事業本部部長、南ア・ヨハネスブルク事務所長など歴任。98年日本電産にスカウト移籍。取締役経営企画部長(M &A担当)を経て、日本電産芝浦専務、日本電産ネミコン社長歴任。2008 年経営コンサルタントとして独立。(撮影:梅谷秀司)
トヨタ自動車がなぜあれほど強いか。トヨタは「カンバン方式」などメソッドの宝庫です。でもそれと同等以上にフォローの強さがある。未達に対して徹底的な再発防止策を講じる。日本電産にも未達を許さないカルチャーがある。未達しないための準備を重ねる。売上高計画達成が微妙なときに、未達は不可というカルチャーが浸透してると、どうしたらいいか必死で考えますよね。既存領域でまだ拡販余地はあっても、新規客の訪問をかけようとか。あるいはまったく違う提案をしてみようとか。営業マンがどんどん考える営業マンになります。それが大事で、それがフォローの重要性なんです。
強化策のひとつに、週次管理があります。1週ごとに月末着地見込みをにらんで、未達の可能性があれば挽回策を練る。着地をブレさせない。
私がいた頃の日産自動車の年度方針発表会は、業績未達の説明に精緻な図表を作成し、いかに納得させる他責要因ストーリーを組み立てるかに心血を注いでいました。ところが日本電産では、過年度説明は1欄、 ○△×のみ。簡潔クリアに説明して、大半は新年度目標に向かってどう戦うかの作戦説明に割かれていた。経営者の「未達をしない体質にする」という決意とマネジメントスタイル、組織の中にどれだけフォローの仕組みを組み込んでいるかの違いを見る思いでした。
1週ごとに全社で行うフォロー管理の仕組みが、社員の日常業務管理力を向上させ、後戻りしない体質を作っていたんです。まさに日本電産の看板である「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」を体現している。言い換えれば、スピードの文化、必達の文化、フォローと徹底の文化が浸透していた。
組織体質を変える一番の早道は
──カルチャー改革の早道は「形」から入ること、とか。
その第一歩が、まず訪問件数を100件に上げろ、なわけです。整理・整頓・清掃・清潔・しつけの「 5S」もしかり。まず実践の場で形、行動から入らせる。それを繰り返して固め、思考様式を変えていくことが、組織体質とカルチャーを変える一番の早道です。会社の改革は人の改革ですから、着慣れた服を脱いで新しい服に着替えてもらわなきゃいけない。それは着づらいし着たくないかもしれない。でもそれじゃ変化はない。韓国・中国のような、コピーも速い一点突破・集中型ガムシャラ経営が台頭するレッドオーシャン時代には、スピードと徹底を身につけないと蹂躙(じゅうりん)されてしまう。
──よきメソッドはよきカルチャーの下でこそ光を放つ、と。
そうです。本を書くに当たっていちばん思いを込めたのが企業カルチャーの変革についてでした。なぜ皆がこぞってトヨタをまねてもトヨタになれないのか。問題は企業カルチャーなんです。トヨタ流の「なぜ?」を5回繰り返すフォローの文化なしに、いくらカンバン方式を入れても定着しない。かつて日産も研究し尽くして導入したけどダメでした。 GMもダメだった。どちらも苗が生き生きと育つための土壌改良をしていなかったから。それと同じことです。
どの会社にも必ず問題意識が高く改革に前向きな少数派の"火種社員"がいるものです。経営者は彼らをまず自陣に引き込みタッグを組んで、彼らを改革のモデルとすることでその他大勢のヒラメ社員に新しいカルチャーを浸透させていく。私の経験上この方法がベスト。社長がいくらガナリ立てても変わらない。
「見える化」が改善の切り口に
──明日から実践できる作戦満載の本ですが、特に重視した点は?
『日本電産流「V字回復経営」の教科書』(東洋経済新報社/ 318ページ)上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
課題を図表で「見える化」し実践メソッドを紹介すること。日本電産時代に、病巣はどこなのか、どうメスを入れるべきか、レントゲン写真が欲しくて、多様なパターンの図表や見える化マップを独自に創作し用いてきました。見える化することで、改善への切り口がわかります。自社の現実を図表化して見せるとみんな乗ってくる。たとえば市場構造に対し当社の顧客構造はズレている、というのが 1枚の図表で明らかになる。
最初は中小企業の経営者を念頭に置いていましたが、だんだんとマネジメントの進化を求める管理職にも伝わる本がいいと思うようになった。それで改革メソッドを提案する章は、オリジナルの2面パレート図などを駆使し厚みを持たせました。営業に回るべき 100件をどう選ぶかもきちんと分析・抽出できるようにした。自分で言うのも何ですが、見えていなかった部分の見える化をハンパなく提案したつもりです。
「ここまでやれば必ず変えられる!」がこの本の宣伝文句。日本電産時代の買収先の再建、独立してからのコンサル活動を通して、会社は変えられるという変なクソ自信がついちゃいましたね。独立する際に永守さんに書いた「たった7 年在籍しただけの日本電産で学んだものは、三十数年いた日産の数百倍以上だった」というのは本当の気持ちです。
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