長時間労働の抑制を目的に政府が取りまとめた残業の上限規制では、1カ月の特例上限が「100時間未満」とされた。はたして1カ月で計100時間の残業というと、どんな暮らしになるのだろうか。労働法制に詳しい専門家と、シミュレーションをしてみた。 (三浦耕喜)
一緒に考えてもらったのは、名古屋北法律事務所(名古屋市)の白川秀之弁護士。過労や残業代未払いなど、多くの労働裁判を手掛けている。
「百時間残業」はどんな生活リズムとなるのか。例として、来月の二〇一七年四月でみてみよう。
週休二日として、土日祝日を除くと、四月の労働日数は二十日だ。労働基準法で定める基本の労働時間は一日八時間、週四十時間。一カ月では百六十時間だ。一日のリズムでいえば、昼に一時間、休憩したとして、午前九時に出勤し、午後六時に退社すれば労働時間は八時間。いわゆる「定時」の働き方だ。
仮に通勤時間を片道一時間とすれば、午後七時には自宅に帰ることができる。家族で夕食を共にすることも可能だろう。
「では、これに『百時間残業』を当てはめてみましょう」と白川さん。百時間を労働日数の二十日で割れば、残業時間は一日五時間となる。午後六時以降にこれを加えると、午後十一時まで働くことになる。夕食時に休息を取れば、これも労働時間にはカウントされない。「忙しくて、夕食は職場でぱっぱと済ませる人も多いでしょうが、午後十一時を過ぎても働くという状態にもなり得ます」と解説する。
通勤時間も労働時間には含まれない。同様に片道一時間とすれば、帰宅は午前零時を過ぎることにもなりかねない。家族のだんらんの余裕もなくなる。
翌朝に出勤のため家を出る時間は午前八時。そうすると、着替えや入浴、食事、身支度、家事など生活に必要な時間は、帰宅から翌朝の出勤までの八時間で済ませなくてはならない。
八時間は人間として理想的な睡眠時間とされる。だが、家に居る時間そのものが八時間しかない。「結局、睡眠時間を削って、必要最低限の家事をすることになります。よくて床に入って五、六時間というところでしょうか」と白川さん。
余談ながら、記者は過労で倒れたことがある。その経験から考えると、仕事のストレスが高まれば、脳の興奮は続いて、横になってもすぐには寝付けない。そのまま白々と夜が明けていくのは、何ともやるせない気持ちになる。
「週末は疲れ切って、ひたすら休むような状態。洗濯や掃除など、たまった家事も土日に済ませなくてはならない」と白川さん。土日は休みでも、自分の時間を楽しむにはほど遠い。
政府の案では、残業について「二~六カ月の月平均八十時間以内」も認める方針だ。では、残業が月八十時間ならどうか。白川さんは「帰宅が一時間早くなる程度です。それが半年続くことになります」という。さらに、「繁忙期となれば実際は土日のうち、どちらかは出てきて働くという職場が多いのではないでしょうか。ますます身にはこたえるでしょう」。
白川さんは「すでに心疾患で死亡した労働者について、発症前一カ月の時間外労働が八十五時間余でも過労を認めた判例がある。上限規制は、厚生労働相告示で定める月四十五時間に基づくべきだ」と話している。
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