2017年3月2日木曜日

農業 「減反廃止」は実際には減反強化


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エサ米への転作は新たな貿易摩擦を生むかもしれない=岐阜県海津市の水田

エサ米増産で新たな貿易摩擦の可能性も

 コメの「減反政策」が廃止されるとして大きく報道されてから3年近くが経過した。しかし、減反廃止ならば、本来は低下するはずなのに昨年度の新米の価格は前年度より高くなった。エサ米の生産にシフトし、食用米の需給が引き締まった結果という。「減反廃止」となる2018年度からはこの傾向にさらに拍車がかかりそうだ。その一方で、エサ米の生産急拡大は、飼料用穀物の輸入減少につながる。「減反廃止」は新たな貿易摩擦の火ダネとなるかもしれない。

 まず、「減反廃止」をめぐる動きを振り返ろう。13年10月24日に開かれた政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)で、農家に補助金を一律支給する戸別所得補償制度を抜本的に見直す議論を始めた。

 当時の新聞記事は、「競争力会議の農業分科会で、改革案を提示。改革案は『補助金をゼロベースで見直し、農家の意欲と創意工夫を高める』と指摘。コメ農家に10アール当たり1万5000円を支給する補助金を来年度に廃止▽減反を16年度から廃止--などを求めた」と報じている。

 そして1カ月後の11月22日の産業競争力会議が開いた課題別の会合で、コメの生産調整(減反)を廃止するなどの農政改革案に関して安倍首相は、「農政に必要不可欠なものと考えている」と述べ、政府の農林水産業の活性化策に反映させるよう指示した。

 その4日後に開かれた政府の農林水産業・地域の活力創造本部(本部長・安倍首相)で、コメの生産調整(減反)を5年後の18年度をめどに廃止する方針を正式決定した。新聞は、「国が各農家に生産量の目標を配分する制度から、生産者や農業団体が需要に応じた生産量を判断する仕組みに移行する。1970年の減反政策の本格導入以来、ほぼ半世紀ぶりのコメ政策の転換となり、コメ生産は自由競争時代に移る」と強調した。

 アベノミクスの第3の矢である成長戦略では、攻めの農業を掲げ、農産物の輸出拡大をめざしている。コメについても、内外価格差が縮小してきており、コメ農家を集約して大規模化すれば、生産性の向上により生産コストを引き下げることができる。国産米はもともと品質が高いこともあって、価格競争力がつけば輸出も可能となる。

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 当時の報道を見て、そう考えた人も多かったはずだ。しかし、昨年度の新米価格の動きを見るとベクトルは逆に向いている。

 「減反廃止」とメディアが報じる一方で、18年度からの農政見直しを先取りする形で、食用米については減反をさらに強化する施策が採用されていることが背景にある。

 コメ余りの中で米価を維持するには、供給量を削減する必要がある。そのため、減反政策がとられた。その手段は、コメ以外の農産物に転換する転作奨励金だった。

 ところが、民主党政権が誕生し、10年度から戸別所得補償が導入された。所得補償を受けるには減反に参加する必要がある。これをバラマキ政策だと批判した自民党は、政権に返り咲いた後に戸別所得補償をやめることにした。

 減反参加が条件であるからといって、戸別所得補償の取りやめがそのまま「減反廃止」につながるとは限らないはずだ。しかし、競争力会議の農業分科会で提示された改革案には「減反廃止」が明記され、それを実施するように安倍首相が指示し、18年度から農政改革が始まることになったことから、当時のメディアは「減反廃止」にスポットをあてて大きく報じた。

 しかし、実際には、18年度からの農政改革のポイントは、戸別所得補償の廃止で浮いた補助金を注ぎ込み、食用米の生産をエサ米に転換することを大々的に進めようということだった。

 米粉やエサ用の非主食用のコメづくりも転作とみなし、減反補助金を交付する制度は09年度から始まった。麦や大豆などの畑作に転換するより、水田のまま耕作を続けられるエサ米は、手間がかからない。零細なコメ農家にとって好都合だ。

零細コメ農家を温存

 主食用のコメを栽培したのと同様の収入が得られるように補助金は10アール当たり8万円と設定された。それを18年度からは10万5000円に引き上げる。これは主食用のコメで得られる収入とほぼ同じといい、米粉やエサ用に栽培したコメをタダで販売したとしても、コメ農家は従来と同様の収入が得られる。もちろんタダということはないことから、主食用のコメより非主食用のコメをつくった方がコメ農家はもうかるということになってしまう。

 そうなると、主食用のコメの需給はさらに引き締まることになり、消費者は現在より高い米価を払わされることになりかねない。

 しかし、主食用のコメの価格が上昇すると、現在でも安いコメの確保が難しくなっている外食や給食などの事業者は困ってしまうだろう。それについては別途、手当てがしてある。

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について政府は、コメの関税を維持することで合意したと、成果を強調している。ただし、これには条件が付いている。現在のコメの最低輸入義務(ミニマム・アクセス)の枠外で、米国と豪州産のコメの輸入枠を設定した。

 主食米の国内価格が上昇した場合でも、この別枠が緩衝帯となって、外食や給食用の割安のコメが確保できるというわけだ。

 減反廃止による競争促進が実現すれば、米価の値下がりという恩恵を受けるはずの一般消費者にとっては、期待はずれと言うことだろうが、零細なコメ農家をこれまで通り保護しつつ、外食などの業者に配慮した形となっている。

 しかし、これが別の摩擦を生むかもしれない。コメ余りのため農業試験場など公的機関で収量を増やす品種改良は事実上タブーとなっていた。しかし、民間企業では自由だ。バイオ技術を使い、多収量米の研究が進み、エサ米の増産が進めば、飼料用穀物の輸入量が減少するかもしれない。

 国が膨大な補助金を投入し、世界的にも例のないコメ飼料の増産により、日本の飼料穀物市場から排除されることになれば、海外の事業者は反発するだろう。

 「減反廃止」の行方が気がかりだ。

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